10 / 113
2.ニセ嫁修行、始めました。
2
しおりを挟む
あれから三十分が経った。自分の中では始めた頃よりはましに歩けるようになってきたと思うが、どうだろうか。時計を見ると午前十時四十五分を過ぎていた。もうすぐグリーンバンブーのランチ営業時間だ。店は十一時開店となっている。
「中松、ごめん。時間だからもう帰るね。ランチが始まっちゃう」
「ああ、グリーンバンブーに出勤ですね。もうそんな時間でしたか」
「それじゃあ、お疲れ様」
お腹に力を入れる事を忘れないようにして、中松に微笑んだ。少しは優雅に微笑むことができるようになったかしら。おほほ。
「今の所はまずまずでしょう。とても合格点を付けられたものではございませんが」
しかし中松の評価は辛辣だった。
「まあ、伊織様の努力だけは認めて差し上げます。これからも一矢様の為に頑張って下さい。くれぐれも粗相が無いようにこの中松が――」
「もうわかったから! 時間が無いから帰らせて」
説教が始まりそうだったから、途中で遮った。中松の説教は長いし、くどい。
「お待ちください。お送り致します」
中松も一緒に歩行練習にあてがった部屋を出てきた。お金持ちの家だから部屋数が凄い。その中に、広いゲストルームまで数に含まれている。しかも本家と違って分家でこの広さ。本家と分ける為にわざわざ建てられた、一矢の為だけの家。聞こえはいいかもしれないけれど、一矢は後妻の子だからという理由で、同じ父から生まれて血が繋がっているにも関わらず、お姉さまたちには可愛がってもらえない。わざわざ家も分けられ、分家が与えられている。男は長男の一矢しかいないので、お父様としては一矢を跡継ぎとして迎えたいようだけれど、お姉さまたちが幅を利かせているため、再婚した当初から一矢とお母さまは邪魔者扱いだ。
家族に邪険に扱われ、学校でも意地悪をされる――だから一矢は余計ひねくれるのだと思う。
私の家族はみんな平等でみんな仲良しだから、一矢家のやり方は正直言って嫌い。だから一矢も幼い頃は本家には帰らず、私の家で何時もご飯を食べたりしていた。
余り物の洋食でも、仕方ないからこの私が食べてやる、みたいな偉そうなことを言いながらも、嬉しそうにしていたひねくれ者。幼い頃はおかずのエビフライの数で揉めたり、争奪戦の中で一緒に育った。そんな昔から知っている彼のお嫁さんになる事が夢だったが・・・・何もこんな形で叶わなくてもいいじゃないか、と愚痴を言いたくなる。
一矢が高校の頃に分家が出来てからは、本家に寄り付いてもいない様だ。一矢にとっても息が抜ける分家ができたのは、彼のお母さまがご病気で亡くなってしまってからだと聞いているし、体よく本家から追い出されたのだろうけれど、結果良かったのだと思う。考えれば考えるほど、三成家は複雑だ。私には理解できない。
「中松。送らなくてもいいよ。自分で帰れるから」
「偽物とはいえ、仮にも三成家のご婦人になられるのでございます。自転車通勤は止めて頂きますよ。ご近所の皆様に笑いものにされます」
「・・・・買い出しにも使うんだけど。自転車。ここに置いて帰ったら困るよ」
「後で店の方に届けさせます。では、参りましょう。営業時間終了の午後三時に、再度迎えに上がります。よろしいですね」
「は、はあ・・・・」
「たるんでますよ! しゃっきりなさってください」
スパルタ中松は、最後の最後まで厳しく私の姿勢を正した。
中松の、鬼!
