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さすが会長・・・

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「泥濘もものともせず、将兵の陣頭に立って進むデュナ様や馬上のゼハンプリュ様のご雄姿には、比べようもありませんよ、私などは。ただただ、夫サムロの隣に、肩を並べて駈けるのでやっとという状態でしたから。」
 イチジーク元会長、元書記官、現コリアンダー公爵夫人アルミサエルは、穏やかな表情で、今年、昨年、一昨年の国軍軍事演習での彼女の雄姿ぶりを私とゼハンプリュが絶賛したのに対して、軽くかわしたわ。ちなみに、ゼハンプリュは昨年から騎馬でカーキ公爵家の部隊を率いて参加するようになったの。私の雄姿ぶりを大公様が褒めるので、対抗意識を起こしたのよね。でも、騎馬でもへたばって、臨時で雇った兵士が大半、子飼いの家臣達も所詮護衛程度の連中だから、落伍者続出・・・見られた様ではなかったわ。ピール公爵家の私と私の将兵とは格が違うのよ。毎回悔しそうに彼女は私を睨んだけどね、ざまあみろというところよね。
 それに比べるとアルミサエル、この私からみても、まるで戦いの女神が、英雄の傍らで彼とともに将兵を率いて見えるくらいの雄姿、あのコリアンター公爵が英雄に見えちゃうんだから、大したものだったわ。

 私達二人がこうして、コリアンダー公爵夫人と話をしているのは、彼女が主宰しているサロンに二人揃って訪れたからなのよ。私達は、ともに北方風を取り入れてはいるけど、濃い紫を基調にしたドレスで、アルミサエルは簡素な動きやすい、市民の、でもまあ、この場で失礼ではないぎりぎりの、濃い青を基調にしたドレス姿だったわ。それがまた、彼女の美しさをより際立たせていたわ、悔しいくらいに。
 サロン・・・。
「皆さま、楽しそうですね。でも、少し騒がしすぎません?」
 ゼハンプリュは、こめかみをぴくぴくさせながら、自分を必死に抑制しながら、嫌みが少し漏れがちにやんわりと口にした。まあ、まあ、お偉い貴族や伝統的と言えば聞こえはいいけど頭の固い芸術家達の少し退屈なあなたのサロンから見れば、そうでしょうよ、と心の中で悪態をついてやったわ。でも同時に、あなたが言う?という正反対の言葉も湧きでちゃった。なに?

「にぎやかすぎるかもしれませんが、活気がありません?ゼハンプリュ様?」
 私が間に入ると、ゼハンプリュは必死に笑顔を浮かべたわ。
「そうですね。彼ら、彼女は国の、社会の将来や宇宙や微細なこと、人間の中、より人の心をつかめる芸術に夢中になっていて、エレガントという言葉を忘れがちになってしまうのですよ。そこのところは、ご容赦下さい。ああ、別室で新しく試作されたピアノの演奏が別室で始まりますわ。しかも、演奏者は最近人気の新進気鋭の作曲家にして演奏家です。どうか、聞いてやっていただけませんか?」

 もちろん私達は、快諾したわ。でも、本来の、今日の本来の目的達成のために動いたわ。本来の目的とは、パパイ大公様が市民の、庶民の味方であり、アルミサエルの味方であり、同志だということを彼女に納得させること。私達は、交互にその演奏の前に、演奏を聞きながら、その合間にも語ったわ、競い合った。彼女は穏やかな表情で頷いて聞いていたわ、嫌な顔もせずに。
 そして、演奏が終わると、侍女にコリアンダー家領の自慢のビール、数年間熟成し、サクランボを最後の数か月投入して熟成させた甘いビールを私達に持ってこさせた。さらに、甘い菓子も私達の前のテーブルの上に置かせた。

「夫サムロは、私の同士でもあり、親友でもあり、戦友でもあり、常に私を支え、助けてくれている者でもむあります。私達は、国のため、社会のため、尽くしているだけです。パパイ大公様に、害を与えようなど思っておりませんわ。大公様が、国に、社会に、人民に、進歩に害をなさなければ、そのおつもりがないのであれば、何故私達が大公様に歯向かうことがありましょうか?サムロがどう思っているかは、お分りではありませんか?ゼハンプリュ様によりコリアンター公爵家に仕えることができた者達の話をお聞きでしょうし、デュナ様は同じ武士の貴族の者として気持ちがおわかりでしょう?」
と最後に言って、立っている彼の手を握って優雅に座りながら、私達にこれ以上言わせることはなかったわ。私達は、悔しいけど、反論できなかったわ。

 そうこうしているうちに、コリアンダー公爵がやってきたわ。アルミサエルはすぐに彼を、私達のところに連れてきたわ。礼儀正しく彼は頭を下げた。彼と視線があった。何のとりえもない、ぼさっとした田舎者!その彼の肩を寄せ合って幸せそうなアルミサエルを見、この二人が、サムロが私より少し背の高い大女と、体をぶつけ合い、あんなこともこんなこともしているかと思うと、なんかむしゃくしゃしたわ、どういうわけか。

「馬鹿な女だな。ああなると、あのような聡明な女性も道理も何もわからなくなるものだな。」
と大公様は吐き出すように言ったわ、私達が、サロンの様子を語ると。

 その夜、私達はベットの上で重なり合って、女同士舌を絡ませあったまま、大公様に愛されることになった。異常な営みに返って燃えて、快感を感じてしまったわ。それはゼハンプリュも同じ。ぐったりして、横向けになっても体を抱き合っている私達に、優しい言葉を、称賛の言葉を与えてくれた大公様は、自室に行ってしまったわ。そこは、私の部屋だったから。
「このまま、お泊りになっては?、ゼハンプリュ様。」
「ありがとう、デュナ様。お言葉に甘えさせていただくわ。」
「私は大公様に従います。」
「私も・・・それに・・・。」
 彼女はやはり復讐したいのだ。私はというと、大公様に従うしかないのだ。互いに分かっていた。何故か、その後抱きしめ合っちゃった。

 気が付くと、せっかく他人の不幸という蜜の味が味わえるかと思っていたら、ミカエル王太子殿下は婚約者のゼハンプリュ嬢と、コリアンター公爵はやはり婚約者のガマリア嬢と、つまり一曲目とパートナーを交換して、2曲目が始まるとともに踊りだしちゃった。な~んだ、みんなを驚かす演出だったのね。つまらない。

 あの時はそう思ったけど、そうはならなかったのよね。
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