記憶探しの旅に出ます

あかくりこ

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野営

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約一日走り通して最初の野営の夜。

 風よけになりそうな岩陰を見つけて野営をする。一般的な光のマナを使って灯にする。大きく明るいマナは全体を照らすように少し遠くに置いて、手許に小さなマナを2つ3つ置く。桶に水のマナを入れて、少し待つと清水で一杯になる。飲み水として使う分をとったらあとは馬の飲み水にまわす。岩砂漠だから、ここでは手ごろな石を組んでかまどにして、中に火のマナを置く。これで煮炊きをし、暖をとる。夜が明けたら後はマナを回収するだけ。グラディアテュール軍の基本野営スタイルだ。

「こんなことになってしまって、申し訳ない」とカインが頭を垂れる。

「なぜ謝るのです?」

 なぜと言われてカインは返答につまった。

 まず、軍事最高権力者であるダキアをを目の前でかどわかされロストする大失態を起こした。このまま見つからない状態が続くと国家間行事である行幸にも差支えが発生する。熟考なんぞしなくても結構な外交問題まで発展する。

 そこでリョウが木をくりぬいた器によそった食事を運んできた。

「僕好みの濃い目の味付けだから」

 そう言い足してシェリアルとカインに器を渡す。

 第二に糧食。

 今リョウが姫に渡したのは、細かく刻んだ塩漬け肉を少量と雑穀を一緒に煮込んだ由緒正しいグラディアテュール軍名物肉粥。肉だけでは塩辛く、食えたものではない。問題を解決するために考え出された、簡単に水分と塩分と熱量を摂って腹を満たす優れものだ。

 が、しかしそれはあくまで兵卒の立場での話。目の前にいるのはやんごとなき立場の王族で、軍の最高指揮官の伴侶だ。そんな方に兵卒の糧食を食べさせる。この辺はもう肉の取れそうな生き物はいない。いるのは死に場所を求めて岩砂漠に流れ着いたはぐれ個体を餌にする超大型節足動物くらいのもの。いくら慌てて出立したとはいえ、保存食に気が回らなかったのは結構な懲罰ものの失態じゃないか。今頃気付いたってもう遅い。

 カインの肝は冷えて竦み上がっている。

 そんなカインをよそにリョウに差し出された粥を受け取ると、姫は有り難う、いただきます、そう言って黙々と食べ始めた。

「もし、外交問題に発展した時は私が出て釈明します」

 もともとは私が我を張っているのですから。そう言い添え、更に話を続ける。

「食事に関しても兵卒の方々と同じで問題ありません、気遣い無用です。特別扱いはしないでください」

「恐れ入ります」

 更に頭を下げると、「カイン竜騎士」と改めて呼ばれた。

「できれば殿下と同じように接していただきたいのです。ですから平素と変らぬ言葉遣いで構いません。その方が私も気が楽です」

「いや、しかし」

「リョウマナ使いはもうそのように振舞っていますよ」

 んん、と唸ったまま二の句が継げないカイン。この場は誰にでも傍若無人な態度を変えないリョウのファインプレーとしておこう。

「わかりました、......っす」



 実のところ、今は公人として最善を尽くす。今のシェリアルはそう気を張って行動している。本音は休む時間も惜しい。一刻も早くダキア殿下と再会したい。



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