婚約破棄された悪役令嬢に辺境大公(私の婚約者)を寝取られました

転定妙用

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悪役令嬢がこんなに可愛いはずはない・・・ことはなかった(サムロは回想する)

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 「ガマリア様・・・王妃様。私はサムロの妻となって、コリアンダー公爵家の嫁となって幸せなのです。あの夜のことを、かえって良かったと思っているくらいなのです。王太子ご夫妻を恨んでなどおりません、これっぽっちも。ですから、私たちをお守りください。私を、サムロから引き離さないでください。」
と王妃となった、つまり王太子ミカエル様、かつての彼女の婚約者、と結婚し、さらにその後国王にミカエル様が国王に即位したのである、ガマリア、かつての俺の婚約者であり、ゼハンプリュから婚約者を寝取った女、に跪いて目に涙を浮かべて、両手で彼女の手を握り締めて懇願するゼハンプリュの姿があったのは、あの夜から二年後のことだった、王都のコリアンダー公爵邸宅の一室で、今日のサロンの直前に来訪した国王陛下夫妻を迎えてのことだった。
 あのゼハンプリュが?という顔の国王夫妻。特に王妃のガマリアは困惑しながらも同情、感動、共感して、
「も、勿論ですわ。ゼハンプリュ様。私達は、コリアンダー公爵ご夫妻の味方ですわ。絶対にそれは変わりませんわ。」
 自らも目に涙をたたえて、答える王妃、ガマリア。彼女の顔は、聖女、天使そのものだった。
「あ、あのゼハンプリュが。」
と絶句するミカエル国王陛下。まあ、俺だって、そうだよ。はじめは戸惑ったくらいだよ。でもあげないよ、返してなんかしないからね。それに、あなたには優しく支えてくれる存在が必要であって、支える余裕はないんだから。
「陛下も同じですわ。そうですわね、陛下!」
 王妃の有無を言わさないような圧力のある同意を求める声に、
「もちろんだ。コリアンダー公爵。僕は、君達夫婦の味方だよ。」
と慌てて姿勢を正して、俺に答えた。
「絶対に、お二人が引き離されるようなことはさせませんわ。」
と王妃が引き継いだ、力強く。感動して感謝の言葉を述べる妻と王妃が手を握りあう、二人とも涙を流しながら。本当に感動的な光景だった。
 しかし、俺にはガマリアが、同情だけでなく、ちゃんと計算が働いていることがわかっていた。王家としては、俺達が離婚して、彼女がある男の妻となることを阻止しなければならないのだ、王家のために。その男とは、パパイ大公である。

 俺とゼハンプリュは、ラブラブ、熟愛、溺愛しあう日々を送っていた・・・送っていたと思う。
 王都と王都に近いカーキ家領で過ごすことの多い彼女は、王都からかなり離れたコリアンダー公爵家領に俺と共に行った。そこでの結婚披露宴・・・最後はお互いに甲冑を着たパレードで終わる狂乱の宴にも似た・・・も文句も言わず嬉々としてこなした。各地を巡る新婚旅行でも、
「まるで絵のような・・・、神話やおとぎ話のような森、湖、滝、川、海辺!」
と感動し、
「こ、この、く、熊肉料理もクジラ肉料理の・・・お、美味しいですわ。」
とこわごわと、それでも積極的に、果敢に挑戦して、文句も言わず、恐る恐る口にした。その後は心から絶賛したね当然のことだけどね。
 彼女は、一生懸命にコリアンダー公爵家の家風に染まろうと、頑張ってくれた。
 議会に出席すること等カーキ家ではない務めも、頑張って務めたし、武術の鍛錬も怠りなく、というより熱心に行った。我が家の女達が、全員、
「私たちも見習わなければ。」
「わ、私にご指導してください、お義姉様。」
と言い出すしまつ。
 領内の経営にも、協力してくれた。そして自分に与えられたカーキ公爵家領の一部地域でも、少しづつ、微温的ながら、進歩的政策統治を始めた。
 進歩的だから、議会を作ってよい、とか作りなさいとか言えば、議会ができ、うまくいくというものではない。それを、彼女は上手く導いた。ミカエル王太子の政務に自分も加わるつもりになっていただけのことはある。関心が強く、熱心に勉強もしていたところもある。
 俺も、色々と協力してやった、熱心に。
 二人三脚で、俺達は頑張った。

 しっかりした妻だった。それでも、常に俺の側にいないと不安だというような感じで寄り添ってくる。そして、家の中ではというより、身近な者達しかいないところや二人っきりでいるときには、もっとべたべたになるのだ。
 二人で風呂に入った時、ベッドの中では、可愛いとしか言えないくらいに甘えてくるのだ。

 その彼女を守りたいと、俺は必死に頑張った・・・頑張った・ ・・つもりだ 。
「愛していてくれるのよね。本当に愛していてくれているのよね。」
と縋りつく彼女に、
「誰よりも愛しているよ。」
と俺は答える。それを延々に繰り返しながら、彼女は激しく動き、喘いだ。ぐったりとなってしがみついて、安心しきって寝息をたてる彼女は愛おしくてしかたがなかった。
 彼女には、独特の体臭があった。それは、臭いというものではなかった。ガマリアにもあった、彼女のも臭いと言うわけではなかった。それでも、本心はない方がいいなと思ったものだ。その体臭もなくなった。俺は体臭のことは口にはしなかった。彼女が俺に、コリアンダー公爵家に一生懸命に染まろうと努力した結果なのである。

「君は、ゼハンプリュ様をこのようにして、どういうつもりなのかね?彼女をもっと大切にしてもらわないと困るよ。」
と言って抗議してきた奴がいた。
 それは、何年かぶりに行われた国軍の大軍事演習が終了して、参加したコリアンダー家部隊が一夜夜営している時、俺とゼハンプリュの天幕の中だった。ゼハンプリュも俺と共に参加した、もちろん。流石に、最後は疲労困憊して、俺が肩を貸したが、とにかく全うした。彼女付きの女騎士は、最後には落伍してしまったから大したものだ。俺も、コリアンダー家部隊の将兵も誇らしく思った。さすが、我が公爵夫人だと。
 その彼女を労わっている最中、天幕に入ってきたのが、パパイ大公だった。
 彼は、このように彼女を疲労困憊させた俺をなじった。まるで、自分の妻を乱暴に扱われたと怒るようにだ。その彼の妻、ピール公爵家出身のデュナ夫人、大公妃は彼のそばには見えなかった。あの脳筋女だが、美人でナイスバディな、我がコリアンター公爵家に次ぐ国内第三番目と貴族にして、我が家と同様に数少ない軍事貴族は今回の軍事演習に参加していたが、その部隊の先頭には彼女がいた。彼女は元気いっぱい、疲れを知らぬかのように駆けぬいた、さすがだな。
「大公閣下。奥様はどうなされたのですか?」
 彼女達は少し離れたところで夜営しているはずだ。
「妻?何のことかね?三位一体教会では結婚式を挙げた者はいないが?そういう君こそ、早く結婚したまえ。再洗礼派の女性と。そういえば、ゼハンプリュ様は、運命論教会派だったね。」
「彼女は、再洗礼教会に既に入っていますが。」
「勘違いしているね。運命論教会では、公式にそのようなことはない、と認めている。では、ゼハンプリュ様、失礼いたしました。」
 彼は、ゼハンプリュにだけ礼儀正しく一礼して去っていった。ゼハンプリュと言えば、震えて俺にしがみついていたが。

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