余命50年のエルフさん

転定妙用

文字の大きさ
上 下
8 / 56
余命50年のエルフは結婚する。

追放劇のヒロインになったわよ~(ミストグリーン)

しおりを挟む
 私は、アサの手を引いてその場を立ち去ってやったわ。その時、私の心の奥底からふつふつと、私は自分が冒険者チームから不当な追放を受けたヒロインだ、これから新たな冒険が始まる瞬間だ、という言葉が沸き上がってきていた。私は、がっくりなんかせず、期待に打ち震えていたわ、わくわくしていたわ。
「ああ、退会届はギルドには私達から提出しておきますからね。」
とアサはちゃんと、一瞬振り返って、はっきり言ってくれた。さすがに旦那様、息がぴったし。
 私達2人の新チーム誕生よ~。

 この三ヶ月、デキるだけ足を伸ばして、行ってみたい、見てみたい、食べてみたいものがある、戦ってみたい、面白い仕事でとかで出向いたけど、やっぱり限られるわ。もっと遠くに行ってみたい。でも、チームは拠点を置いて、という方針だし、私達も其所から出るというのは後ろめたい所があって躊躇していたのよね。追放されるなら、堂々と出ていける分け前だから、考えようでは、良かったのかもしれないわね。私は残れというだったけど、その私達にはメリットがないしね、第一、旦那様を捨てるなんて、エルフとしてはできないわよ。それに、チーム全員とアサを天秤にかけると、アサの方が役に立つし、頼りになるもんね。

「か、カスミ。考え直さない?」
と息せき切って、ダークエルフの女が追いかけて来たわ。翌日、部屋を引き払って、旅立とうと市の城門の近くまで来た時だったわ。
 彼女との仲は悪くはない。だから、来させたのね。
「今帰れば…。それにアサさんのことも考えるって。」
 彼の追放は取り消すとは言わないのね。彼女の顔も、絶対追放するわ、というものだった。アサの方はみなかったし。彼女、アサとも関係者は悪くなかったもんね。それはそれで、面白くないけどね。あ、もちろん、彼女をダークエルフだから嫌っているとかじゃないのよ。世間では、ハイエルフは、他の種族に対して上から目線だの、尊大だのと言われているだけでなく、他のエルフ族、特にダークエルフに対しては、差別意識、優越意識が酷いとされているけど、そんなことはないわ。う~ん、それ本当?と言われると、世間一般のハイエルフ観に近い連中はいるわね、確かに。でも、大抵は、王族ですら、王族といっても人間達のとはちょっと違うけど、そういうことはないわ、私のしるところでは。ただ、ハイエルフとしての家系に誇りを持っているわ、強く。だからと言って、純血種だなんて、ほんの一部を除くとあまり問題視していないわ。人間の近くで暮らすエルフ族ほどではないけど、ハイエルフだって純血種なんていないわ。ただ、ハイエルフの形質が出ている者だけをハイエルフとして受け入れるというだけのこと。それがそれが閉鎖的と思われるのは事実だけど、そうでない者を差別しているわけではないし、親族として認めているわ。ちなみにダークエルフというのは、特定の部族名ではなく、人間の中で暮らしている、傭兵的な集団とかに対して呼ばれているのであるけれど、浅黒い肌のエルフに対しても使われる場合もあって、定義なんてないわ。

「わ、私は反対だったし、他のメンバーだって・・・。」
と申し訳なさそうに彼女は言ったわ。そんな彼女は、くやしいほど可愛いかったわ、抱きしめてあげたいくらいに。
「わかっているさ。リーダーも・・・。まあ、長い新婚旅行に出かけたと思ってくれ。」
「アサさんがいなくなると、困るんだよね、全てで・・・。なのに・・・。」
「俺の代わりと何とかなるさ。カスミとは違うから。」
「ご、ごめんなさい。」
 彼女は下を向いて、来た逆方向に駆けだしていった。泣いていたのかもしれない。彼女には同情するけど、ちょっとむかつくわね。
「君に出ていかれるのは痛いだろうな。」
「あんまり卑下するのは良くないわよ、かえって。」

 彼は、本当はではなく、本当に有能なのである。チームにとっては、また、私も含めたチーム全てのメンバー個々にとって、そして、市民の大半にとって、有能なのである。
 確かに、戦い方も、その全ての能力も派手ではないわ。一発で魔獣をぶっ倒す、例えば大火球を放つなどの能力はないわ。でも正確に、かつ体の中にダメージを、狭い範囲だけど打ち抜く、切り裂く、突き刺すなどはすごいのよね。私の攻撃の時間稼ぎ、陽動、ダメージを広げて動きを鈍らす。それは、私の攻撃で倒した相手にすかさず止めを刺す、私に向かってくる複数の魔獣やら、ゴブリン、オーク、オーガ等を押し返す、数を減らして守ってくれる。この数年間、特に結婚してからは、それが全く一体に近くなっている。
 雑用事や作戦だってそうよ。慎重で、準備をしっかりする、先を見通すけど、どこか抜けているし、迷ってしまったりしている。それを私が、指摘したり、なおさせたり、手伝って補正する。そして、私の言ったこと、提案したことを、うまくいくように立案して、進めてくれる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

いじめられっこが異世界召喚? だけど彼は最強だった?! (イトメに文句は言わせない)

小笠原慎二
ファンタジー
いじめられっこのイトメが学校帰りに攫われた。 「勇者にするには地味顔すぎる」と女神に言われ、異世界に落とされてしまう。 甘いものがないと世界を滅ぼしてしまう彼は、世界のためにも自分の為にも冒険者となって日々のお金を稼ぐことにした。 イトメの代わりに勇者として召喚されたのは、イトメをいじめていたグループのリーダー、イケメンのユーマだった。 勇者として華やかな道を歩くユーマと、男のストーカーに追い回されるイトメ。 異世界で再び出会ってしまった両者。ユーマはイトメをサンドバッグ代わりとして再び弄ぼうと狙ってくる。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

処理中です...