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そんなに懇願されても
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「お願いです。パパイ大公妃殿下。私は、サムロと幸福に過ごしているのです。あの夜のことが、婚約破棄されたことが、かえって幸運だったと、神の恩恵だったとすら思っているのです。パパイ大公殿下に、私達夫婦は含む所は全くありません。どうか私達を引き離さないでください。」
へ?あなた、ゼハンプリュさんですよね、あのカーキ公爵家のゼハンプリュさんとして、私の同学年で学園で過ごした、高慢なくらいの、触れば痛いくらいのオーラを纏っていた、怖いものなどない、他人に物を頼むことなど知らないというような感じのゼハンプリュさんですよね。なんですか、その捨てられた子猫が通りがかった人に向けるような瞳で、涙ぐんでさえいる、あなたは、コリアンダー公爵夫人は、ゼハンプリュさんではないのですか?
彼女のサロンに招かれた私は、どちらかと言うと招いて欲しいと打診したのだけど、私の方から。でも、招待状が異常に早く着いたのには驚いたけど。
着いてしばらく、ピアノの演奏に聞きほれていた私を、すみのソファーに招いて並んで座ると、彼女は私に懇願するように囁きかけてきたわ。
彼女の表情からは、感じからは、夫のコリアンダー公爵に暴力で言わされているという印象は受けなかったわ。
「君にもわかるだろう?ゼハンプリュ夫人へのコリアンダー公爵に対する振る舞いが?このような軍事演習に、彼女を同道して、その結果彼女は生き絶え絶え、疲労困憊してしまっていたのだ。彼女付きの護衛騎士ですら落伍したそうなんだ。それを無理やり連れまわして、あのような状態にまでさせようとは、非道にもほどがある。彼女に悪意を持っている国王や王妃とコリアンダー公爵はグルなのではないかと疑ってしまうのだ。私がやんわりと、彼女のことを少し労わった方がいいと窘めた時の彼の私への睨み方といったら・・・。それに、怯えながらも、私に助けをもとめようとする彼女の視線は、とても同情せずしていられなかったほどだったんだよ。」
とあの日、数年ぶりの国軍の軍事演習後、私とピール公爵家の部隊の夜営地での私の天幕で大公様が、感動的に語った内容とは全く異なっていたわ。そして、今の彼女は嘘を言っているとは思えなかったわ。決して、彼女に大公様を取られたくない、彼女のことを大公様がとても気にかけている、ということで嫉妬しているからではないのよ。
ゼハンプリュ夫人、コリアンダー公爵夫人のサロンには、以前何度か出席したわ。コリアンダー家の田舎者が、ひどく文武両道の品のいい、センスのいい部屋と思えるくらい、王都の洗練された美で飾られていたわ。それでいて、質実剛健さやコリアンター公爵家領の個性が消えていない。そのうえ、新進気鋭の思想家、科学者、芸術家も出入りしていて、にぎやかだけど、落ち着きをぎりぎり失っていないものだったわ。流石にゼハンプリュ夫人と思って、参考にしたくらい。でも、彼女の趣味かしら?とも思ったわ。夫、サムロとの仲がいいから、二人三脚で作り上げたように思えるものだったわ。彼女の口からも、自分が知らない世界を知ったとか、新しいもの、市民のもの、に感動したという言葉を聞いた。ピール家のサロンに集まる面々とも重なっていたから理解できないことはなかったわ。大公様には、不興だったけど。そこでの、口の悪い男女からのコリアンダー公爵夫妻の仲は、良すぎて、騒音で、領内が子だくさんになりそうだというもので、溺愛夫婦というものだった。彼女の夫のことを語る口調もそうだった。
国軍の軍事演習。私がピール公爵家の部隊を率いて参加したわ。大公様に、見てもらわないとね、と私は思ったし、張り切ったわ。それは我が部隊も同じ。何故私が率いて?色々事情があって、やむを得ずということで…実は私はと~ても乗り気だったけどね。私は、勿論、ピール公爵家の女ですもの、最後まで陣頭指揮で駆け回ったわ。突撃、一番乗り・・・てね。
でも、コリアンダー公爵夫人ゼハンプリュは、疲労困憊で夫サムロの肩を借りてという始末。それでも、彼女付きの騎士が落伍したんだから、彼女は合格点よ、十分。でも、私も、わが将兵も勝った~と思ったけどね。パパイ大公様は、私達を称賛したあと、姿が見えなくなって、夜になって私の天幕に来てくれて・・・。
コリアンダー公爵のゼハンプリュ夫人への仕打ちに憤慨して見せた後、少しきまり悪そうになって、
「単に彼女が哀れに感じただけなんだよ。口さがない連中がつまらないことを言っているようだが、気にすることはないよ。私の愛する妻は、君だけなんだから。」
と優しく囁いて、抱いてくれたわ。その上、私に付き合って天幕で、その夜はともに過ごしてくれた。この時の天幕は、本当に軍隊用の大きいだけで、特別なものではない、大公様が泊まるようなものではなかった。私は、皆と同様に夜営しようと思っていたから、ピール公爵家の女として・・・。そして、私を抱いてくれて・・・。
「素晴らしい体だよ。美しいよ。」
と言って・・・、私の胸が本当に大好きで・・・。
翌日、流石に、
「やはり背中が痛いよ。」
と笑って苦情を言ったわ。その顔がとても輝いていたわ。私は、ちょっと申し訳なく思ったけど、ピール公爵家の心意気というかを知ってもらっと、ちょっとうれしかったわ。
でも、
「夜の砲撃戦の轟音も、我がピール公爵家の嬢様の大勝利でしたな。あちらもかなりな轟音だったようですがね。」
なんて恥ずかしいことを言っているのは・・・・男達も女達もみんな揃って・・・。
へ?あなた、ゼハンプリュさんですよね、あのカーキ公爵家のゼハンプリュさんとして、私の同学年で学園で過ごした、高慢なくらいの、触れば痛いくらいのオーラを纏っていた、怖いものなどない、他人に物を頼むことなど知らないというような感じのゼハンプリュさんですよね。なんですか、その捨てられた子猫が通りがかった人に向けるような瞳で、涙ぐんでさえいる、あなたは、コリアンダー公爵夫人は、ゼハンプリュさんではないのですか?
