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最後通牒を出すということよ。

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 私は、我が家の枢密院を招集した。直轄領の経営については、サムロに代行させた。もちろん、私の秘書官、側近、行政官もついてだ。彼を信じていないわけではないわ。ちゃんと形式を整えないと、彼も、私も非難されるからだ。まあ、互いにそうしているわけで、彼も私同様うまくやっているわ。

 私が選任した貴族、軍人、文官、聖職者、学者、元議員、そして議会からの推薦者から、枢密院は構成されている。このメンバーは議会の承認を受け、議会に罷免権がある。重要事項、内密にすべき案件について、私の諮問に基づき議論するもの。
 そこで私は、パパイ大公様が国家に、王家に反旗を翻すことを画策していること、そのために我がピール公爵家を乗っ取り、コリアンダー公爵家を潰すことを考えている。大公様にそのような企てを思い留めることを直言する。聞き入れられなければ、我が家は国、王家の近衛としての役割をはたす。夫のコリアンダー公爵と共同で行う。
 以上の可否について、諮問したわけ。最終的には、議会にも告げるということも伝えた。

「それでよろしいのですか?」
 再洗礼派教会の領内大司教が心配な表情で尋ねたわ。それは私のパパイ大公様への思いを心配してのことと、コリアンダー公爵家と共闘することに対しての領内の反応についての心配だった。
「コリアンダー公爵家が潰れても・・・。」
 貴族の議員が口にしたわ。
 大公様が、コリアンダー公爵を潰そう、国、王家に処分させようと画策していることは、彼らの中でも周知のことだったわ。もう露骨なものになっていたからね。

「コリアンダー公爵家がなくなったら、大公様の動きを止められなくなるわ。それで、国に対する近衛を自負できるの、我が家は?」
と言ってやったわ。
 皆は同時に、大公様がピール公爵家を乗っ取ろうと考えているのではないかという懸念も共有していたわ。だから、わりと早く話は進んでくれた。一番の懸案は、大公様と決別してよいかということとコリアンダー公爵家との共闘。でも、結局は説得をするということで前者は納得しちゃったわ。みんな、ここまですればいい、ということがあればいいということなのよね。少し、複雑な気持ちなのよね、私としては、でも、私も同じだけど。後者は、ずいぶん一緒に、ということが多かったし、分かっているけど割りきれないというところで、大義名文、王家、国家の近衛、を理由にしているところがあるかしら?心配したほど揉めずに、納得してくれたわ。
 とにかく、激論が何度か交わされて、徹夜したけど、何とか私の提案でまとまってくれたわ。このあと、議会に諮らないといけないのゃね。どのタイミングがいいかしら…。あ~、面倒くさい。でも、だから廃止したいとは思わないわ、そこが大公様様には分からないことなのよね…。効率はいいかもしれないれど、大公領の議会・・・イチジーク書記官は議会とは言えないと切り捨てていたけど。どんなにご意見番的な口うるさい論客の議員達を赦していたとしても、単に意見を聞くだけだからね。でも、大公様なら・・・ああ3度、私は受け入れたのよね。ピール家全体も、そう・・・。でも、やっぱり・・・。この期に及んでも、私は迷い続けている。サムロとの血の盟約を反故にしたいという誘惑に駆られている。でも、4人の私は、間違っているのよ。

 あの私は、私達はどうなっていたのかしら?大公様が勝利しても、敗北しても後悔はしなかったのだろうか?しなかったかもね?負けていたら、多分絶対に、大公様に私の愛を示すために、私の愛を永遠にするために、壮烈な戦死を遂げていたはずだわ。勝っている場合だって、不滅の愛にするために、陣頭指揮に立って、大公様に大勝利を捧げて、壮烈な戦死を遂げているかもしれないし、大勝利で大公様のもとに凱旋したかもしれない。どちらにしても、後悔なんかするはずもないわ。でも、大公様が勝って、私が生き残った場合は・・・ゼハンプリュと尻を並べて、あるいは上下になって、腰を振り、喘ぎ声をだして、性技を尽くして大公様の愛を競いあい、子作りを競って・・・、こちらも後悔なんかしてる暇はないでしょうね。馬鹿な私達・・・でも幸せだったかも、少し羨ましい?
 今の私は、大公様と敵対することを回避できても、大公様をゼハンプリュに奪われたままなのだ。それが、少し悔しい・・・。サムロには悪いけどね。

 そんなことを顔には少しも出さず、枢密院議員達の、
「いつでも動けるように動員体制を整えておくべきではないでしょうか?」
「いや、武器、弾薬、糧食などの準備から始める必要があると思います。すぐにそこから。」
「まだ、パパイ大公が反乱を起こすと決まったわけではないでしょう?元婚約者であられた公爵閣下の真摯な諫言に、耳を傾けられる可能性もあるのですから、それを待つべきかと。」
「あまりに早いうちに兵備の動きをしたら、我らが反乱を準備しているとされかねませんよ。」
「結局大公が反乱はあきらめたら、その準備がむだになってしまうでしょう?」
「そう。無駄な費用と労力、時間を使ったことになりますね。」
「議会に諮らず進めるのは、後々問題になりますよ。」
「そんなことを言っていては、肝心な時に間に合わぬのではありませんか?」
の喧々囂々の意見を取りまとめるのに、私は苦労することになったわ。

 それから、主だった親族、家臣達を集めて方針を納得させて・・・。
 数日後、議会には現状を説明し、方針は匂わす程度に説明した。

 私とサムロはコリアンダー領に。こっちは、大公様の圧力をはっきり受けているから、もう反大公様に固まっていたから、いま一度、暴挙を取りやめさせるチャンスを与えるということで議会までの了承が容易にとれたわ。こちらでの政務が終わると、私達は最後のチャンスをかけて、王都に旅立つことにした。大公様も王都に来ることが確実な時を見計らって。
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