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SOUL2・冨永真実

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「真実、そんなにまでAのヤローの事・・一途な女だなぁ・・・・!! ううっ」

 大祐は真実の話を聞き終え、涙を流した。

「でも真実。Aのヤロー、オメーに対してスゲー酷いじゃねーか! そんな奴の為なんかに死んだりしたら駄目だ!! 少しでも長く生きて、もっと違ういい男を見つけろよ!!」

 真実は静かに首を振った。『Aは、酷い男性なんかじゃないよ』

「真実・・・・」

『Aは初めて、私のこと可愛いって言ってくれたの。彼は生きる楽しさを私に教えてくれた。何も無い毎日から、私の事を救ってくれたの。だからお願い、死神さん。力を貸して下さい』


 真実が頭を下げた。


「真実、それがオメーの望みなのかよ。解った。とりあえずAのヤローの所に行こうぜ。一目だけでも逢えたら満足だろ? 真実、Aの居場所知ってんのかよ?」

『うん。解るよ』

「ほら。手、貸せよ。慣れない幽体でそこから動けなかったんだろ。俺が連れてってやるよ」

『あ、ありがとう』

 死神といった割りに想像と違って全然怖く無いし、その上優しい。しかも特攻服を着て妙なハチマキを着けた不良――時代遅れのファッションに、真美は思わず笑みが零れた。素直に大祐の手を取って、Aのマンションまで向かった。
 部屋の前に立つと、心がざわざわとする。この部屋で彼に抱かれた。忘れもしないこのマンションの306号室――初めての夜を思い出すと、胸が熱くなる。


『ここだよ』真実が大祐に、Aの部屋を教えた。


「よしっ、入るか」


 大祐は真実の手を引き、Aのマンションのドアをすり抜け、中に入った。
 真実は躊躇っていたが、いいから、と大祐が手を引っ張った。

 中に入ると、割と広い部屋なのに余分なものが一切無い部屋だった。殺風景とでも言うべきか。キッチンのテーブルには、アルコール度数の強い酒の瓶がやたらと置いてあり、空の瓶がテーブルの上に何本か倒れていて散らばっていた。更に奥に進むと、ベッドルームから女の喘ぎ声が聞こえた。


 それは、感極まった甘ったるい女の喘ぎ声。
 事情を察した大祐は真実の手を引っ張った。「おい、出直そうぜ」

 しかし真実は黙って首を振った。
 意を決したように大祐の手を離れ、ベッドルームへ入っていく。


「おいっ! 待てよ!!」


 大祐も慌てて追いかけて行くと、男女の情事の最中だった。美人でスタイルの良い女が巻き髪を振り乱し、Aに跨って腰を振って絶頂を迎え、甘い悲鳴を上げた。

 真実は黙ってAと、女を見つめていた。

「真実・・・・出ようぜ」

 大祐が真実の手を引っ張るが、彼女は動かなかった。
 冷めた瞳で自分の上で果てる女を見つめるAを、真実が悲しそうに見ていたのだ。


「も、いーだろ。また、抱いてやるから」


 Aが自分の上で踊っていた女に向かって、彼女の服を投げた。

「解った。また来るね。今日も良かったよ」

 Aに口付けして彼女は服を身に付けると、ブランドのバッグの中から封筒を取り出して傍に置いた。
 

『A・・・・傷ついてる』真実が呟いた。

「えっ?」

『何時もそうなの。本当は好きでも無いのに、抱きたくなんて無いのに、お金の為に女の人を抱くの。彼、親の作った借金がかなりあるみたいで、随分とこんな事続けてるんだって。私もう彼にこんな事して欲しくない! だから死神さんお願い! 彼を助けて!!』

「真実・・・・」

『私、彼に本当に救われたの! 何時も不細工って言われ続けて、いじめられた私の事、嘘でも可愛いって言って抱きしめてくれたの。生きる事が楽しいって初めて思えたのは、Aに出逢ったからなの! 彼、本当はとっても優しくて素敵な人なのに、お金が彼を縛って歪めてる。だから今度は私が、彼の事助けたいのっ!!』


 真実の瞳から、涙が零れた。





 誰かの為を想って流す涙が零れた時、奇跡が起きる――――・・・・





 大祐の左手が光った途端、不思議な光の玉が手のひらに現れて真実を包み込んだ。キラキラと不思議な光に包まれた真実が実体を持ち、Aの前に姿を見せた。



「ダサ子ッ!?」



 Aが驚いて真実を見つめる。‘ダサ子’――それはAが彼女に付けた酷いあだ名だった。


「どうしたんだよ。急にやって来て。何か光ってるけど、お前もアレか? 最近俺とヤッてなかったから、淋しかったのか?」

 嫌な言い方で真美を責めなじり、Aが真実に口付けた。激しく舌をねじ込まれ、真実が苦しそうに息を吐いた。


 相変わらず強引なキス。
 でも、貴方の本当のキスは、こんなキスじゃない。


 初めて抱かれたあの日の記憶が蘇る。


 たった一度だけ優しく口付けしてくれた、あの日の記憶。そして想い出。
 その時初めて、彼の本当の笑顔を見た。誰も見たことの無い、優しい笑顔。



 本当の彼を初めて見たあの日から、真美はAを心から愛し抜こうと心に決めたのだ。
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