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SOUL1・橿原涼之助
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橿原家に異変が起こった、その日は雨だった。屋敷の主、涼之助が倒れたのだ。
家政婦が倒れた彼を発見し、救急車で病院に運ばれてくる様子を、特攻服に身を包んだ宮野大祐は空から見つめていた。
子供を庇って事故に遭い、仮死状態となっている大祐は、あれから幽体の身体で色々と楽しもうと浮遊の旅を楽しんだ。
しかし、二時間程で飽きた。
お腹も空かない、性欲も湧かない、第一好きなバイクに乗ることができない。
気分が優れない時は、バイクに乗って仲間たちと走るのが一番楽しく、彼のストレス発散になる。しかし、それもこの身体では叶わない。
何にせよ元の肉体を取り戻さない限り、今井江里のコンサートに行くどころの話ではない。
魂を狩る人物の事も気になったが、大祐は先ず自分が入院している上川総合病院に行き、本体――自分の身体――の様子を確かめた。すると、意外な事実が判明したのだ。
病室には、自分の本体が眠っている状態で入院しているので、事情を知らない舎弟達が次々と見舞いに来ていた。
涙を流して悲しむ者が大勢居た。大祐は神風のリーダーとしてとても慕われている、心優しい不良だったことが伺える。とにかく男に大人気だ。しかし残念ながら、女性の見舞い客は一人も居なかった。
しかし、その中の異変に気づいてしまった。
舎弟達の中で神風に入り込んだスパイが居たことに――
親分や兄貴と慕ってくれていた舎弟が数人、その中に最も信頼していた一番舎弟の及川新一(おいかわしんいち)が居た。彼は、敵対しているチームの参謀クラスの地位で、スパイだという事が大祐の病室に残った彼等の会話で解った。
自分の信じていたものが、脆くも崩れ去る所を目の当たりにした大祐だった。
幽体となってしまったこの間に、神風の存続も危うくなる。
一刻も早く七個の魂を狩り、本体に戻らなければならない。
そして新一を、神風から追放させなければ。
重い気持ちを抱えながら大祐は、橿原涼之助が運ばれた病室の傍までやって来た。
倒れた涼之助の身体は、大祐の眠る同じ上川総合病院に運ばれて来たので、移動の手間が省けて好都合だった。
幽体の身体となった身体には、雨も風も関係無かった。全ての固形物体が、自分の身体を通り抜けていくのだ。冷たくも無いし、風を感じることも無い。
窓の外から病室内を覗き込むと、金持ちを象徴するように、緊急にも関わらず特別個室が充てられており、色々と設備の整えられている室内だというのが伺えた。
大祐の本体が眠っている、手狭の相部屋とは大違いだった。
幽体の身体をすり抜けさせ、室内に入り込んだ。
室内には涼之助が眠るベッドの傍で、可愛らしい少女が不安そうな顔で、目を閉じた彼の顔を覗き込んでいた。
お爺様、早く元気になってください、といかにも良家のお嬢様らしい丁寧な口調で、涼之助の安否を心配していた。孫娘か。
少女は栗色の美しい髪を後ろで結わえていて、大きな白いリボンが特徴的だった。目鼻立ちも高く整っており、絵の中のお嬢様が飛び出したような美しい少女だった。
清楚な女性というのは大祐の好みのタイプだが、今井江里には敵わないな、と思ったその時――
『若者よ』
「ん・・・・? 誰だ」
『こっちじゃよ。左、左』
どこからともなく、声がした。
声がした方を向くと、ベッドで眠っている筈の橿原涼之助が居た。大祐と同じく幽体となっているのが見えた。幽体だと解るのは、その体が薄く透けており、透き通って見えるからだ。それにすぐ傍のベッドには、彼の本体が眠っている。
「オメーが、橿原涼之助か?」
同じ人間が室内に二人も居るというのは、何とも奇妙な光景だ。
家政婦が倒れた彼を発見し、救急車で病院に運ばれてくる様子を、特攻服に身を包んだ宮野大祐は空から見つめていた。
子供を庇って事故に遭い、仮死状態となっている大祐は、あれから幽体の身体で色々と楽しもうと浮遊の旅を楽しんだ。
しかし、二時間程で飽きた。
お腹も空かない、性欲も湧かない、第一好きなバイクに乗ることができない。
気分が優れない時は、バイクに乗って仲間たちと走るのが一番楽しく、彼のストレス発散になる。しかし、それもこの身体では叶わない。
何にせよ元の肉体を取り戻さない限り、今井江里のコンサートに行くどころの話ではない。
魂を狩る人物の事も気になったが、大祐は先ず自分が入院している上川総合病院に行き、本体――自分の身体――の様子を確かめた。すると、意外な事実が判明したのだ。
病室には、自分の本体が眠っている状態で入院しているので、事情を知らない舎弟達が次々と見舞いに来ていた。
涙を流して悲しむ者が大勢居た。大祐は神風のリーダーとしてとても慕われている、心優しい不良だったことが伺える。とにかく男に大人気だ。しかし残念ながら、女性の見舞い客は一人も居なかった。
しかし、その中の異変に気づいてしまった。
舎弟達の中で神風に入り込んだスパイが居たことに――
親分や兄貴と慕ってくれていた舎弟が数人、その中に最も信頼していた一番舎弟の及川新一(おいかわしんいち)が居た。彼は、敵対しているチームの参謀クラスの地位で、スパイだという事が大祐の病室に残った彼等の会話で解った。
自分の信じていたものが、脆くも崩れ去る所を目の当たりにした大祐だった。
幽体となってしまったこの間に、神風の存続も危うくなる。
一刻も早く七個の魂を狩り、本体に戻らなければならない。
そして新一を、神風から追放させなければ。
重い気持ちを抱えながら大祐は、橿原涼之助が運ばれた病室の傍までやって来た。
倒れた涼之助の身体は、大祐の眠る同じ上川総合病院に運ばれて来たので、移動の手間が省けて好都合だった。
幽体の身体となった身体には、雨も風も関係無かった。全ての固形物体が、自分の身体を通り抜けていくのだ。冷たくも無いし、風を感じることも無い。
窓の外から病室内を覗き込むと、金持ちを象徴するように、緊急にも関わらず特別個室が充てられており、色々と設備の整えられている室内だというのが伺えた。
大祐の本体が眠っている、手狭の相部屋とは大違いだった。
幽体の身体をすり抜けさせ、室内に入り込んだ。
室内には涼之助が眠るベッドの傍で、可愛らしい少女が不安そうな顔で、目を閉じた彼の顔を覗き込んでいた。
お爺様、早く元気になってください、といかにも良家のお嬢様らしい丁寧な口調で、涼之助の安否を心配していた。孫娘か。
少女は栗色の美しい髪を後ろで結わえていて、大きな白いリボンが特徴的だった。目鼻立ちも高く整っており、絵の中のお嬢様が飛び出したような美しい少女だった。
清楚な女性というのは大祐の好みのタイプだが、今井江里には敵わないな、と思ったその時――
『若者よ』
「ん・・・・? 誰だ」
『こっちじゃよ。左、左』
どこからともなく、声がした。
声がした方を向くと、ベッドで眠っている筈の橿原涼之助が居た。大祐と同じく幽体となっているのが見えた。幽体だと解るのは、その体が薄く透けており、透き通って見えるからだ。それにすぐ傍のベッドには、彼の本体が眠っている。
「オメーが、橿原涼之助か?」
同じ人間が室内に二人も居るというのは、何とも奇妙な光景だ。
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