彼女のサロンに招かれた私は、どちらかと言うと招いて欲しいと打診したのだけど、私の方から。でも、招待状が異常に早く着いたのには驚いたけど。
着いてしばらく、ピアノの演奏に聞きほれていた私を、すみのソファーに招いて並んで座ると、彼女は私に懇願するように囁きかけてきたわ。
彼女の表情からは、感じからは、夫のコリアンダー公爵に暴力で言わされているという印象は受けなかったわ。
「君にもわかるだろう?ゼハンプリュ夫人へのコリアンダー公爵に対する振る舞いが?このような軍事演習に、彼女を同道して、その結果彼女は生き絶え絶え、疲労困憊してしまっていたのだ。彼女付きの護衛騎士ですら落伍したそうなんだ。それを無理やり連れまわして、あのような状態にまでさせようとは、非道にもほどがある。彼女に悪意を持っている国王や王妃とコリアンダー公爵はグルなのではないかと疑ってしまうのだ。私がやんわりと、彼女のことを少し労わった方がいいと窘めた時の彼の私への睨み方といったら・・・。それに、怯えながらも、私に助けをもとめようとする彼女の視線は、とても同情せずしていられなかったほどだったんだよ。」
とあの日、数年ぶりの国軍の軍事演習後、私とピール公爵家の部隊の夜営地での私の天幕で大公様が、感動的に語った内容とは全く異なっていたわ。そして、今の彼女は嘘を言っているとは思えなかったわ。決して、彼女に大公様を取られたくない、彼女のことを大公様がとても気にかけている、ということで嫉妬しているからではないのよ。
ゼハンプリュ夫人、コリアンダー公爵夫人のサロンには、以前何度か出席したわ。コリアンダー家の田舎者が、ひどく文武両道の品のいい、センスのいい部屋と思えるくらい、王都の洗練された美で飾られていたわ。それでいて、質実剛健さやコリアンター公爵家領の個性が消えていない。そのうえ、新進気鋭の思想家、科学者、芸術家も出入りしていて、にぎやかだけど、落ち着きをぎりぎり失っていないものだったわ。流石にゼハンプリュ夫人と思って、参考にしたくらい。でも、彼女の趣味かしら?とも思ったわ。夫、サムロとの仲がいいから、二人三脚で作り上げたように思えるものだったわ。彼女の口からも、自分が知らない世界を知ったとか、新しいもの、市民のもの、に感動したという言葉を聞いた。ピール家のサロンに集まる面々とも重なっていたから理解できないことはなかったわ。大公様には、不興だったけど。そこでの、口の悪い男女からのコリアンダー公爵夫妻の仲は、良すぎて、騒音で、領内が子だくさんになりそうだというもので、溺愛夫婦というものだった。彼女の夫のことを語る口調もそうだった。
国軍の軍事演習。私がピール公爵家の部隊を率いて参加したわ。大公様に、見てもらわないとね、と私は思ったし、張り切ったわ。それは我が部隊も同じ。何故私が率いて?色々事情があって、やむを得ずということで…実は私はと~ても乗り気だったけどね。私は、勿論、ピール公爵家の女ですもの、最後まで陣頭指揮で駆け回ったわ。突撃、一番乗り・・・てね。
でも、コリアンダー公爵夫人ゼハンプリュは、疲労困憊で夫サムロの肩を借りてという始末。それでも、彼女付きの騎士が落伍したんだから、彼女は合格点よ、十分。でも、私も、わが将兵も勝った~と思ったけどね。パパイ大公様は、私達を称賛したあと、姿が見えなくなって、夜になって私の天幕に来てくれて・・・。
コリアンダー公爵のゼハンプリュ夫人への仕打ちに憤慨して見せた後、少しきまり悪そうになって、
「単に彼女が哀れに感じただけなんだよ。口さがない連中がつまらないことを言っているようだが、気にすることはないよ。私の愛する妻は、君だけなんだから。」
と優しく囁いて、抱いてくれたわ。その上、私に付き合って天幕で、その夜はともに過ごしてくれた。この時の天幕は、本当に軍隊用の大きいだけで、特別なものではない、大公様が泊まるようなものではなかった。私は、皆と同様に夜営しようと思っていたから、ピール公爵家の女として・・・。そして、私を抱いてくれて・・・。
「素晴らしい体だよ。美しいよ。」
と言って・・・、私の胸が本当に大好きで・・・。
翌日、流石に、
「やはり背中が痛いよ。」
と笑って苦情を言ったわ。その顔がとても輝いていたわ。私は、ちょっと申し訳なく思ったけど、ピール公爵家の心意気というかを知ってもらっと、ちょっとうれしかったわ。
でも、
「夜の砲撃戦の轟音も、我がピール公爵家の嬢様の大勝利でしたな。あちらもかなりな轟音だったようですがね。」
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