婚約破棄された悪役令嬢に辺境大公(私の婚約者)を寝取られました

転定妙用

文字の大きさ
上 下
33 / 89

二度目?

しおりを挟む
「どうかしら、お味は?」
 私は自信の笑みを浮かべて、ステーキにナイフとフォークを動かしながら、言ってやった。
「最高だね。美味だよ。鯨のフルコースは、なかなか食べる機会がないからね。」
 いかにも美味しいという顔で、ベーコンを醤油につけて食べながら、彼は答えたわ。こういうことは、顔に出まくりなのよね、この人は。でも、こういう顔は、こういう性格は大好きよ。鯨はなかなか手に入らないからというか、いつ手に入るか分からないものね。久しぶりなのよね、私も。まあ、ど~んととれるのがいつか分からないし、そういう時でないと手に入らないのよね。そうでない時は、高いから金持ちの市民とか、食通を気取って浪費に走る貴族とかが食べるものなのよね。コリアンダー家領でも、鯨は手に入るけど、とても美味しかったけど、我が海で捕れる、遊弋している鯨の種類の方がずっと美味しいのよ。そうでしょう?
 旅の疲れと、私との激しい営みでお腹が減っていたからなんて言わせないわよ。
「そろそろ、結論をださないといけないな。」
「そうね。もう先延ばしは出来ないわね。」
 私達は、食後酒として出されたライスワインを傾けながら、難しい顔をして、腹にきりきり痛みを感じながら、いうべきことを何とか口に出した。

 最近の天候不順での不作、そこからくる不況、国の深刻な財政危機、複雑な新旧勢力の対立の激化で、国情は不安な状況となっている。さらに、少し前にミカエル王太子が譲位され、国王に正式に即位した。それに安心したのか、前国王陛下は崩御、続いて前王妃も・・・。新国王へのあらゆる方面からの圧力に苦しむことになるのだが、パパイ大公は政府、国王批判を強め、何故か、新旧勢力がともに彼に期待するという不思議な、彼のカリスマ性などが何とか自分達の望む方向を実現できると、ある意味妄想したのだ。パパイ大公が、後ろから、陰から糸を引いている、扇動している・・・とサムロは言う・・・けど。さらに、新王妃への批判、成り上がりの成金の曽孫、公私混同的な行動、賄賂でのえこひいき、淫乱、浪費的な私生活等々批判が強まっていたけど、ついに、前国王夫妻の暗殺により不当な国王即位を実現させた疑いがあるとまで騒がれるようになった。

 何とか、不作や不況の影響を抑え、微温的ながら新興市民階層の取り込みを何とか私達、両家は進めてきて、両家領内は何とか安定していた。それだけに、王家とパパイ大公両方からのアプローチを強く受け、同時に疑心暗鬼の目を向けられるようになっていた。議会も紛糾しているわ。宥めるのに大変よ。
 だから、今度という今度は、決断しなければならなくなったのよね。

「あの時、私達が誰も婚約破棄しなかったら、されなかったら、こんな苦労はしてなかったのにね。」
「そうだね。全てがうまくいっていただろう・・・いたかもしれないな。」
 私達は、重苦しい空気に、圧力に負けて、つい愚痴を言ってしまったわ。
「え?」
「あれ?」
 私は頭が・・・視界が、空間が揺らぐように感じたの。一瞬気を失った・・・ような気がしたわ。頭が混乱して、手で顔の半分を押さえていたわ。向かい側のサムロも同様だったわ。
 私が感じたのは、
「これって・・・二度目?」
だった。
「結局、ここに来た?」
はサムロだった。

 私の記憶の中に、あの日、サムロがガマリアに、ゼハンプリュが王太子に、私が大公様に婚約破棄された、学院の卒業パーティーの夜、あのサムロがかつてガマリアと幸せな時を過ごした、小さな噴水の近くの小さな東屋の中で、半裸の私達で抱き合いながら、
「こ、この浮気者―!ガマリアやゼハンプリュやイチジークとねあんなことやこんなことをしていたんでしょう?私より良かったの?この変態、浮気者―!」
「お前だって、大公にずぼずほやられていたんだろう?いっぱい喘ぎ声をだしていたんだろう?しかも、ゼハンプリュと並んで、尻を振って、哀願して、自分を愛してくれと競っていたんだろう?俺よりずっと良かったんだろう?」
と私達はののしりあっていたわ、囁き声でね。
「私なんかよりよかった?私じゃだめなの?ゼハンプリュは可愛かったんでしょ?イチジークは頼もしかったんでしょ?ガマリアは・・・。」
「わからない・・・でも、今はお前が良いんだ。お前といたい、やっぱり。だから、今こうしているんだ。俺ともう一度、やっていこう!お前は、・・・共犯者なんだよ、唯一無二の。俺に必要なのは、共犯者なんだ。だから、また選んだんだよ。」
「うん・・・うん。わ、私も、もう一度、あなたととやり直したい。だから選んだのよ、また。同じ結果になっても!共犯者はあなただけよ!」
 私は、この時を、この瞬間を、はっきり自分の体に、彼の体に、この時間に、この空間に刻むために、激しく動き、喘ぎ声をあげていたわ。それは、彼も同様だった。

 その記憶が頭に浮かんだの。
 今は二度目。パパイ大公妃になり、あるいはパパイ大公のもとでゼハンプリュと妻の座を争う私の歴史、サムロがゼハンプリュと結ばれたり、イチジークと結ばれたりするサムロの歴史、誰も婚約破棄せず、誰も婚約破棄されない歴史を経ての二度目の彼、サムロとの生活なのよ。結局、変えようと、前回の知識を利用して・・・と思ったけど周囲の状況が変わらなかった・・・結局、鯨料理のフルコースを食べ終わって、決断をしなければならなくなったのよ。それ以外のコースでも結局は私、私達は同じように決断の重圧を感じなければならなかったのよ。それならこいつと、地獄で野垂れ死ぬまで付き合う方がいいと思ったわ。ゼハンプリュの存在に不安を感じてとか、尻を、腰を振りあって競い、懇願するように、流されていくよりもいいと思ったのよ、多分。こいつもそうだったのよね、あのゼハンプリュがか弱い本性を見せた愛おしさよりも、イチジークと革命の未来を共有したことよりも、ガマリアとの温かい生活を得たことよりも、私とともに決断することを選んだのよね。だから、こいつは、今を私と共有しているのよね。
 今度こそ、決めるわ、私達の意志で。そして、前に進むのよ。
 まあ、全部のルートを選んでみてというのは浮気みたいで後ろめたいけど、こいつも同じなんだよね。同類よ、だから共犯者・・・やってやりましょうよ。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!

日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」 見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。 神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。 特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。 突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。 なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。 ・魔物に襲われている女の子との出会い ・勇者との出会い ・魔王との出会い ・他の転生者との出会い ・波長の合う仲間との出会い etc....... チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。 その時クロムは何を想い、何をするのか…… このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話

ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。 完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

処理中です...