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魔王軍と巫女は出会ったのであった
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魔王軍勢は苦戦を強いられていた。敵は小娘一人。柄に破邪退魔の護符を下げた七枝の宝剣・轟力招雷と身体能力アップ、防御力アップ、敏捷性アップ、持続力アップ、疲労軽減、様々なバフをかけてこそいるが、装備は極めて軽量軽装。伝説の鉱石、緋緋色金で出来た甲、臑、肩周りの超軽量防具と、他は、伸縮性の高い特殊な布地で、乳首を含む乳房頂の極々一部と股間の極めて狭い部分を辛うじて覆い隠しているだけのほぼ全裸といって差し支えない格好。いわゆる微着似亜魔というやつだ。黒水晶と彫金で艶やかに装飾され、ともすれば神事の装身具のような見た目の防具である。
いや、実際ことが起こるまでは秘密の神具として代々石樽神社奥の印に安置されていたのだ。
魔王の進軍をその目で確かめるまでは誰もが「そんなバカな」「魔王なんてのはおとぎ話の存在じゃないか」と信じようとしなかった。
魔王降臨が疑う事無き真実であったと誰もが理解したとき、神宮から極秘の詔を受けた石樽神社の奥の院が開かれた。
奥の院に安置されていた厨子に納められた螺鈿蒔絵の箱には宝剣・轟力招雷と魔装具一式、そして使い方を記した書が入っていた。
【恥じらいを知る清らかな乙女が纏いし時、 衣趣咃楼はその真価を発揮するだろう】
「魔装具・衣趣咃楼。巫女よ、これを戴いて戦いに赴くがよい」
裸のような姿の娘が頬を朱に染めて半泣きで剣を振り回し、ともすれば全身隙だらけの無防備な構えで突撃してくる。一つ斬撃を当てればそれでけりが付く。なのに魔王軍の精鋭が、司令官が、将軍が、誰一人攻撃を当てることが出来ない。
魔王軍のだれもが首をひねり訝しみ困惑し狼狽えていた。
「一体あの女戦士は何なんだ」
「分かりませぬ、攻撃をかわしているわけでもないのに」
「攻撃を当ててはならない、外さねばならぬ気になってしまうのです」
「そりゃ可愛い子に怪我なんかさせたら後味悪すぎますもんねぇ」
「そこだよな、あんな恥じぃ格好で女の子戦わせるとか地球人イカれてるわ」
剣を振りかざし腕を上げる度に腋窩が晒される。走れば剝き出しの内腿が。かがめば胸の谷間が丸出しの尻が強調される。恥ずかしい。見ないでほしい。もぅなんでもいいいからさっさと帰って!
内気な娘ならよし。無垢な乙女であれば。更によし。
使い手の煽られる羞恥を増幅させ敵の無意識を蝕み戦闘心を萎えさせる恐ろしい魔装具。それが衣趣咃楼《≪いしゅたる≫》の真の力。
「しかしこれでは延々膠着状態のままではないか」
「損耗率も無視できないが、このまま退けばメンツ丸つぶれだ」
「帰りてぇ」
どうしたもんかと魔王軍が消沈し、司令部で後ろ向きな密談を始める中、緋緋色金装備の巫女は戦場で泣き叫んでいた。
「どうぞ早々にお引き取りください!!というかさっさと帰ってください!!じゃないとわたしいつまで経ってもこの恥ずかしい格好で剣を振り続けなきゃならないんです!!」
先日からの交戦の様子を、この手の不可解な現象の解き明かしが大好きな配下に分析させた結果、「これ、戦意を喪失させる周波数が出ていますよ」というなんとも悍ましい事実が発覚した。
「着用している娘さんですね、この娘さんが『いやー恥ずかしいーみないでー』と恥ずかしがるでしょう?そうすると、魔装具はそれを感知して娘さんの羞恥心を増幅するんです。戦闘というのはお互いさぁやるぞっていう気分で組み合う暗黙の了解があるじゃないですか。魔装具はそれを逆手にとった装備です。私たち魔族が戦闘意欲を高める時に行う好戦催眠ドーピングあれの逆をやっていると思ってくれれば分かり易いかと。もっとも戦に不向きなか弱い女性に恥じらいながら運用させることで戦闘を成立させないようにする実に破廉恥、卑怯卑劣を具現化した最低下劣装備です」
会議室で、分析担当の、早口で感情豊かにまくしたてる報告を受けた幹部上層と魔王。
一様に沈痛な面持ちで頭を抱え、おおぅと呻いてかぶりを振り天を仰ぐ。
「膠着したまま消耗するのははまさに敵の思う壺ということか」
「なんてこった」
「やっぱひでぇな何考えてんだ地球人」
「最悪だ、斥候からもかつて天に愛されし生き物を盾にしたという記録があると報告を受けた」
