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どうせこうなるなら、きれいなままで結婚したかった。

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「は?何を言っているんだね?」
 王都のパパイ大公邸で、大公様が外出からお戻りになった時、私は、既に外出着、というよりピール公爵家の軍装を着ていた。我が侍女も使用人も全てだ。半数以上は既に、ここを去っていた。その姿を見ても、大公様は何の冗談かね?という顔で、離婚させていただきます、という私の言葉を訝しそうに返した。
「私は、カーキ公爵家ご長女、元王太子妃ゼハンプリュ様と、ベッドの上で並んで尻を振って殿下のご寵愛を争うようなご無礼をしたくありません。ですから、身を引いて、殿下と離婚させていただき、妻の座をゼハンプリュ様にお譲りいたします。今まで、ご寵愛をいただいたこと感謝にたえませんが、今ここで、お別れのご挨拶をさせていただきます。」
と一気に言ってやったわ。いい気味とは思ってはいなかったわ、心は張り裂けるようだったわ。でも、私は我慢できなかった。そして、時間をかけて用意して、今日去っていくことにしたの。もう、後に残しているものはないわ、北方の大公領にも。

「何か誤解をしているんじゃないかい?実家にしばらく帰っても、いつでも私の下に戻れるから。私は、君の場所はずっとあるからね。」
と微笑んでいた。
 本当はある程度察していたのかもしれない。少しづつではあるが、荷物を実家に送っていたことも、何か考えているとは感じとっていたはずだ。大公様の家臣達は、男女とも皆優秀だったから、武人としては別だけど。後から考えれば、この時、先を見通した上での言葉であったのかもしれない。大公様は、それだけのものを持っているから。
「もう、帰ることはありません。」
 そう言って、少し下を向いて、まともに大公様の顔を見ると涙が出そうだし、決心がぐらつきそうだったからだ、大公様の脇を通り過ぎていった。私の家臣達が、整然とそれに従う。私の前に、大公様の家臣達が立ちはだかろうとしたが、すかさず私の部下が前に出た。
「おどきなさい。」
 私が睨みつけると怯み、大公様が指示したのだろう、すぐにさっと退いた。そのまま、外に用意してあった数台の馬車に乗って、実家ではなく、コリアンダー公爵邸に向ったの。

 コリアンダー公爵家王都邸の前につくと、すぐに門があいたわ。すると、屋敷の前にはコリアンダー公爵と彼の側近達とコリアンダー公爵家一族、女達も多かったわ。
「ピール公爵家長女デュナ様。ようこそお出でになりました。我妻として。」
と、馬車を颯爽として降りた私に、彼が頭を下げて私を迎えようとしたら、女達、彼の歳の離れていない叔母達や妹達が私達の間に割って入った。
「ピール家のご令嬢にして、元パパイ大公夫人デュナ様。コリアンダー公爵家の当主の嫁としてふさわしいか、まず試させていただきます。」
たって~。こ、この田舎者の脳筋女だもが~。ま~たく、サムロ~、なにあきらめきった顔しているのよ、とめなさいよ~。もう、いいわよ!ちょっとむしゃくさしゃしていたし、ちょうどいい服装だから、ピール公爵家の女がどういうものか見せてやろうじゃない!田舎者の武術とは、格の違いをみせてやるわよ~!

 でも、彼女達なかなかだったわ。私が一人で不利にならないように、消耗しすぎないように剣でも、槍でも、確かめる程度に立ち会って、銃や弓も命中率とか、射程とかより型を見てくれたわ。さすがにに、武人の家よね、我がピール家に次ぐ。 
「さすがですかわ、ピール家のご令嬢ですわ。合格・・・感服いたしました。」
「前妻は、型はなかなかでしたが、力強さに欠けてましたわ。そこにいくとね・・・お義姉様は違いますわ。」
とにっこり笑って、一斉に頭を下げてくれたわ。でも、なんだか私は力持ちだと褒められているようで、あまりうれしくなかったわ。

 そして、そのままサムロに手を握られ、邸内に。既に、再洗礼教会の司祭様が待っていてくれて、簡単な結婚式の準備ができていたわ。私の両親も間に合ったわ。再洗礼教会としては、パパイ大公と三位一体教会の態度にひどく不満をもっていたから、全面協力。我が家も、カーキ公爵家、そりゃ国内第一の貴族だけど、こう天秤で計られてというのは頭にきている。私とサムロは、そのまま司祭様の祝福を受けて、誓の口付け。とりあえず簡単な結婚式、王都での結婚式という、既成事実を作ったわけ。
 その日の内に、国王陛下に結婚のご報告、誰も文句は言えないわよね。

 実は、王太子夫妻の離婚の噂を聞きつけて、かなり前にコリアンダー公爵に事実関係の確認と相談に、私は出向いていた。大公様には、もちろん内密にだけど。そして、サムロの、コリアンダー公爵の口から、
「カーキ公爵閣下は、パパイ大公閣下とゼハンプリュ様との結婚を同意なされたそうです、パパイ大公閣下との間で。」
と聞かされたわ。
「それは誰からの情報ですか?それで、ゼハンプリュ様は?」
と私が問うと、
「カーキ公爵閣下と・・・ゼハンプリュ様からです。大公閣下の妻となるつもりだと、ゼハンプリュ様から聞かされました。かの字よは、ミカエル様とガマリアに復讐するつもりです。」
 大きなため息をついたわ、彼は、そう言うと。
「お互い、捨てられてしまった同士になりましたね。」
 この言葉に思わずかッと頭にきたけど、不快でしかたがないけど、言い返せなかった。
「お互い、世間のいい笑いものね。」
「ゼハンプリュ様には同情、パパイ大公様は、そうしたゼハンプリュ様を迎えることで人気がでますね。」
 その時、どういうきまぐれか、いたずら心からか、トンデモナイことが思いついちゃった。
「私とあなたが結婚したらどうなると思われますかしら?」
 しまったと思って、慌てて、
「た、例えばの話ですよ。」
と取り繕うとしたわ。すると、彼はまじめな顔で、
「多分、パパイ大公とゼハンプリュ様の結婚がかすんでしまうでしょうね。パパイ大公閣下としては、ひどく立腹なされると思いますね。それに。」
 唖然としている私に向って、探るような目で、
「もしもという話ですが、ピール家とコリアンダー家の婚姻は、両家の大きな利益になりますね。王家も大公も、一目置かねばならないくらいに。」
 悪人顔だったわ。人のいい、田舎者と思っていたけど、なかなか悪党じゃない、少しは身直したわ。確かにそうだと思ったわ。
「ではどうですか、コリアンダー公爵閣下。私に求婚なさっては?」
 彼は少し躊躇してから、
「ピール公爵家ご長女デュマ様。私、コリアンダー公爵家当主サムロと結婚していただけませんか?そして幸せになって、私達を捨てた者達、奪った者達を見返してやりませんか?」
 立ち上がって、頭を下げて言ったわ。
「謹んでお受け致しますわ、コリアンター公爵サムロ様。末永くよろしくお願いします。」
 その後二人ともしばらく目が点状態だったわ。でも、取り消さなかったわ、お互いに。



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