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女性将軍としてスカウトですか~ 

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 朝から始まった演習は、午後に終焉。整列する将兵が居並ぶ前を王太子殿下夫妻が閲兵。時々、将兵たちに声をかけたりする。ミカエル殿下よりガマリア妃の方が、ずっと多く話しているのよね。その上、あくまでも一歩下がって、あくまでもミカエル殿下が目立つようにしているのよね。それを遠くからみる民衆からは、国軍を掌握しながも、気さくで、親しみやすい姿がみえるように演出しているわ。以前の国王陛下の閲兵ぶりとは全然違うわ。国王陛下夫妻は、本当に閲兵、という感じだけだったわ、まあ国王陛下は疲れ切っているという感じだったしね。だから、ミカエル殿下に政務を丸投げしちゃったんだろうけど。全ては、ガマリア妃の演出、指示よね。ブルべエ男爵の入れ知恵もあるんだろうけど、採用して実行するのも才能、能力のうちだしね。
 
 私達が直立不動で立っているうちに、来賓も民衆もぞろぞろと去っていく。特別席の男女も見えなくなったわ。彼らは高い金を払って、その席を買った大金持ち達。長い周辺国との戦争がミカエル殿下の下で、最終的な和平が締結されたものの、国の財政は大変だから、あの手この手と収入増加に奔走している。当初は、この演習を見学に来る民衆から場所代を取ろうとか、民衆目当ての屋台に税金をかけようとかしたらしい。特に後者は、実現しかけていたのだが、直前にミカエル殿下が却下したのだ。消費が増加すれば景気も良くなり、最終的には税収があがるからという理屈を述べたらしい。その代わりに金持ちから金をとる、特別席を売り出したのだ。結構財務官僚からは、姑息な愚策だと不評ならしい。ちなみに、イチジーク書記官は大賛成だったらしい。これも、ガマリア妃のと曽祖父のブルペリエ男爵の入れ知恵よね、これも。ちなみに、あの爺さん、特別席を真っ先に買って、しかも複数、鷹揚に友人達に譲り渡してしまった。

 ミカエル殿下達が通り過ぎると、そそくさと軍律破りのように隊列を抜け出す者が現れたわ。ピール、コリアンダー両家は常時小なりとも軍隊を持っているけど、そのような貴族は他にはないわ。でも、軍事貴族としての本来の自負をもつ、保持している貴族は多少ともいるし、ここで国王陛下の目に留まりたいということで演習に参加する貴族もいる。多少の護衛隊程度の数はいても、演習で目立つためにはそれだけでは足りないし、参加を断られる。だから、自分の領地の農民を動員したり、一時的に、臨時に雇う傭兵で部隊を組織して参加する貴族が何人かいる。カーキ公爵も、前回、それで参加していたわ。そういう連中は、自分は騎馬を好み、私達のように自らも歩兵で走り、匍匐し、草陰に隠れたりは好まないのよね。それに、傭兵たちを早く解散しないと超過料金を支払わないといけないのよね。それに早く帰らないと暗くなっちゃうものね。

 私達は、一晩夜営するのよね。
 その私の天幕に、私達夫婦の天幕に、パパイ大公様が訪れたの。サムロは呼び出しがあったとかでいなくて、私と副官・従卒役の侍女、ちゃんと彼女も兵隊やれていたのよ、これがピール家よ、の二人だけの時だったわ。
「素晴らしい隊長ぶりだったね。ほれぼれとしたよ。」
と堂々と天幕に、自分の天幕に入るかのように自然な感じで入ってきたわ。そして、やっぱり自然な、当然といった感じで、座り込んだわ。それを文句言えないオーラがあるのよね。
「君も座ったらいい。」
 私の、私達の天幕ですれど・・・。抵抗できなかったわ。
「どのようなご用件んでしようか?人妻のところに、奥様をお持ちの大公閣下が?奥様はどちらに?私を、スカウトに?それでしたら将軍でなければだめですよ。」
「将軍でよいなら、その条件で今直ぐに来てもらってもいいぞ。」
 侍女に渡されたコーヒーをすすりながら、愉快そうに言った。
「どうかね?」
 あ、心が・・・。
「夫と相談しないと・・・。それに奥方様は?」
「彼が夫・・・まあ、そう思っているのか、あの男は・・・。」
「・・・。」
「妻は疲れたといって、先に馬車のところに行ったよ。気にすることはないよ。」
  パパイ大公様は、
「君を婚約者だと紹介された時、初めて君を見た時、とてもきれいで可愛い女の子だと思ったよ。」
なんて言い出しちゃった。私が5歳、大公様が11歳の時だったわ、たしか。それから、懐かしい思い出を、私をどれだけ愛したか、私がどれだけ愛したかの思い出を語りだしちゃった。なんのため?心が動いちゃいそう・・・。
 その時、
「お義姉さま!よろしいでしょうか?」
と元気な声が。サムロの下の妹、私の義妹が、天幕に元気な声を上げて入ってきたのである。

 助かったと思うとともに、ようやく来た、遅かったわよと思っちゃった。"お義姉さま、お、待、た、せ!"とウィンクした。微かに、"ありがとう・"と微かに頷いてあげた。私の侍女が急いで呼びに行ったのである。目で合図、嘆願して、それで彼女は分かってくれたのよね。私の親戚だと取り込まれかねないから、コリアンダー家の者を探して連れてきてくれたのよね。

「あら、パパイ大公様。以前から、お話ししたいと思っていましたの。お義姉様、よろしいでしょうか?」
とはしゃぐようにして、すかさず私の隣にどん、と座った。兄と違って可愛い、明るい、小柄、私と比べるとだけど、娘だった。
「パパイ大公様は、私の活躍を見ていてくれましたか?」
などと無邪気を装って、次々と言葉を繰り出した。さすがに、
「君ね、二人だけにしてくれないかね?大切な話があるんだよ。」
と言いたいところを押し切られて、可愛い彼女を前にしては流石に鼻の下を伸ばしてしまって、大公様の助平、浮気者、苦笑してあきらめざるを得なかったようだわ。
「ピール家、コリアンダー家が、武門の貴族、国の防人だという家風が本物だということがよくわかったよ。これからも、国を、ともに支えていこうじゃないか。だが、王太子殿下はねどうもわかってはいないようなんだよ。私は、今日も諫めたのだが、コリアンダー公爵家に悪感情を抱いている。あの成り上がり女のせいらしい。あの女は、デュナにも悪意を感じているようなのだよ。私が、コリアンダー公爵家をデュナを弁護しているため、私まで誹謗するようになってきている。それでも、コリアンダー公爵家、ピール公爵家、デュナの味方だよ。どうか、私を信じて頼ってほしい。」
と主題を、目的を口にだした。




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