上 下
37 / 89

怯える悪役令嬢を守る・・・ことはできなかったのかもしれない(サムロの後悔)

しおりを挟む
「パパイ大公妃様。私は、サムロと幸せで別れようなどとは思ってはおりません。信じて下さい。」
 懇願せんばかりに、ゼハンプリュはパパイ大公妃であるデュナを前にした言った。彼女も、困惑していた。これも、ゼハンプリュのサロンでのことだった。パパイ大公妃デュナは、一人でやってきた。夫婦同伴でというわけではない、サロンの行き来は。隣り合った椅子に座った時、ゼハンプリュは囁くように言ったのである、周囲に気が付かれないように。

 ゼハンプリュのサロンは、コリアンダー家の叔母達のサロンと同様に、コリアンター公爵家の尚武の、質実剛健の家風を前面に立てて、雑多だが進歩的な思想家、哲学者から芸術家を招いいるが、王都の洗練された飾りつけを調和するように、それは文武両道の騎士、戦士を思わせる演出となっている。彼女が我が家の家風と進歩的な流れを、俺同様に尊重して、努力して作り上げた結果だ。議論で騒がしく、躍動的な音楽が奏でられ、新しい絵画が並べられ、革新的ともいえる機器も並べられながらも、洗練と、落ち着きが奇妙に同居して、調和している
 王太子妃ガマリアの穏健な進歩派の人士が集められ、派手すぎるような感じもするが、華やかなサロンと北方の文化とピール家の伝統、両方を演出しているパパイ大公妃デュナのサロン、保守派、伝統派が多いが、とは異なった様相である。

 パパイ大公夫妻の仲は悪くない、少なくともそういう噂だ。そして、彼女にとっても夫が自分以外の女と結婚しようなどを許したくはなかった。だから、力強く頷いた。そのパパイ大公夫人のデュナの姿を見て、聞いて、複雑な思いを感じてしまうのが、不思議だった。ほとんど知らない女なのに。

 だが、パパイ大公はゼハンプリュとの結婚を実行しようと、強引のことを進めてきていた。
 彼は、ピール公爵家出身のデュナと結婚している。が、三位一体教会信徒の彼は、再洗礼派の彼女との結婚を三位一体教会が認めていないため有効ではないと主張している。彼女は移籍をしてるのであるが、最近になって三位一体教会は彼女が心から正統な信仰に戻っていない、心は今でも異端である再洗礼派にあると宣告している。どちらとも、強引に飴と鞭でのやらせの結果なのだが、大公による。
 この手の理屈は、離婚の手法としてよく使われる。屁理屈ではあるが、屁理屈とは分かった上で使われている。庶民から王族まで。しかし、流石にまともな理屈ではないと多くの人が考えてはいるものの、金でその見解を出させて、離婚する輩はいる。その手を、パパイ大公は使ってきたのだ。
 多分、この後、再洗礼派教会とはデュナの結婚が認められているが、ゼハンプリュとは運命論教会からは認められているが、三位一体教会からはどちらの結婚も認められていないということで、この重婚を事実上認めさせるのだろう。すると一つ空きが?多分、どこかの王侯出身の妃を娶るための深謀遠慮なのだろう、その日に向けての、と俺は
悪意も込めて想像した。

 彼は、ゼハンプリュとの結婚を求めてきているのである。彼の真意が、国内第一の貴族カーキ公爵家を取り込むこと、それ自体で大きな力を取り込めるだけでなく、国際的に姻戚関係などで王侯貴族の関係が深く、保守派の巨魁であるカーキ公爵家の影響力はかなり魅力的である。さらに、ゼハンプリュの母は王族の娘である。王家に跡継ぎがない場合、国王の座につくとされている、法的な根拠などはないのだが、特別な家柄であるパパイ大公家だが、王家の血が入るということで、さらに重みが加わる。数少ない軍事貴族であり、コリアンター公爵家に次ぐピール公爵家のデュナを妻とし、進歩派に属するピール家の影響力で穏健な、進歩派貴族、市民の富裕層の取り込みも可能だった。

 あらゆる手段を使って、俺達の離婚を要求してきている。コリアンダー公爵家謀反の訴えをださせたり、高等法院に、ゼハンプリュの名で虐待による離婚の訴えがだされたりしている、もちろん彼女のあずかり知らぬことだ。国の議会でも、政府の幹部からもだ、俺への非難が出ている。続く天候不良による不作、それによる不況、長く続いた戦争の後遺症である財政難、社会の変動による新旧勢力の色々な面での対立で国内が混乱している中、パパイ大公を怒らせては、国内の混乱は大きいから、俺やコリアンター公爵家を犠牲にした方が被害が少ない、ということで声を大にする奴らが大手を振るう有様だった。カーキ公爵をはじめとして、俺達に、色々な理屈をつけて離婚を勧めてくる連中が多かった。中には、
「一時的に、あくまで一時的に離婚してもらう。その上、あらためて考えるのがよいのではないでしょうか?」
などと馬鹿馬鹿しい理屈を得意げに俺達や、さらには国王陛下にまで言上する奴まででる始末だ。俺達は孤立しつつあった、完全に。 

「わ、私のせいで・・・。」
と泣き、怯えるように震えるゼハンプリュを、
「君を苦しめてすまない。謝るのは私の方だ。」
と俺が抱きしめると、
「私と結婚したことを後悔しているの?そうよね、私なんか・・・。」
「違う。後悔なんかしていない。君を手放したくないんだ。」
「わ、私もあなたなしではいきていけない!」
 涙を流しながら、俺達は唇を貪るように吸いあい、立ったまま体をまさぐりあい、そして俺は彼女を持ち上げた。二人は着衣のまま、着衣をはだけて、激しく動いていたが、それはどこだったのか?
「どんなことがあっても、一緒だ。」
「死ぬまで二人で。」
と叫ぶように言った、二人は。彼女の幸せそうに喘ぐ顔が、美しく、妖艶でいて、可愛かった。なんとしても、彼女から離れない、手放さない、守るんだと心に誓っていた。

・・・誓っていたはずだったが、彼女は俺とむすぱれなかった方が良かったのではないかと、心のどこかで思っていたのかもしれない。
 再びあの夜にもどってしまっていた。そして、彼女にパパイ大公が、
「私の領地に来てください。」
と婚約者のピール公爵家令嬢デュナ嬢が腕にしがみついていたにもかかわらず誘いかけた時、声がでなかった、それは躊躇してとかではなく、本当にできなかった。その言葉が存在することが、許されていなかったとしか思えない。彼女は行ってしまった、パパイ大公とともに、デュナ嬢が困惑した顔で腕にしがみついているパパイ大公に手を取られて。

 俺は、全てを失ってしまったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売しています!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

料理屋「○」~異世界に飛ばされたけど美味しい物を食べる事に妥協できませんでした~

斬原和菓子
ファンタジー
ここは異世界の中都市にある料理屋。日々の疲れを癒すべく店に来るお客様は様々な問題に悩まされている 酒と食事に癒される人々をさらに幸せにするべく奮闘するマスターの異世界食事情冒険譚

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...