上 下
34 / 89

ゼハンプリュはこんなに可愛かったのか?(サムロの回想)

しおりを挟む
 俺は皮肉のこもった、いかにも自分が上だという、威圧的な、命令調の声に我に返った。
 零コンマ一秒以下の時間、唖然とした俺だが、すぐに状況を理解した。今、学院の卒業式後のパーティーにいるのだということがわかった。そして、自分が婚約者のガマリアを探し、カーキ公爵家令嬢ゼハンプリュ嬢がミカエル王太子を探しあぐねて、俺に声をかけてきたのだということを理解した。
 この後、次々に事が進行した。恒例のダンスの時間の始まる直前に、ミカエル王太子殿下がガマリア嬢と寄り添って現れ、そのままダンスが開始。俺とゼハンプリュ嬢は、やむ無くそのままパートナーになって、衆人の好奇の視線を浴びながら、ぎごちないダンスを始めることになった。
"どうするこのままでいいのか?"と迷った。俺の視線は優雅に踊る、パパイ大公とその婚約者ピール公爵家令嬢デュナ嬢に視線を向けた。なんでだ?彼女と視線があった。俺達は小さく頷きあっていた。それで全てがわかるような感じがした。この関係で・・・ゼハンプリュ嬢をパパイ大公に渡すな、デュナ嬢からパパイ大公を奪わせてはならないと、即俺は決めていた。どうしてかはわからなかった。まるで、もう一人の自分から告げられているような違和感すらしたが、それに逆らう気持ちは、全くと言っていだかなかった。俺が思ったのは、今直ぐに何かしなければならない、無言でいてはいけない、ということだった。
「ゼハンプリュ様。落ち着いて下さい。まあ、私も、まだ、落ち着けてはいないんですけどね。」
「これは、私達二人を驚かす、皆を驚かすための演出かもしれません。」
「まずは、私にまかせて下さい。私が、殿下と私の婚約者に真意を確かめますから。」
「私は、最後までゼハンプリュ様の味方ですから、ご安心ください。」
 一応は彼女は頷いたものの、ほとんど無言で、いや、一度だけ、
「そ、そうね。殿下は私のことを・・・・。あの娘は良い娘だし・・・。」
と自分に言い聞かすように言ったが、美しいが怖い顔で俺を睨みつけていた。こんな女が相手では、ミカエル殿下に同情してしまうね、今更ながら。 

 第一回目の演奏が終わると、いてもたってもいられないという調子の彼女の手を掴んで、できるだけゆっくりと、周囲の視線を集中させて、視線が痛いよ、俺は彼女と並んでミカエル殿下とガマリアの方に歩み寄った。途中からゼハンプリュ嬢は、俺に歩みを合わせるようになった。
「ミカエル殿下。ガマリア嬢。これは、何かの演出ですか?婚約者である私達をパートナーとしなかったのはどういうおつもりですか?」
と膝まづいて、ゼハンプリュ嬢も俺にならって膝まづいた、すごい圧迫感とどす黒いオーラを感じたな、問いかけた。
 困った顔のミカエル殿下と涙目のガマリア、二人の口から出たのは、
「ゼハンプリュ殿。私は真の愛を見つけた。君との婚約は破棄する。コリアンター公爵殿。君には悪い事をしたと思っている。」
「ゆ、許して下さい。」
だった。
 ガマリアの涙、なんかこいつの心の中が分かるようだ、ミカエル王太子殿下を放っておけなかった・・・。
 俺はガマリアを失った悲しみと喪失感でいっぱいになり、分かっているのにという声が聞こえてきたが、しばらくして奪われた怒りの炎が上がり、すぐに消えた。ボーとしている場合じゃないぞ。脇を見ると、怒りのオーラを火山のように吹き出しているゼハンプリュ嬢に気が付いた。慌てて、
「今ここで騒いでは、負けですよ。ここは堪えて、私にまかせて、一旦は引きましょう。」
と囁いた。何とか彼女は堪えてくれた。よかった~。
「それでは、お二人の幸せを願っています。ここは、退出させていただきます。」
と立ち上がり、頭を下げた。彼女も同じように一礼した。不覚にも、涙があふれ出てきた。彼女も涙を浮かべていた、必死に耐えていたが、健気に、高貴に、りりしく見えた、そんな彼女が。俺のは悲しみの涙だっけど、彼女のは怒りの涙だったのだろうか。

