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2.惚れた完璧執事が、どうやら正真正銘の鬼だった件。
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しおりを挟むしかし、しかーし!
諦めたらそこで試合終了!
鬼をギャフンと言わせるまでは、頑張らなければ!
想像してみて?
あの鬼が『美緒様。数々の無礼、本当に申し訳ございませんでした。煮るなり焼くなり、どうかお好きに』って言う姿!
絶対見たいじゃん!
それ見て、私に逆らうからよ、オーホホって高らかに言いたいじゃん!
じゃ、お好きにしてあげる、って本当に私が焼いて食べちゃおうかしら。
うふふ。楽しみ!
それまでは負けるもんか!
任侠世界ではね、一度言い出した事を途中で投げ出す奴はだめ。根性が入っていないの、根性が! 気合入れろコラって怒られる案件だから!
私は誰よりも根性あるからね!
それはもう、大根みたいに根は強いわよ!!
そうして負けず嫌いの性格が災いし、翌日も地獄を見る羽目になる――
※
「あ“――!! イタイイタイイタイ!!」
翌日、夜。
ボロボロになった私を介抱してくれるのは、心優しき姉。
窮屈なコルセットでバッキバキになった背中、腰。歩く姿を練習して力入りまくりのパンパンになった脚。淑女になるための百か条みたいな、マナーの極意を基礎からみっちり隙間なく詰め込まれた頭。全部パンク寸前だった。
私のさっきの叫びは、きっと屋敷中に響き渡っている事だろう。
「もっと優しく貼ってっ」
背中に冷シップを貼ってくれる姉に、私は八つ当たりで思わずキツイ口調で言ってしまう。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ! もう、なんなの、あの鬼! どうかしてるよ!!」
「わかるー」
「嫌ならお辞めになられても構いませんよ、とか目が笑っていない顔で言われて、すんごい悔しかった――!! 絶対、絶対絶対、ぜーったい諦めないから! っ、ぐっ・・・・いたた・・・・」
叫ぶと腰に響く。
「悔しいよね。すっごい気持ち解る! でも、そのうちできるようになるよ。コツさえ掴めば簡単よ」
ベッドでひいひい言っている私から離れたお姉ちゃんは、部屋の端から優雅に歩き出した。
「えー、歩くの綺麗」
「でしょ? 鬼松の特訓の賜物だから。最初は全然できなくて、鬼にしごかれたもん」
「お姉ちゃんと同じかぁ。じゃ、私も頑張れば出来るかな」
「美緒ならできるよ。ド根性あるから」
「だよねー。見てろよ、鬼。ギャフンと言わせてやるんだから!」
「美緒。もう少し言葉遣い丁寧にした方がいいよ。そういうのも、鬼は煩いから」
「そだね。気を付ける」
姉とは『中松さん』じゃなくて、『鬼』と呼び合っている。いや、マジで鬼だから。修業したらわかる。あの鬼ぶりは酷い。鬼畜だ。とにかく初心者にさえ容赦がない。
お姉ちゃんと話をしていると、コンコン、とノックが掛かった。私がくたばっているものだから、お姉ちゃんが代わりに出てくれた。「はい?」
「あ、伊織様。いらしていたのですね。美緒様の具合はいかがでしょうか?」
――噂をすれば、鬼!
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