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良妻になるのよ。

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 あの日から数えて一か月以上たってから、私と大公様はパパイ大公領にある北方第一と言われる三位一体教の教会で結婚式をあげることになったわけ。私の再洗礼派から三位一体教への移籍に時間もかかったせいもあるわ。それでもというより、それだからこそ、厳かな結婚式は感動的だったわ。その夜は本当に、さらに感動的だったわ。大公様は、本当に素敵だったわ。
 こうして、私のパパイ大公夫人の生活がはじまったわけ。北の王都とも呼ばれる大公領の公都は、王都に準じる、いや上回るくらいに、立派で、壮麗な都市だった。はてがないように見える、草原の中にあるそれは、力強く、しっかり存在感を主張していた。
 王宮に似た、もとい王宮以上に洗練されて、しかも海外の、大公様は海外に留学されたし、度々、各国を訪問しているから、そこから得た影響も至るところに、建物の特徴、装飾、家具にちりばめられている。
 以前何度か来たことがあるけれど、いつも感動したものだったわ。今はさらに感動しているけど、同時にまた違った思いもこみ上げてきているわ。そして、来るたびに、さらに大きく、壮麗になり、新しいものが加わっているのが分かるわ。大公様が常に、公都に手を加えておられるからだ。それは私のためでもある。だから、私は大公様と二人三脚で公都を、パパイ大公領をよくして、発展させていかなければと思ったわ。
 でも、何?ちょっと疑問というか、もやもやしたものを感じるのは?

 広大な辺境領の南部は、比較的温暖で森や湖が点在し、田畑が、牧場が広がっているし、比較的的大きな都市も幾つかある。商工業も結構盛んだ。北にいくにつれ、草原が多くなり、気候は冷涼なものになっていく。都市と周辺の農耕地以外は、遊牧地域が広がるが、次第に遊牧地域の比率が広がっていく。公都トオマアトは、遊牧地域の比率が高くなるところの境界線上にある。
 辺境領、辺境大公領という名が、確かに似つかわしいけれども、大公様は各地で大々的な開発を行っていて、どこも大きな成果を上げている。王宮の私の部屋の窓から見える、大きな農耕地もそうだ。代々のパパイ大公は大公領の発展のために尽力してきたけど、あの方は本当に、何時も口癖の、
「民の公僕だ。」
「民の幸福が、私の望みだ。」
を実践しているのよ。

「だけど、それって、国からの莫大な助成金をつぎ込んでなのよね。」
 え?誰?そんな失礼を通り越して、無礼なことを言うのは?え、私?なに?そんなこと…。

 大体、大公様は、身分にとらわれず、有能な者を抜擢して行政官や将校に抜擢、議会だって身分には関わらず優秀な人材を選抜しているわ。口うるさいご意見番みたいな人達もいるけど、大公様はそんな彼らを、かえって厚遇はしても、疎んじていないわ。領民はみんな、能力さえあれば抜擢される、豊かになれると感じて、未来に希望を感じて、溌剌としているわ。

「それってさ、しょせん、偉大な牢獄の管理人じゃない?あとは奴隷じゃないの?」
 また、誰よ?私の心の中?そんなこと少しも思ってませんから、大公様!

 私は王都の貴族達のサロンに負けないサロンをここで開き、私の領地をさすが大公妃様、と言われるようにちゃんと治めて、あ、私は夫人としての領地を与えられているの、南部に、実家にもだけど、ピール家の女として、質実剛健、ことある時には、にも備えておこうと思ったわ。
 なんせ、ゼハンブリュ嬢をだまし、犯したコリアンダー公爵が大公様を悪く言っているらしいから、あそこの田舎者の騎士達に、本当の軍事貴族たるピール家のそれを見せつけてやらないのだ。大公様を、コリアンダー家から守るの、なんて思っちゃった。

 王都での生活でも、洗練されつつ、北方の素朴な美しさ、我が家の質実剛健、先進性をまとめ上げたサロンを開催して、伝統派から進歩派まで集めて、人気をはくしたわ。

 大公様が海外に行っている間の領地での代理も頑張ったわ。
 私は、大公様をいつも助けて、力になった…はず…鯛の刺身や鯨のベーコンとか、故郷の味は我慢して…大公様は白パン…王都の食事をほぼそのまま、それに羊や山羊肉料理などで貧相ではなかったけど…頑張ってきて、大公様も私が妻でよかったと心身ともに思ってくれている…はずだったわ。そう言ってくれているし・・・心からにきまっているでしょう!

 それなのに、何故、もう田舎者のコリアンダー公爵の妻となったゼハンブリュを、大公様は執着しているのよ?噂では、執拗にカーキ公爵家をはじめ至るところに働きかけ、圧力を加えて、彼女を自分の妻にしようとしているって。きって、田舎者の変態、無能、阿呆、最低男の卑劣漢のコリアンダー公爵サムロが中傷しているのよ…と思いたいけど。

「は?私は哀れなカーキ公爵令嬢を救い出したいだけだよ。」
とやんわり尋ねた私に、大公さまは笑って答えたけど。でも、救い出してからどうするつもりなのだろうか?そこまでは怖くて、私はどうしても聞けないでいたわ。
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