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俺は独身なのか?(サムロはあきれる)

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「ピール公爵閣下はお美しいですな。このような方を妻とされて、コリアンダー公爵閣下はお羨ましいですな。」
 まあ、デュナは美しい。他人に言われると実に嬉しいし、快感に感じる。だが、
「しかしながら」
 お、何が言いたいのだろうか?
「貴国のパパイ大公閣下は、コリアンダー公爵閣下は独身であり、ピール公爵閣下は、コリアンダー公爵
の監視するために身辺に潜入しておられる、コリアンダー公爵はピール家を乗っ取ろうとしている、どうしてもピール公爵家から手を引かなければ、兵を率いてでもコリアンダー公爵を逮捕しなければならないとおっしゃっていると。」
 おー、デュナが怒っている、怒っている。
「ほお~。私は独身だったのですか?初めて知りましたよ。さて、ここにいる私の妻は誰なのでしょうね?」
 俺はというと、怒るより呆れてしまった。
「さ~て、私にはピール公爵デュナ閣下としか見えませんが。コリアンダー公爵閣下を見張っているのでしょうかな?」
 こっちはすっかり、面白がっている。
「どうなんだい?夜の方は?」
「あなたの妻である、ピール公爵デュナですよ。そして、夜も・・・あなたと抱き合っているのは私です。」
 もう、あきらめた、ノッテるわというデュナ。侯爵夫人は夫を窘めた。

「それで貴国の国王陛下はピール公爵救出に向かわれるパパイ大公の義挙に参加されるのですかな?」
「我が国は、貴国との長い戦争で、貴国同様酷い赤字ですからな、これ以上の戦争などはとてもとても・。それに、目の前におられるのは、数年前のナツミイ王国との国境紛争で、勇名をはせたコリアンダー公爵サムロ閣下ですからな、敢えてことを起こすなどとは・・・。」
と冷や汗ものだ、という素振り、役者だのう。デュナ、お願いだから、その"意外過ぎる"オーラを出すのはやめてくれないが?たしかに、本当に大したことではないし、命令されたからのことであって..全くだれが尾ひれをつけているんだか?"

 隣国の内戦はある程度、出来るだけ相打ちになって欲しいし、参戦するなら領土を割譲できるタイミングで、侵攻したいのは当然である。だから、パパイ大公の情報を多少なりとも送り、自分達が大公の側には参加したくてもできない理由を言い立てているのである。
「頭の古い連中は煩くて困りますがな。国の置かれた状態がわからない。」
 これは愚痴だな。積極派がいるということだろう。これはチャンス、他人の不幸は蜜の味だし、こちらのチャンスなのだから。こいつらとしては、戦争での領土拡大は大してメリットはない、戦場になることでの損害の方が気になる。賠償金とかの流入での国内経済の好景気というのにも食指が働くが、というところだろう。
「何故か、日ごろは戦争反対を唱える進歩派と称する輩も何故か、大公人気が高くてね。」
 大公の統治下に理想のモデルをなんて考えているんだろうか、こちらと同じだな。イチジーク会長、もといイチジーク書記官、訂正元書記官に外遊、遊学して、窘めてもらわないとな。もうそろそろ出国の予定のはずだが、しっかり目立たないように援助しないとな。

「今夜は宿泊なされて、明日ゆっくりとではどうでしようか?」
「お言葉に甘えさせていただきます。」
 大体のところは、来るときに見たが、帰りがけにまた、さらにゆっくり見ていきますよ。
「夜、重砲が暴発してしまうかもしれませんが、被害はないですから、安心していてください。」
「ちょっ・・・。コホン。・・・。ちゃんと火薬と弾を用意してよね、いっぱい。」
 笑いをとってやった。
 その夜、重砲が響き渡ったそうだ。

 翌朝、朝食の時、冗談交じりに指摘されて、流石に俺もデュナも、顔が赤くなった。
「こちらの領民達に被害はありませんでしたか?」
「いや、来年は子だくさんかもしれませんな。そのくらい、深刻な被害がありましたよ。」
と侯爵は笑っていたが、夫人は少しあきれ顔だった。
「パパイ大公閣下は、三位一体教会を国教としているサマラ王国の王女を三位一体教会公認正妻として、迎えられるというもっぱらの噂ですよ。」
 別れの挨拶の直後、侯爵は俺の耳で囁いた。
「それは初耳ですね。」
 予想はしていたが、初耳である、具体的な話は。
「正妻のはずのゼハンプリュ夫人はどうなされるのでしようか?」
「さあ・・・、多分、やはり正妻、運命論教会公認正妻では?まあ、サマラ王国王女は、まだ12歳ですから・・・。」
 ゼハンプリュ夫人の座、寵愛は大丈夫だということなのだろう。しかし、俺は複雑な気持ちだった。本当は大して知らないはずの彼女を知ってしまっていたからだ。デュナは、複雑に怒って、悲しんでいるようだった。

「大体、私の胸を鷲掴みにして、執拗に・・・しかも他人の館で・・・あなたのせいよ。もう、変態なんだから・・・。」
「お尻の・・・まで嘗めさせておいて、どちらが変態だろうね?」
と帰りの馬上で言いあって、責任のなすりつけ合いをした。市場にも、小高い丘から周囲の景色を見たり、村々の田畑牧場を見ながら、物の価格の上昇ぶり、人の動き、流れ、行きかう物資に注意を向けていた。以前の、平時の動きではないと感じることができた。
「こちらは大公様の支援に乗り出すつもりね。」
 デュナが指摘した。同感だ、異論なし。
「こちらを抑えながら、パパイ大公の軍にあたるには、どうしたらいいか、どうするか、というところだな。」
「パパイ大公様が、どう動くか、どういう進軍のコースをとるかも考えないと。まずは、コリアンダー公爵家を潰すことを目標にたてられるているでしょうね。謀反を起こそうとしているから懲罰、という大義名分があるものね。そのためには、どう進むか?」
「それもあるだろうけど・・・ここを一気に占領すれば、国全体に圧力をかけられる、王都にも・・・。まず、王都に進むかも。」
「王都に?」
 自分でも不思議だが、急に、王都にまず侵攻という構図が頭に浮かんだ、この時。
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