命の灯火 〜赤と青〜

文月・F・アキオ

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〜赤の炎〜

Again.0 先生とわたし 7

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 四月のくじびきで決まったわたしの席は、窓ぎわの前から二番目。つまり、二つ前には先生の席がある……めっちゃ近い。
 前の方の席になっちゃったのは残念。だけど、窓際なのはイイ感じ。

 そろそろ暑いし、カーテンしてても微妙にまぶしくて見えにくい時もある。けど、風が通ると気持ちいいし、退屈なときは三階からの外の景色を楽しめる。
 遠くて面倒くさいと思える最上階の教室も、こういう時だけは役立つよね。


 机に頭をくっつけて、うつぶせになって休んでると、風に舞うカーテンが何度もくり返し頭をかすめてくすぐったい。

 窓からみんなの笑い声や叫び声がBGMみたいに流れてる――


 すっかり静かになった教室で目を閉じて、わたしは恋人の姿を思い浮かべてた。

「……ユキヤ」



 ――――ガラガラガラッ

 教室の扉が開いて、誰かが入ってくる気配がした。

「あれ、佐藤? 今日は外に行かないのか~?」

「んー……」

「なんだぁ、眠そうな声なんか出して。食べた後すぐに寝ると牛になるんだぞー」

 ちょっとおどけた声色で園田先生が話しかけてきた。先生は自分の机に座って何かの作業を始めるみたい。

 黒板の前にいる授業中の時よりずっと近い先生をこっそりチラ見しながら思う。

(先生、やっぱユキヤに似てる……)

 サラサラの黒髪とか、ほんのり青みがかった瞳の色とか。よく見ると少しタレ目なとことか。
 あ、横向いた時の、あごのラインとかそっくりかも……

(ウソ。すごい偶然……)

 わたしは先生の左の首筋、耳の下に小さめのホクロを見つけた。
 その場所はユキヤと全く同じ場所だ。

(………………)

 昔わたしはユキヤのそこに何度もキスをしてた。今も夢で時々してる……

 そう思うと、先生はユキヤとは別人なのに、同じ場所にホクロがあるってだけで先生に姿を重ねて想像しちゃったりして……うわモウレツに恥ずかしい――

「……恥っず!」

「ん? なにか言ったか?」

「いえ、独り言で~す」



 休み時間が終わるまでにはまだ少し時間が残ってる。

(寝よ……)


 結局先生の忠告を無視して眠っちゃって。
 目が覚めた時には先生はもういなくて、みんなが帰ってにぎやかな教室に戻ってた――


 
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