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私達は前に進むのよ、そこが地獄であっても。
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彼は、やっぱり実にいやらしい手つきで私の体を洗ってくれたわ。私は?彼は自分で自分の体を洗った?そうです、私は淡々として、洗ってやったわ。他の女の臭いを完全に、きれいに洗い、流しさるために、執拗に、徹底的に洗ってやったわ。決して、彼のようにいやらしい気持ちなんて、少しも、微塵もなかった・・・なかったわよ・・・でも・・・あ~、どうでもいいじゃない!
とはいうものの、今、現在はというより、この世界では?何と言えばいいかしら?とにかく、今私と体を洗いっこしているサムロは、ガマリアとも、ゼハンプリュとも、そしてイチジークとも体を、肌を合わせていない、抱いていないのよね。臭いも何もついていないんだけど・・・。でも、感触は覚えている?のだから、それも流したい、そんな気持ちで洗ってやった。
でも、考えてみると、彼も同様なのかもしれないわね。そう考えると、彼の手つきは私から、大公様の臭いを消し去ろうとしているようにも思えてきたわ。この私は、大公様に抱かれてはいないのだから馬鹿みたい。感触は覚えているわ、ゼハンプリュと胸を押し付け合った感触とそうしながら大公様に愛された感触までしっかり覚えているわよ。どんなに洗い流そうとしても、そんなことできるはずないでしょう?この焼きもち焼き!
私と同じなのよね、でも。
「私でいいの?」
「ああ。とっても魅力的な体だよ。」
「それなら、しっかり鑑賞して、感謝しなさい。」
「ああ、そうしているよ。」
私達は、実に馬鹿な会話をしてから、湯にゆっくりと浸かったわ。
「情勢はどう?あなたはどう思う?」
「少しは、反撃できたかな?しかし、俺達は追いつめられている、というところだな、未だに。」
彼の言葉の通りだと思った、思っていたけど、突然、
「?」
と思ったというか、感じたわ。他の私達からの電信?記憶がよみがえった?
「少し違うと思うの。パパイ大公様は、必ずしも、そう考えていないかもしれないわ。」
「は?何故、そう思うんだ?」
サムロは、実に不思議そうな顔をしたわ。当然よね、私もそう思ってきたもの。他の3人の私も、そう思って苦しんでいたもの。でも、この私も少し前まで知らなかった、知りえなかった、あの3人も知りえなかったことを、この私は今知っているのよね。
「ねえ、サムロ。私は4回大公夫人になったのよ。いえ、5回大公夫人になって、4回までは大公様があなたを敵としている時の大公夫人だったのよ。正確には・・・正確なのかどうかはわからないけど・・・5人の私は大公夫人で、そのうち4人は、少なくとも大公様があなたを敵としたときには大公夫人だったのよ。そして、その5人の記憶を共有している・・・そういうことにしましょう・・・のよね。本当のところ、大公様の気持ちは分からないわ。でもね、私は大公様が追いつめられていて・・・そこまではいかなかったとしても・・・苦しんでいたというか焦っていたというか・・・という状態だったわ。私は、そう思って、大公様を励まし、助けようとしていた・・・と思うわ。もちろん、あくまでも私の主観、私が思っていただけのことだけど。」
そうだ。ゼハンプリュがサムロの妻でいた以上、大公様は完全に不利だった。コリアンダー家だけでなく、王家も、さらにカーキ公爵家も敵にしてしまっていたのである。それに、イチジーク書記官の活躍はすごかったわ。大公様に期待する進歩派勢力を切り崩したし、コリアンダー公爵夫人だった時には、それは一層凄かったわ。市民勢力を大公様は、完全に敵にしなければならなかったわ。王家、コリアンダー公爵家、市民勢力VS貴族保守勢力、パパイ大公という構図にされてしまったのよね。
「パパイ大公も・・・少なくとも苦しいと思っていたというわけか?」
考え込むように彼は言ったわ。
「だから、大公様は追いつめられてという気持ちも・・・。」
とつい口にしてしまった。すかさずサムロは厳しい表情になって、
「本当にそう思うかい?俺が恭順の意を示したら大公はあきらめてくれるかい?デュナ?」
覗き込む彼に私は首を横に振った。大公様が一方的に、彼を潰そうとしているのは明らかだし、彼の行動、反撃に苦しんでも、それはあの方の自業自得だし、それであきらめる方では決してないわ。私を彼から奪ったからと言って、彼を赦すような方ではないということは、私はよく知っている。
「とにかく、俺達が思ってるよりも情勢は悪くない、俺達にとってはということになるな。勝ち目が、その分大きくなるわけだ。もしかすると、ほとんど可能性はないけれども、不利を悟ってあきらめてくれるかもしれない・・・かな。」
最後は、私のために付け加えてくれたことはわかったわ。絶対、そうはならないと私も彼も分かっている。あの方は、既に賽を投げてしまった、もう戻れないし、戻ろうとはしないでしょう。だから私は、私達は戻れない、前に進むしかないのよね。
「私達は前に進みましょう。そこが地獄であっても・・・。」
「何があるか分からないけど、ともに行こう、行ってくれ、ともに。」
「あたりまえでしょう。血の盟約も終わったんだから。」
「ああ。互いの体に深く刻み込んだんだしな。」
私達は抱きしめ合った。そして、直ぐに立ち上がって湯からあがった。湯にのぼせかけたからだ。
そのまま、彼は私をお姫様抱っこして、寝室に、侍女達を呆れさせながら、行った。ベッドの上、何度も何度も、同じことを確認しながら、激しくくんずほぐれつした、そのまま記憶を失うまで。
翌日かなり日が高くなって目を覚ました時、もう私は悲しくとも、迷うことはしないと決意していた。悪魔と魔女であってもいいのだ、すすむのよ、私達は。
とはいうものの、今、現在はというより、この世界では?何と言えばいいかしら?とにかく、今私と体を洗いっこしているサムロは、ガマリアとも、ゼハンプリュとも、そしてイチジークとも体を、肌を合わせていない、抱いていないのよね。臭いも何もついていないんだけど・・・。でも、感触は覚えている?のだから、それも流したい、そんな気持ちで洗ってやった。
でも、考えてみると、彼も同様なのかもしれないわね。そう考えると、彼の手つきは私から、大公様の臭いを消し去ろうとしているようにも思えてきたわ。この私は、大公様に抱かれてはいないのだから馬鹿みたい。感触は覚えているわ、ゼハンプリュと胸を押し付け合った感触とそうしながら大公様に愛された感触までしっかり覚えているわよ。どんなに洗い流そうとしても、そんなことできるはずないでしょう?この焼きもち焼き!
