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4.受注キャンセルなんて言語道断!(しかし不気味な笑顔で承諾)
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しおりを挟む「・・・・どのくらい、定番のパンプスは在庫があるのですか?」
「何時もお買い上げ頂いている鉄板のものなら、在庫が五千足弱ほど」
「解りました。それは全部フクシで買いましょう。現金が良いですよね? 掛け(当月締めの翌月払い)が苦しいなら、すぐ振込みさせます。いかがですか?」
「それは大変助かります。では、早速請求書を作ってお送りしますので、宜しくお願い致します。即金だと大変有難いです」
工場経営は、相当苦しいようだ。だから工場を閉める覚悟を決めたのだろう。かつての父が、金策に走り回っていたあの時のように。
今の高丸さんの姿を見ると、他人事とは思えない。でも、私には高丸さんの工場を救えるだけのお金なんか持っていない。雀の涙ほどの貯金があるだけ。赤字経営の工場には、焼け石に水。何の足しにもならない程の金額だ。
「倉庫代もかかるでしょう。すぐにこちらの倉庫に送って下さい。請求書が届き次第、振込みしておきます」
「ありがとうございます。社長には何から何まで世話になりました」
「苦しい時はお互い様です。フクシが大変な時、融通を利いて助けて下さったのは、高丸社長でしょう。しかし・・・・大変残念です」
「ここ数年で、海外製の安い製品が沢山入ってきたでしょう。まあ、うちの商品も半分メイドインチャイナですけどね。それでも国内縫製に拘って、スギウラのいいゴムと合わせて鉄板のパンプスは作っていたんですけど・・・・どうにも、ね。勤務する連中も年寄りばかりになりましたし、不況の波にも勝てません。いい機会だと思って、これ以上苦しくならないうちにと、決断しました。今ならまだ、工場や会社に在庫を処分すれば、赤字も最小限で抑えられそうですから」
「そうですか。解りました。何かこちらで力になれる事があれば、手伝いますので遠慮なくお伝えください」
「ありがとうございます。それでは、失礼します」
高丸さんは何度も頭を下げ、恰幅の良い身体を揺らしながら退席した。私と社長は彼をフクシの玄関先まで見送った。
そういえば高丸さん、少し痩せた。恰幅のいい身体はまだ健在だけれど、以前はもっとどっしりしていたのに。
今・・・・金策が辛く大変なのだろう。
高丸さんの車が社を出るまで見送った。ああ・・・・本当に残念だ。今履いている私のパンプスは高丸さんが作ったパンプスで、ハイヒールなのに歩きやすくて、尚かつ履きやすいのだ。愛用しているファンは私以外にも多い筈。なくなる前に、ストック買っておこう。もうこのパンプスが手に入らないなんて、靴好きの私にとっては辛い。
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