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11.ニセ嫁の大ピンチに駆けつける執事が、実は本物の鬼だった件。
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振り下ろされたナイフは杏香さんの左横数センチ先の壁にガスっとめり込み、傷を作った。へたりこんでいる杏香さんのグッチのグレースーツのスカートが、みるみる黒いシミを作っていく。あまりの恐怖に失禁したのだろう。
さっきの中松は、杏香さんを刺しかねない勢いで本気だった。中松はさっきの杏香さん以上に冷徹な目で彼女を見据え、壁にめり込んだナイフを乱暴に抜き取った。
「お前みたいな心無いクズでも、恐怖を感じる心は一応あるんだな」
中松は自分のスマートフォンを取り出し、何枚も角度を変えて涙を流しながら放心している杏香さんや手下の様子を撮影した。動画も撮影して、杏香さんの手からはじき飛んだビデオカメラも回収した。抜かりは一切ない。流石パーフェクト鬼執事だ。
「一矢様に報告して、お前ら全員きちんと然るべき方法で裁いてやるから、そのつもりで首洗って待っとけやコラ!」
中松が傍にあったソファーの椅子を蹴飛ばした。途端に物凄い勢いで椅子がはじき飛び、壁に激突して大きな音を立てた。
それより、目を見張るものがあった。彼がキックを喰らわせたソファーの椅子の足の途中から欠けているのだ。相当な威力なのだろう。この男を敵に回すのだけはやめておかなきゃ。
蹴られたら、間違いなく骨が折れて重症だ。
中松が自分の羽織っていたジャケットを脱ぎ、私を抱き上げ被せてくれた。「来るのが遅くなって本当に申し訳ございませんでした。すぐ部屋を移りましょう。何かあった時の為にと、控室とは別の部屋を用意してありますので、そちらに」
急ぎ足でこの部屋を退出しながら、こんなに怖い思いをさせてしまって、本当に申し訳ございませんでした、と何時もの中松が優しく声をかけてくれた。黙って杏香さんについて行った失態を、怒られると思ったのに・・・・。
すぐに別フロアに用意してくれているという部屋に連れて行ってくれて、ソファーに座らせてくれた。
さっきまで本物の鬼だったのに、すっかり羊の皮を被り直した中松は、美緒様をお呼びした方が良いでしょうか、と何時もの丁寧な口調で、私を怖がらせないようにソファーから随分離れたところから聞いてくれた。
「呼ばなくていい。だ、大丈夫。それ、より。こっち来て」
今更ながら、震えてきた。
「あ、あの。たす、助けてくれて、あり、が、とう・・・・・・・・」
中松が貸してくれたジャケットごと、震える肩を自分自身で抱きしめた。
「お怪我はございませんか?」
悲愴な顔をしている中松を安心させる為、無言で何度も頷いた。
「一矢様にあれだけ伊織様から目を離すなと言われていたのに、一矢様の重要客人の対応を優先せざるを得ず、貴女の事が疎かになってしまいました。客人があまりにしつこかったので、恐らくあの女の差し金だったと思われます。足止めだと感づいてからは、話を強引に切り上げて伊織様を追跡したのですが、不覚を取りました。俺がついていながら、面目ございません」
あれだけ土下座させようとしていた中松が、あっさりと絨毯に額を擦りつけるほどの低姿勢で、私に向かって土下座した。「伊織様をこんなに危険な目に遭わせてしまい、本当に申し訳ございませんでした!」
さっきの中松は、杏香さんを刺しかねない勢いで本気だった。中松はさっきの杏香さん以上に冷徹な目で彼女を見据え、壁にめり込んだナイフを乱暴に抜き取った。
「お前みたいな心無いクズでも、恐怖を感じる心は一応あるんだな」
中松は自分のスマートフォンを取り出し、何枚も角度を変えて涙を流しながら放心している杏香さんや手下の様子を撮影した。動画も撮影して、杏香さんの手からはじき飛んだビデオカメラも回収した。抜かりは一切ない。流石パーフェクト鬼執事だ。
「一矢様に報告して、お前ら全員きちんと然るべき方法で裁いてやるから、そのつもりで首洗って待っとけやコラ!」
中松が傍にあったソファーの椅子を蹴飛ばした。途端に物凄い勢いで椅子がはじき飛び、壁に激突して大きな音を立てた。
それより、目を見張るものがあった。彼がキックを喰らわせたソファーの椅子の足の途中から欠けているのだ。相当な威力なのだろう。この男を敵に回すのだけはやめておかなきゃ。
蹴られたら、間違いなく骨が折れて重症だ。
中松が自分の羽織っていたジャケットを脱ぎ、私を抱き上げ被せてくれた。「来るのが遅くなって本当に申し訳ございませんでした。すぐ部屋を移りましょう。何かあった時の為にと、控室とは別の部屋を用意してありますので、そちらに」
急ぎ足でこの部屋を退出しながら、こんなに怖い思いをさせてしまって、本当に申し訳ございませんでした、と何時もの中松が優しく声をかけてくれた。黙って杏香さんについて行った失態を、怒られると思ったのに・・・・。
すぐに別フロアに用意してくれているという部屋に連れて行ってくれて、ソファーに座らせてくれた。
さっきまで本物の鬼だったのに、すっかり羊の皮を被り直した中松は、美緒様をお呼びした方が良いでしょうか、と何時もの丁寧な口調で、私を怖がらせないようにソファーから随分離れたところから聞いてくれた。
「呼ばなくていい。だ、大丈夫。それ、より。こっち来て」
今更ながら、震えてきた。
「あ、あの。たす、助けてくれて、あり、が、とう・・・・・・・・」
中松が貸してくれたジャケットごと、震える肩を自分自身で抱きしめた。
「お怪我はございませんか?」
悲愴な顔をしている中松を安心させる為、無言で何度も頷いた。
「一矢様にあれだけ伊織様から目を離すなと言われていたのに、一矢様の重要客人の対応を優先せざるを得ず、貴女の事が疎かになってしまいました。客人があまりにしつこかったので、恐らくあの女の差し金だったと思われます。足止めだと感づいてからは、話を強引に切り上げて伊織様を追跡したのですが、不覚を取りました。俺がついていながら、面目ございません」
あれだけ土下座させようとしていた中松が、あっさりと絨毯に額を擦りつけるほどの低姿勢で、私に向かって土下座した。「伊織様をこんなに危険な目に遭わせてしまい、本当に申し訳ございませんでした!」
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