私と同じなのよね、でも。
「私でいいの?」
「ああ。とっても魅力的な体だよ。」
「それなら、しっかり鑑賞して、感謝しなさい。」
「ああ、そうしているよ。」
私達は、実に馬鹿な会話をしてから、湯にゆっくりと浸かったわ。
「情勢はどう?あなたはどう思う?」
「少しは、反撃できたかな?しかし、俺達は追いつめられている、というところだな、未だに。」
彼の言葉の通りだと思った、思っていたけど、突然、
「?」
と思ったというか、感じたわ。他の私達からの電信?記憶がよみがえった?
「少し違うと思うの。パパイ大公様は、必ずしも、そう考えていないかもしれないわ。」
「は?何故、そう思うんだ?」
サムロは、実に不思議そうな顔をしたわ。当然よね、私もそう思ってきたもの。他の3人の私も、そう思って苦しんでいたもの。でも、この私も少し前まで知らなかった、知りえなかった、あの3人も知りえなかったことを、この私は今知っているのよね。
「ねえ、サムロ。私は4回大公夫人になったのよ。いえ、5回大公夫人になって、4回までは大公様があなたを敵としている時の大公夫人だったのよ。正確には・・・正確なのかどうかはわからないけど・・・5人の私は大公夫人で、そのうち4人は、少なくとも大公様があなたを敵としたときには大公夫人だったのよ。そして、その5人の記憶を共有している・・・そういうことにしましょう・・・のよね。本当のところ、大公様の気持ちは分からないわ。でもね、私は大公様が追いつめられていて・・・そこまではいかなかったとしても・・・苦しんでいたというか焦っていたというか・・・という状態だったわ。私は、そう思って、大公様を励まし、助けようとしていた・・・と思うわ。もちろん、あくまでも私の主観、私が思っていただけのことだけど。」
そうだ。ゼハンプリュがサムロの妻でいた以上、大公様は完全に不利だった。コリアンダー家だけでなく、王家も、さらにカーキ公爵家も敵にしてしまっていたのである。それに、イチジーク書記官の活躍はすごかったわ。大公様に期待する進歩派勢力を切り崩したし、コリアンダー公爵夫人だった時には、それは一層凄かったわ。市民勢力を大公様は、完全に敵にしなければならなかったわ。王家、コリアンダー公爵家、市民勢力VS貴族保守勢力、パパイ大公という構図にされてしまったのよね。
「パパイ大公も・・・少なくとも苦しいと思っていたというわけか?」
考え込むように彼は言ったわ。
「だから、大公様は追いつめられてという気持ちも・・・。」
とつい口にしてしまった。すかさずサムロは厳しい表情になって、
「本当にそう思うかい?俺が恭順の意を示したら大公はあきらめてくれるかい?デュナ?」
覗き込む彼に私は首を横に振った。大公様が一方的に、彼を潰そうとしているのは明らかだし、彼の行動、反撃に苦しんでも、それはあの方の自業自得だし、それであきらめる方では決してないわ。私を彼から奪ったからと言って、彼を赦すような方ではないということは、私はよく知っている。
「とにかく、俺達が思ってるよりも情勢は悪くない、俺達にとってはということになるな。勝ち目が、その分大きくなるわけだ。もしかすると、ほとんど可能性はないけれども、不利を悟ってあきらめてくれるかもしれない・・・かな。」
最後は、私のために付け加えてくれたことはわかったわ。絶対、そうはならないと私も彼も分かっている。あの方は、既に賽を投げてしまった、もう戻れないし、戻ろうとはしないでしょう。だから私は、私達は戻れない、前に進むしかないのよね。
「私達は前に進みましょう。そこが地獄であっても・・・。」
「何があるか分からないけど、ともに行こう、行ってくれ、ともに。」
「あたりまえでしょう。血の盟約も終わったんだから。」
「ああ。互いの体に深く刻み込んだんだしな。」
私達は抱きしめ合った。そして、直ぐに立ち上がって湯からあがった。湯にのぼせかけたからだ。
そのまま、彼は私をお姫様抱っこして、寝室に、侍女達を呆れさせながら、行った。ベッドの上、何度も何度も、同じことを確認しながら、激しくくんずほぐれつした、そのまま記憶を失うまで。
翌日かなり日が高くなって目を覚ました時、もう私は悲しくとも、迷うことはしないと決意していた。悪魔と魔女であってもいいのだ、すすむのよ、私達は。
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