6 / 12
pioneer~最初にセレブロになった者~
しおりを挟む
アムリルは、この宇宙人たちが作った人工恒星ヘリオスを中心に居住コロニー・イムドゥグド、調査船ヴィマーナ、博物保管庫天磐舟が周回する疑似星系の製造段階から関わっている乗組員だ。当時は一番の若造だったが、今は最古参、製造当時を知る最後の現役。その存在は生きる設計図と言っても過言ではない。
運航トラブル、機器のメンテナンス、不具合、調整、問題が起きると搭乗員は皆アムリルに助けを求めた。アムリルにとって、搭乗員は皆同じく等しくかわいい我が子同然の存在だったから、聞かれれば否応なく助言を与え、手を貸した。若い世代が育ち、知識と経験を積み、一人前になっていく姿を見るのはアムリルにとってこの上ない喜びだった。
そんなアムリルも寿命には抗えず、命の灯が消えるときがやってきた。
いまや衰えた身体が生命活動を終えようとするのを医療チームが全力で阻止し、あらゆる手段で長引かせている状態だ。アムリルの生を一日でも延ばすことは、この疑似星系に暮らす搭乗員全ての願いでもあった。
アムリルは死の淵にあった。
この疑似星系は旅を始めたばかりだ。私が死ぬことで、まだ若い個体たちが不安がらないか心配だ。意識が消滅する瞬間の恐怖と悲観を切り裂くように、星系の中心となる疑似恒星ヘリオスを生成した時のこと。イムドゥグドの居住環境を整えるのに結構難儀したこと。懐かしい若き日々が走馬灯のように脳裏に浮かんでは消え、その度にヴィマーナの調査機材も今現在は最新鋭のものを搭載しているけれど、段階を追って性能を強化したりしなきゃならない。天磐舟の収納収蔵だって増設しないと。次から次へと新しいアイデアが閃き弾けていく。
アムリルは考える。思考を巡らせる。
この汲めども尽きぬ泉のような想像着想はどうしたことだ。肉体、つまり筋力を動かすための電気信号を消費しなくて済むようになった分、脳が活性化しているのだろうか。脳内の情報はいうなれば電気信号だ。ならば、脳をイムドゥグド中枢のコンピューター端末に繋げば、脳内に蓄積された記憶媒体の全てを電気信号でやり取りが出来るのではないか。
アムリルは医療チームに一縷の望みを託した。
「まだ生きているうちに私の脳と神経系を末端神経まで取り外し、イムドゥグド中枢に接続してほしい」
医療チームは驚愕した。有機体をコンピューターに繋ぐ。そんな事が出来るのだろうか。
しかし、それが出来れば、アムリルを失う悲劇を回避できる。なにより、搭乗員全てがこの先死ぬことで好奇心を満たすことが出来なくなる恐怖と絶望を回避する福音になる。
死んだら終わり、ではない。肉体を失うのではない。この疑似星系と一体化するのだ。
脳内の血管を全て人工血管に入れ替え、脳の機能を損なわないよう細心の注意を払い、無菌状態を保った培養液に納めたアムリルの脳に、四肢の末端神経から電気信号を送信すると、バイナリーコードを出力して返してきた。
【アリガトウ】
実験は成功したのだ。
運航トラブル、機器のメンテナンス、不具合、調整、問題が起きると搭乗員は皆アムリルに助けを求めた。アムリルにとって、搭乗員は皆同じく等しくかわいい我が子同然の存在だったから、聞かれれば否応なく助言を与え、手を貸した。若い世代が育ち、知識と経験を積み、一人前になっていく姿を見るのはアムリルにとってこの上ない喜びだった。
そんなアムリルも寿命には抗えず、命の灯が消えるときがやってきた。
いまや衰えた身体が生命活動を終えようとするのを医療チームが全力で阻止し、あらゆる手段で長引かせている状態だ。アムリルの生を一日でも延ばすことは、この疑似星系に暮らす搭乗員全ての願いでもあった。
アムリルは死の淵にあった。
この疑似星系は旅を始めたばかりだ。私が死ぬことで、まだ若い個体たちが不安がらないか心配だ。意識が消滅する瞬間の恐怖と悲観を切り裂くように、星系の中心となる疑似恒星ヘリオスを生成した時のこと。イムドゥグドの居住環境を整えるのに結構難儀したこと。懐かしい若き日々が走馬灯のように脳裏に浮かんでは消え、その度にヴィマーナの調査機材も今現在は最新鋭のものを搭載しているけれど、段階を追って性能を強化したりしなきゃならない。天磐舟の収納収蔵だって増設しないと。次から次へと新しいアイデアが閃き弾けていく。
アムリルは考える。思考を巡らせる。
この汲めども尽きぬ泉のような想像着想はどうしたことだ。肉体、つまり筋力を動かすための電気信号を消費しなくて済むようになった分、脳が活性化しているのだろうか。脳内の情報はいうなれば電気信号だ。ならば、脳をイムドゥグド中枢のコンピューター端末に繋げば、脳内に蓄積された記憶媒体の全てを電気信号でやり取りが出来るのではないか。
アムリルは医療チームに一縷の望みを託した。
「まだ生きているうちに私の脳と神経系を末端神経まで取り外し、イムドゥグド中枢に接続してほしい」
医療チームは驚愕した。有機体をコンピューターに繋ぐ。そんな事が出来るのだろうか。
しかし、それが出来れば、アムリルを失う悲劇を回避できる。なにより、搭乗員全てがこの先死ぬことで好奇心を満たすことが出来なくなる恐怖と絶望を回避する福音になる。
死んだら終わり、ではない。肉体を失うのではない。この疑似星系と一体化するのだ。
脳内の血管を全て人工血管に入れ替え、脳の機能を損なわないよう細心の注意を払い、無菌状態を保った培養液に納めたアムリルの脳に、四肢の末端神経から電気信号を送信すると、バイナリーコードを出力して返してきた。
【アリガトウ】
実験は成功したのだ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話
赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる