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平和に向けて?あるいは新たな戦いの幕間
聖女は平和のために旅立つ
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教皇は、十字軍の事実上の解体を苦々しく思うほど、野心は生々しくはなく、政権欲も強くなかったから、がっくりとしたというところが正確だった。それでも、政治と宗教、両方の顔をもつ教皇の務めを疎かにする、放り出すということはなかった。
それでも、聖典唯一派教会等新教派諸国との対立の再激化はともかく、三位一体教会派諸国の対立の高まりは酷く頭を悩まされた。情報を得ると、速やかに和解を促す教書を送り、使節を送り調停させるなど対策をとった。各国は、教皇の調停を即受け入れて、平和を約束したが、それが表面的なものであることが分からないほど、教皇は愚かではなかったし、お人好しでもなかった。
その中で、リツシユン王国で、三位一体教会の司祭3人が司祭領の統治者から解任されただけでなく、司祭領領主として善政を敷いて、領民の支持を受けているスガル司祭も解任されるという情報が入ってきた。新教国では、三位一体教会信徒の弾圧を進めると同時に、教会領の没収を行う。教会領とはいっても、領主=司祭は封建領主そのものであり、世襲ではない、三位一体教会教皇が任命するということが違うだけである。政教分離を説く再洗礼派教会ではあったが、過激な手段は望まず、教皇に敬意を払っていたし、ウスイもそれへの復帰で、教会領に手を付けることはなかったる再洗礼派教会信徒が大部分の国であるから、隣国のシユン王国より教会領はずっと少ないという事情はあった。逆に、シユン王国では度々、その没収があり、教皇との対立を招き、かえってリツシユン王国内ではすこしばかりではあるが、ここ数十年の間に新設されている。
しかし、遂にあの異端者達が、ウスイが、この状況の乗じて本性を現わしたのではないかと教皇は感じた。
だが、それは杞憂だった。逆に、後により複雑な、困ったことが生じてしまったのだが。
ウスイからの使節がきた。その使節の長はかの老修道士だった。
三位一体教会信徒は、彼と僅かな彼の弟子達、護衛兼従者も兼ねていた、ウスイがそれを認めていたし、彼が積極的に勧め、募集した経緯もある、だけであるから、彼らだけ聖都に入れて、後の随員は聖都の外で夜営させた。これは、嫌がらせである、露骨な。何故なら、異教徒でさえ、交渉のための使節なら聖都に入れていたからである。ただ、彼らへの食糧、水の提供、場所の確保にはかなり配慮した、配慮したつもりである、教皇庁としては。
「スガル司祭の元に使者としていってもらいたいと国王陛下から言われた時にピーンときました。スガル司祭の解任、教会領の没収の使者であると、思いました。そのため、かの司祭がいかに善政を敷いて、正しき信徒だけでなく、異端の者達、すなわち再洗礼派教会信徒達にさえ慕われている事実を指摘いたしました。すると国王陛下はお笑いになられて、そのようなスガル司祭を解任するほど私は無能ではない。私が老師に依頼したいのは、そんな乱暴なことではないが、もっと厄介な問題なのだ、とおっしゃられました。スガル司祭には、管轄以外のの教会領、スウ、ガア、ルウ教会領の管理を教皇様から新たに担当する司祭が任命され、着任されるまでの間、その統治を兼任してほしいということを承諾してもらいたいということでした。この3区の司祭は異端に厳しいということは確かですが、正しき信徒達からも忌み嫌われるほど、私利私欲を求め、規定にある信徒の負担以外のものを要求し、その負担に苦しみ奴隷に堕ちる信徒を省みないどころか、悪徳な奴隷商と結託しているありさまです。商業も営業権も賄賂の高で決め、異端の者とは言え理由なく土地を没収し、その土地を縁故や賄賂で他の者に引き渡すなど、酷い悪政をしておりました。国王陛下は、スガル司祭の協力で捕らえ、教皇猊下が新たな司祭を任じられるまでの間、その3区の管理をスガル司祭に依頼したのです。どうか、かの3人を正式に解任し、新たな司祭の任命をいただきたく存じます。」
「その3人の身柄は?」
「新司祭の着任とともに、聖都に送るとのことです。」
「う~ん。そうか。」
三位一体教会の聖職者の任免権は、全て教皇にあるというのが、教皇、教皇庁の主張である。特に、教会領の統治に関係する準司祭以上については、強く主張している。このことは、常に各国王、政府と対立が生じているところである。リツシウン王国国王ウスイの行動は、ぎりぎり教皇の主張する権限を侵さない、尊重する範囲に収まっていると思われた。ある意味、他の諸国にこの程度の配慮はしてほしいと思うほどだが、十字軍まで組織させ侵攻させた手前、リツシウン王国の要請を受け入れては、各国に示しがつかないようにも思われた。
それでも、聖典唯一派教会等新教派諸国との対立の再激化はともかく、三位一体教会派諸国の対立の高まりは酷く頭を悩まされた。情報を得ると、速やかに和解を促す教書を送り、使節を送り調停させるなど対策をとった。各国は、教皇の調停を即受け入れて、平和を約束したが、それが表面的なものであることが分からないほど、教皇は愚かではなかったし、お人好しでもなかった。
その中で、リツシユン王国で、三位一体教会の司祭3人が司祭領の統治者から解任されただけでなく、司祭領領主として善政を敷いて、領民の支持を受けているスガル司祭も解任されるという情報が入ってきた。新教国では、三位一体教会信徒の弾圧を進めると同時に、教会領の没収を行う。教会領とはいっても、領主=司祭は封建領主そのものであり、世襲ではない、三位一体教会教皇が任命するということが違うだけである。政教分離を説く再洗礼派教会ではあったが、過激な手段は望まず、教皇に敬意を払っていたし、ウスイもそれへの復帰で、教会領に手を付けることはなかったる再洗礼派教会信徒が大部分の国であるから、隣国のシユン王国より教会領はずっと少ないという事情はあった。逆に、シユン王国では度々、その没収があり、教皇との対立を招き、かえってリツシユン王国内ではすこしばかりではあるが、ここ数十年の間に新設されている。
しかし、遂にあの異端者達が、ウスイが、この状況の乗じて本性を現わしたのではないかと教皇は感じた。
だが、それは杞憂だった。逆に、後により複雑な、困ったことが生じてしまったのだが。
ウスイからの使節がきた。その使節の長はかの老修道士だった。
三位一体教会信徒は、彼と僅かな彼の弟子達、護衛兼従者も兼ねていた、ウスイがそれを認めていたし、彼が積極的に勧め、募集した経緯もある、だけであるから、彼らだけ聖都に入れて、後の随員は聖都の外で夜営させた。これは、嫌がらせである、露骨な。何故なら、異教徒でさえ、交渉のための使節なら聖都に入れていたからである。ただ、彼らへの食糧、水の提供、場所の確保にはかなり配慮した、配慮したつもりである、教皇庁としては。
「スガル司祭の元に使者としていってもらいたいと国王陛下から言われた時にピーンときました。スガル司祭の解任、教会領の没収の使者であると、思いました。そのため、かの司祭がいかに善政を敷いて、正しき信徒だけでなく、異端の者達、すなわち再洗礼派教会信徒達にさえ慕われている事実を指摘いたしました。すると国王陛下はお笑いになられて、そのようなスガル司祭を解任するほど私は無能ではない。私が老師に依頼したいのは、そんな乱暴なことではないが、もっと厄介な問題なのだ、とおっしゃられました。スガル司祭には、管轄以外のの教会領、スウ、ガア、ルウ教会領の管理を教皇様から新たに担当する司祭が任命され、着任されるまでの間、その統治を兼任してほしいということを承諾してもらいたいということでした。この3区の司祭は異端に厳しいということは確かですが、正しき信徒達からも忌み嫌われるほど、私利私欲を求め、規定にある信徒の負担以外のものを要求し、その負担に苦しみ奴隷に堕ちる信徒を省みないどころか、悪徳な奴隷商と結託しているありさまです。商業も営業権も賄賂の高で決め、異端の者とは言え理由なく土地を没収し、その土地を縁故や賄賂で他の者に引き渡すなど、酷い悪政をしておりました。国王陛下は、スガル司祭の協力で捕らえ、教皇猊下が新たな司祭を任じられるまでの間、その3区の管理をスガル司祭に依頼したのです。どうか、かの3人を正式に解任し、新たな司祭の任命をいただきたく存じます。」
「その3人の身柄は?」
「新司祭の着任とともに、聖都に送るとのことです。」
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