婚約破棄された悪役令嬢に辺境大公(私の婚約者)を寝取られました

転定妙用

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これからどうしよう?傷の嘗めあいはお断り・・・だけど・・・

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「傷の嘗めあいなんか嫌よ。それに、そんなことしたら、社交界の・・・世間のいい笑いものじゃないの?お断りよ。」
 そう言ってから、自分は社交界や世間の話の種、笑いの肴にされる、いや、もうされているということに、気が付いた。
「え?なにを断るって・・・?ああ、俺達が結婚するということか・・・。俺もお断り・・・まあ、悪くないはないだろうし、お互いに縁談は当分こないだろうからな。」
 そう言って、私を値踏みするような目で上から下まで視線を動かした。し、失礼な奴ね。だから、コリアンダー家の奴らというのは・・・。
「まあ、婚約者に逃げられた、寝取られた男は、敬遠されるわね。よくて足下を見られた縁談話が来るだけね。それに、寝取った相手が王太子様だもんね、みんな腰が引けるわよね。年上の未亡人なんかどうかしら?それも市民の、金持ちの。」
 私は、悔しさから思いっきり、嫌みを言ってやったわ。でも、間違っていないわ、冷静に考えても私の言った通りでしょう?どうよ?何、
「ほ~。」
と感心したような顔は。そして、何、その余裕の笑い顔は?
「君はどうするつもりなんだ?」
「私は・・・。」
 くっそ~、私も同じだわ。いや、一層悪いかも、やっぱり傷物になったというのは、女の方が致命的だもんね。

 そ、それに私って、パパイ大公しかなかった、あの人の婚約者として、将来妻となって、ということしか考えてなかったし、やってこなかったのよ。文武、頑張ったわ、でも、頑張ったって、頑張ったから成果がでるかどうかなんてわからない、なかなか成果の出ないことばかりだった、天性の才能なんか私にはなかった。何度も、いえ、挫折しかける方が圧倒的に多かった。でも、あの方が、
「頑張っているね。」
と励ましてくれるだけで救われたし、
「上達したね。」
と褒めてくれた時の天にも昇る嬉しさの記憶を糧に挫折しないでやってきたのだ。そ、それが、ついさっき、全てが
無に帰してしまった、単なる徒労におわってしまったのよね。
 私は、そのことをあらためて思い知った。

 ガマリアは、早朝、夕食後、剣などの練習を一人でするのが、日課だった、私と同様に。たまには、互いに練習相手になってやったわ。図書館でも、勉強している姿を見たわ。彼女も、私同様、婚約者に、生まれると同時に親に決められた婚約者のために、それにふさわしい者になろうと頑張っていたのよね。それが・・・いつ、それを捧げる相手が王太子様に代わったのかしら?ああ、ここ数か月前からか、それ以前、また婚約者が来て・・・と惚気話のようなことを口にすることがなくなったかしら。
 ゼハンプリュはと言うと、まあ、彼女は取り巻き達を相手に剣等の鍛錬をしていたわね、やっぱり。それが無に帰した瞬間、彼女は何を考えたのだろうか?
 でも、彼女らは、捧げる新しい相手を見つけた、私とは違って。
 その時、風が吹いた。思わず、
「寒い。」
と言って身震いした。三月の下旬、春とはいえ、今夜は肌寒かった。

「変な気を起こさないでよ。」
 私達は東屋に入っていた。風は凌げるからと彼が提案したのだ。
「こんなとこで変な気を起こしたとしても、すぐに人に気づかれるから・・・。」
 戸は開けているし、壁は薄いし、窓枠が開いていて、とても密室にはなっていない。
「この中で、あなたを捨てた元婚約者に慰められていたわけね、公爵様は?」
 私は、彼と並んで、彼の体温を感じながら並んで座っていた。
「そうだな・・・将来の話も、軍務での悩みなどを語ったな・・・確かに少し前から将来の話を彼女はしなくなったな、そういえば。」
 懐かしそうに話した。こいつも、こいつなりに、婚約者にふさわしい者になろうと努力して、思い出をつむいできたのよね。そして、全てが一瞬にして無に帰したわけね。
 私と大公様は・・・将来のことをずっと話していたわ、今日だって。それが・・・、あの方は簡単に放り捨てた。カーキ公爵家令嬢と私を天秤にかけて、即断したのよね。それだけの、即断できる存在でしかなかったのよね、私って。
 王太子様と大公様は、婚約者を捨てて別の女を選んだ。私やゼハンプリュの努力や思い出は大したことではなかった。ガマリアにはサムロとの過ごした日々は、王太子、彼のどこを選んだのかしらわからないけど、とともに過ごすことに比べて大したものではなかったということだったのね。私達二人は、人生の大部分を無駄にして、虚ろな存在になった者同士なのよね。

「私達が結婚するという話だけど、あなたはどう思う?も、もちろん、仮にそうなったらということよ。私は、そんなことお断りだけど。」
 彼は戸惑って、それから探るような表情になったわ。でも、話し始めた。その時の彼の顔ったら、震える、怖くて震えるくらいに妖しい、そして凄みのある、残酷に見えるものだった。
「俺達の事情から考えれば、両家にとってこれ以上ない婚姻だろうな。相手の身分、財力、権勢すべてにわたって。俺達は、足下を見られた縁談、もしかすると未亡人とか後妻を求めるおっさんとかが相手という場合だってあるだろう。それに、王族、大公家を除く、国内第二位、三位の公爵家の結婚は、両家に利益をもたらすだろう。王家も大公家も一目を置かざるを得ない存在になる。事の経緯もあって、国王もこの結婚に意義は言えないだろう。本来なら、難色をしめされるはずのものだけど。俺としてはどうか?ピール公爵家令嬢は美人だし、スタイルは抜群だし、文武の素養はある、性格は悪い噂を聞かないから悪くはないだろう。男としても、コリアンダー公爵としても望ましいものだな。」
 言い終わると、私の真意を探るように見つめてきた。どうしようかしら?その時私は、変な考えがふつふつと湧き上がってくるのを感じたわ。
「お互いに元婚約者に、寝取り相手に当てつけをすることができるしね。ささやかな仕返しだけどね。それに、私達背の高さはちょうどいいしね。」
 私は、彼に顔を近づけて、思いっきり悪党、そして可愛い、妖しい顔をしてやった、あくまでもそのつもりだったけど。
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