私は先陣を切って歩き出した中松の背中に向かって、見つからないように思いきりアカンベーをした。
「中松、ごめん。時間だからもう帰るね。ランチが始まっちゃう」
「ああ、グリーンバンブーに出勤ですね。もうそんな時間でしたか」
「それじゃあ、お疲れ様」
お腹に力を入れる事を忘れないようにして、中松に微笑んだ。少しは優雅に微笑むことができるようになったかしら。おほほ。
「今の所はまずまずでしょう。とても合格点を付けられたものではございませんが」
しかし中松の評価は辛辣だった。
「まあ、伊織様の努力だけは認めて差し上げます。これからも一矢様の為に頑張って下さい。くれぐれも粗相が無いようにこの中松が――」
「もうわかったから! 時間が無いから帰らせて」
説教が始まりそうだったから、途中で遮った。中松の説教は長いし、くどい。
「お待ちください。お送り致します」
中松も一緒に歩行練習にあてがった部屋を出てきた。お金持ちの家だから部屋数が凄い。その中に、広いゲストルームまで数に含まれている。しかも本家と違って分家でこの広さ。本家と分ける為にわざわざ建てられた、一矢の為だけの家。聞こえはいいかもしれないけれど、一矢は後妻の子だからという理由で、同じ父から生まれて血が繋がっているにも関わらず、お姉さまたちには可愛がってもらえない。わざわざ家も分けられ、分家が与えられている。男は長男の一矢しかいないので、お父様としては一矢を跡継ぎとして迎えたいようだけれど、お姉さまたちが幅を利かせているため、再婚した当初から一矢とお母さまは邪魔者扱いだ。
家族に邪険に扱われ、学校でも意地悪をされる――だから一矢は余計ひねくれるのだと思う。
私の家族はみんな平等でみんな仲良しだから、一矢家のやり方は正直言って嫌い。だから一矢も幼い頃は本家には帰らず、私の家で何時もご飯を食べたりしていた。
余り物の洋食でも、仕方ないからこの私が食べてやる、みたいな偉そうなことを言いながらも、嬉しそうにしていたひねくれ者。幼い頃はおかずのエビフライの数で揉めたり、争奪戦の中で一緒に育った。そんな昔から知っている彼のお嫁さんになる事が夢だったが・・・・何もこんな形で叶わなくてもいいじゃないか、と愚痴を言いたくなる。
一矢が高校の頃に分家が出来てからは、本家に寄り付いてもいない様だ。一矢にとっても息が抜ける分家ができたのは、彼のお母さまがご病気で亡くなってしまってからだと聞いているし、体よく本家から追い出されたのだろうけれど、結果良かったのだと思う。考えれば考えるほど、三成家は複雑だ。私には理解できない。
「中松。送らなくてもいいよ。自分で帰れるから」
「偽物とはいえ、仮にも三成家のご婦人になられるのでございます。自転車通勤は止めて頂きますよ。ご近所の皆様に笑いものにされます」
「・・・・買い出しにも使うんだけど。自転車。ここに置いて帰ったら困るよ」
「後で店の方に届けさせます。では、参りましょう。営業時間終了の午後三時に、再度迎えに上がります。よろしいですね」
「は、はあ・・・・」
「たるんでますよ! しゃっきりなさってください」
スパルタ中松は、最後の最後まで厳しく私の姿勢を正した。
中松の、鬼!
私は先陣を切って歩き出した中松の背中に向かって、見つからないように思いきりアカンベーをした。
0
お気に入りに追加
1,418
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません
如月 そら
恋愛
旧題:隠れドS上司はTL作家を所望する!
【書籍化】
2023/5/17 『隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません』としてエタニティブックス様より書籍化❤️
たくさんの応援のお陰です❣️✨感謝です(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)
🍀WEB小説作家の小島陽菜乃はいわゆるTL作家だ。
けれど、最近はある理由から評価が低迷していた。それは未経験ゆえのリアリティのなさ。
さまざまな資料を駆使し執筆してきたものの、評価が辛いのは否定できない。
そんな時、陽菜乃は会社の倉庫で上司が同僚といたしているのを見てしまう。
「隠れて覗き見なんてしてたら、興奮しないか?」
真面目そうな上司だと思っていたのに︎!!
……でもちょっと待って。 こんなに慣れているのなら教えてもらえばいいんじゃないの!?
けれど上司の森野英は慣れているなんてもんじゃなくて……!?
※普段より、ややえちえち多めです。苦手な方は避けてくださいね。(えちえち多めなんですけど、可愛くてきゅんなえちを目指しました✨)
※くれぐれも!くれぐれもフィクションです‼️( •̀ω•́ )✧
※感想欄がネタバレありとなっておりますので注意⚠️です。感想は大歓迎です❣️ありがとうございます(*ᴗˬᴗ)💕

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる