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私が婚約者を盗られました。

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 もう、一曲目の演奏が終わるやいなや、悪魔のような形相でゼハンプリュ嬢は王太子様の下に駆け寄り、コリアンダー公爵はそれを追ってガマリア嬢の前に。
「こ、これはどういうことですの?婚約者の私を置き去りにして・・・ことによっては、どうなのか、どういうことになるか、どういう意味がわかってらっしゃるのですか?」
と声を張り上げるゼハンプリュ嬢。
「え~と、まさか私との婚約を破棄するというのではないでしょうね?」
 自分が悪いことをしているような声は、コリアンダー公爵サムロ。
 それに対して、ガマリア嬢を後ろに庇って、しっかりと自分の婚約者の顔を見据えて、王太子殿下。
「悪いが、君との婚約は破棄だ。私は、真実の愛を見つけた。」
としっかりした声、この人にもできるんだ、と思っちゃった。そして、コリアンダー公爵の方に視線を移して、
「君には、申し訳ないことをした思っているよ。どうか赦してほしい。」
 相手の慮るような声、これも、できるんだと思っちゃった。
「も、申し訳ありません。」
 涙を流して許しを請うガマリアちゃん。思わず同情しちゃうけど、ここまでゆくと、その顔、本物?この娘、本当はかなりの性悪女じゃないの、本当は、と疑っちゃうな。もう、応援するつもりはなくなっちゃった。
「で、殿下・・・。が、ガマリア・・・。」
と絶句するサムロを押しのけて、
「こ・・・この泥棒猫・・・恩をあだで返して・・・。いいですわ、真実の愛とやらでお幸せにどうぞ。婚約破棄、結構です、お受けいたしますわ。」
 怒りのオーラが熱いくらい感じちゃう。でも、怒りの形相だけど、必死に涙を流すのも、愚痴を言うのも我慢して背を向けて歩み去るゼハンプリュ様は、毅然として、りりしく、魅力的だわ。私は、彼女を応援したくなっちゃった。
 コリアンダー公爵はというと、直立不動の姿勢から、頭を下げ、絞り出すような声で、
「お幸せに。では、失礼いたします。」
 顔は下を向けていたけど、涙を流しているのが何となくわかったわ。男のくせに女々しいたらないわね。同情するけど、後は頑張ってね、と励ます気持ちにもならなかったわ。
 でも、とにかくひどいというか、すごいスキャンダル。どうなっちゃうの?国内第一位と第3位の大貴族を敵にしてしまったようなことになって、あ、第2位は我がピール家、どうするのかしら、どうなるのだろうか?
 不安に思うとともに、自分は本当に幸せと思い、まだ、蜜の味とそれへの好奇心をいだいていた私は、その時になって組んでいるはずの腕がないことに気が付いた。

「ゼハンプリュ嬢。我が領地においでください。」
「な、何のためにですの?」
「私の妻として、パパイ大公妃としてです。」
「わかりましたわ。いきましょう。でも、あなたの婚約者はどうされるのですか?」
「は?私に婚約者は他にいませんよ、今婚約したあなた以外に。」
「分かりました。あなたの妻、パパイ大公妃になりましょう。」
「不当にも婚約破棄されたカーキ公爵家令嬢ゼハンプリュ嬢は、我妻としてお連れいたす。」

「はあ?」
 私は、すぐ目の前で展開しているアイオン様とゼハンプリュ嬢のやり取りに、呆然を通り越して、間抜けな声をあげるしかなかった。
 父上、母上達は、私より先に我に返って、ささっと行ってしまった大公様に抗議の声をあげながら追いかけていった、私を置いて。
 その場は騒然としていた。続きの演奏は、演奏家達の意地というか、破れかぶれというかで第二曲目の演奏が始まっていたが、誰も踊ろうとはせず、我に返った者達から順にその場から姿を消していった。カーキ公爵家というと、どちらを追うか迷ったあげく、二手に別れたわ。コリアンダー公爵家の叔母達や家臣達が国王、王太子の後を、やはり声を上げて追いかけていた。公爵の両親は健康を害して領地で静養中、王都では彼のあまり歳のは馴れていない叔母達が、その代理を務めているらしい。コリアンダー公爵はというと、じっとたたずんでいた。
 その彼と視線が交わった。彼に私は、哀れみ、同情を向けられているのがわかったわ。そして、彼が蜜の味をたのしんでいるのがわかった。
 そのときになって私はようやく、婚約破棄された、婚約者に捨てられた、婚約者を他の女に盗られた、寝取られたということが理解できた。私は、ここにいた全ての人々から、蜜の味に舌づつみをうたれる存在になっていることに、ようやく気が付いた。皆の視線、好奇と嘲笑、同情に満ちた、を痛いほど感じた。
「お、お嬢様。だ、大丈夫ですか?」
と私の侍女の声が、どういうわけかひどく遠くからのように耳にはいった。
「わ、私を一人にして―!」
 多分そう叫んで、私は静止する侍女の手を振り切って、右往左往する人の波をかき分けて、走っていったらしい、涙を流しながら。

 それから数時間後、私は学園の人気のない一室で、胸を揉まれながら、結構大きくて、弾力があって、形が良い、自慢に思っている、ほとんど全裸で、同じようにほとんど全裸の男の上に跨って、喘ぎ声をだしながら、腰を大きく動かしていた。
「もう、だめ!」
と何度も体をぐったりさせながら、すぐに復活して、
「またなの?」
と言いながら、自分から腰を動かし
「もっと~。」
と求めることを延々と繰り返していた。止めると、また盗られる、失うように思えたからだけど、体が勝手に動き、快感が止まらなかったかったからでもある。
 どうして、こうなったのかしら?

 駆けだして、気が付くと周囲には誰もおらず、小さな噴水とやはり小さな東屋が、煌々と輝く満月の光の下に目の前にあった。
「いくら学園内でも、若い女性が夜一人でこんな場所にいるのは危ないですよ。」
と後ろから声がした。慌てて振り返ると、そこにいたのはコリアンダー公爵だった。
「公爵閣下こそ、どうしてこのような場所におられるのですか?」
「ここは、私と婚約者・・・もう元婚約者とよくお茶をした場所なのですよ。」
 女々しい男。だから愛想をつかされたのよ。でも、私は?私はどうして捨てられたの?
 
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