「坊ちゃま。大丈夫ですか?」
「お、お嬢様。大丈夫ですか。」
 両家の侍女達の声が聞こえてきた。
 とにかく、ゼハンプリュ嬢の手を取って、俺は、とにかくここを出ようとした。行く先は、決まっている?何故かそう思った。

「カーキ公爵令嬢ゼハンプリュ様。私の領地にいらっしゃって下さい。」
 パパイ大公だった。その彼の腕に、彼の婚約者であるピール公爵家令嬢デュナ嬢が必死に取りすがっていたのが目に入った。俺はすかさず、ゼハンプリュ嬢の耳元で、
「今度はあなたが、他人の婚約者を寝取るおつもりですか?」
と囁いてやった。彼女は弱弱しく頷き、
「大公閣下。ご配慮ありがとうございます。でも、私には所要がありますので、失礼します。さあ、コリアンダー公爵閣下行きましょう。」
と俺の腕をかえって引っ張ってその場から歩み去った、皆の視線を集めながら。ピール公爵家令嬢が、すがるような目で大公閣下を見ている姿に、大公閣下はまだあきらめきれないという顔だったが、ため息をつくと、彼女を抱きしめて行ってしまったようだった。そして、俺達は小さな噴水が近くにある、これまた小さな東屋の前で、テーブルを挟んで、椅子に座っていた。俺とゼハンプリュは、俺とガマリアのお気に入りの場所で、俺とデュナが・・・?で、見つめ合っていた。

 俺達は、互いの婚約者のことを語り合った。
「どうしてこうなったのかしら?私は一生懸命にやったのに・・・。」
と泣き出す彼女に真実を伝えるしかなかった。
 微温的ながらも進歩派の方向に進まざるを得ないのが、我が国の現状であり、王家はその方向で進んだきたこと、ミカエル王太子殿下は進歩派で微温的政策を続けるつもりで、実際に進めている、既に国政を国王陛下に丸投げされて、が、色々な勢力からの圧力で苦悩している。カーキ公爵は、保守派の巨魁であり、ゼハンプリュが王太子殿下の側近会議や閣議に加わろうと度々して、彼の臣下、国の行政官から阻止され怒り狂ったことを指摘した。彼の苦悩を理解し、癒すことも、彼の微温的な進歩的政策を支持することもなく、既に家族は、王妃ですら直接国政に参加はできない時代であり、それを敢えてそのようなことをした彼女を、ミカエル王太子殿下がどう見るか、と問うた。
「でも、私の領地では。」
「私達の領地内では、私的領地という面があるからです。それに、カーキ公爵は保守的な方。決して、善政をしていないわけではありませんが、私の領地ではありえないような権力を振るっておいでです。」
「わ、私は、そんな、そんなに嫌な女だったの?みんなから嫌われていたの?」
と言って泣き出してしまった、大きな声で、子供のように。
「あ、あなたも、そう思っているの?私を嫌っているの?私はそんなにいやな女なの?そ、そうなのね?そうなんでしょう?私と一緒にいるのも嫌なんでしょう?」
 取りすがるように、実際とりすがってきた、すがるような、捨てられた子猫が通り過ぎる人間を見つめるような目で見上げてきた。
「そ、そんなこと・・・はないです。ゼハンプリュ様は、美しく、聡明で・・・ずっとあこがれていましたよ。」
 あ―、嘘つきの俺、大嘘つきだ。でも、こう言わざるを得なかったんだよ~。

 全裸に近い彼女は、俺にまたがって、やや小ぶりだけど、いや、けっこう大きいよな、誰かと比較している?、弾力のある形のいい乳房を俺の胸に押し付けて、
「私を捨てないで・・・お願い捨てないで・・・。いつまでも私を愛して、私を守って、一緒にいて。」
と泣きながら嘆願しながら、動き、喘いだ、ひたすら。
「捨てないよ、絶対。絶対、いつまでも愛して、守るよ、一緒にいる。」
と俺は言い続けた。
 ひたすら愛し合つて、ぐったりなって見上げる彼女の表情は、ひたすら可愛い、弱弱しく、守ってやりたいと思う女のそれだった、今までの印象、噂とは正反対の。
 どうもこの時を境に彼女は変わってしまったらしい。どちらが、彼女の本性なのだろうか。パパイ大公は、私に抱かれてうっとりして、安心しきっている彼女を、弱弱しいくらいに可愛い彼女を知ることがあったのだろうか?

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...