「何で『いやー恥ずかしいーみないでー』のとこだけ裏声出した、説明しろ」
「もうやだこの星」
「なら、巫女を籠絡しますか、分析の結果か正しいなら巫女だってこんなものとっとと脱ぎたいに決まっている」
あの装備が我々のやる気を削ぐのなら敵対関係ではないと訴え、脱がせてしまえばよい。
とんだ心の隙をついた心理戦だ。
かくして巫女を本陣に招待して魔装具・衣趣咃楼装備を外させる作戦の幕があがった。
いや、実際ことが起こるまでは秘密の神具として代々石樽神社奥の印に安置されていたのだ。
魔王の進軍をその目で確かめるまでは誰もが「そんなバカな」「魔王なんてのはおとぎ話の存在じゃないか」と信じようとしなかった。
魔王降臨が疑う事無き真実であったと誰もが理解したとき、神宮から極秘の詔を受けた石樽神社の奥の院が開かれた。
奥の院に安置されていた厨子に納められた螺鈿蒔絵の箱には宝剣・轟力招雷と魔装具一式、そして使い方を記した書が入っていた。
【恥じらいを知る清らかな乙女が纏いし時、 衣趣咃楼はその真価を発揮するだろう】
「魔装具・衣趣咃楼。巫女よ、これを戴いて戦いに赴くがよい」
裸のような姿の娘が頬を朱に染めて半泣きで剣を振り回し、ともすれば全身隙だらけの無防備な構えで突撃してくる。一つ斬撃を当てればそれでけりが付く。なのに魔王軍の精鋭が、司令官が、将軍が、誰一人攻撃を当てることが出来ない。
魔王軍のだれもが首をひねり訝しみ困惑し狼狽えていた。
「一体あの女戦士は何なんだ」
「分かりませぬ、攻撃をかわしているわけでもないのに」
「攻撃を当ててはならない、外さねばならぬ気になってしまうのです」
「そりゃ可愛い子に怪我なんかさせたら後味悪すぎますもんねぇ」
「そこだよな、あんな恥じぃ格好で女の子戦わせるとか地球人イカれてるわ」
剣を振りかざし腕を上げる度に腋窩が晒される。走れば剝き出しの内腿が。かがめば胸の谷間が丸出しの尻が強調される。恥ずかしい。見ないでほしい。もぅなんでもいいいからさっさと帰って!
内気な娘ならよし。無垢な乙女であれば。更によし。
使い手の煽られる羞恥を増幅させ敵の無意識を蝕み戦闘心を萎えさせる恐ろしい魔装具。それが衣趣咃楼《≪いしゅたる≫》の真の力。
「しかしこれでは延々膠着状態のままではないか」
「損耗率も無視できないが、このまま退けばメンツ丸つぶれだ」
「帰りてぇ」
どうしたもんかと魔王軍が消沈し、司令部で後ろ向きな密談を始める中、緋緋色金装備の巫女は戦場で泣き叫んでいた。
「どうぞ早々にお引き取りください!!というかさっさと帰ってください!!じゃないとわたしいつまで経ってもこの恥ずかしい格好で剣を振り続けなきゃならないんです!!」
先日からの交戦の様子を、この手の不可解な現象の解き明かしが大好きな配下に分析させた結果、「これ、戦意を喪失させる周波数が出ていますよ」というなんとも悍ましい事実が発覚した。
「着用している娘さんですね、この娘さんが『いやー恥ずかしいーみないでー』と恥ずかしがるでしょう?そうすると、魔装具はそれを感知して娘さんの羞恥心を増幅するんです。戦闘というのはお互いさぁやるぞっていう気分で組み合う暗黙の了解があるじゃないですか。魔装具はそれを逆手にとった装備です。私たち魔族が戦闘意欲を高める時に行う好戦催眠ドーピングあれの逆をやっていると思ってくれれば分かり易いかと。もっとも戦に不向きなか弱い女性に恥じらいながら運用させることで戦闘を成立させないようにする実に破廉恥、卑怯卑劣を具現化した最低下劣装備です」
会議室で、分析担当の、早口で感情豊かにまくしたてる報告を受けた幹部上層と魔王。
一様に沈痛な面持ちで頭を抱え、おおぅと呻いてかぶりを振り天を仰ぐ。
「膠着したまま消耗するのははまさに敵の思う壺ということか」
「なんてこった」
「やっぱひでぇな何考えてんだ地球人」
「最悪だ、斥候からもかつて天に愛されし生き物を盾にしたという記録があると報告を受けた」
「何で『いやー恥ずかしいーみないでー』のとこだけ裏声出した、説明しろ」
「もうやだこの星」
「なら、巫女を籠絡しますか、分析の結果か正しいなら巫女だってこんなものとっとと脱ぎたいに決まっている」
あの装備が我々のやる気を削ぐのなら敵対関係ではないと訴え、脱がせてしまえばよい。
とんだ心の隙をついた心理戦だ。
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