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Part 4. クチナシの君
3.
しおりを挟む数日ぶりに顔を見せた休暇中のウォルツヴァイ・ハンダーだったが、目の前に立つそいつは玲瓏淘汰の無表情で知られる顔を歪ませた暗い面持ちで、明らかに憔悴していた。
そんな珍しい様を見せつけられて、突っ込まないのも不自然で。いつもだったら目の前のやつに叱られることだが、友人として問いかけることにする。
「……どうした。何かあったのか?」
一瞬だけ逡巡したあと、そいつは驚くべきことを俺に告げる。
「…………実は、番が見つかりまして」
「なっ! マジかよいつの間に! どこの誰だおい?!!」
「分かりません。傷は塞がったのですが重症で、まだ意識が戻らないのです」
「……じ、事故にでもあったのか?」
「それも分かりません……彼女がどこから来て何故あのような目にあったのか、調べ尽くしたのですが、何も……判らなかったのです」
「…………」
本当なら喜ぶべきことなんだろう。ようやく番が見つかったのだから。
それでも〝おめでとう〟などと軽々しく言える雰囲気では無かった。日頃から空気を読まないと言われる俺にだって流石に分かる。
番が重症……それはつまりコイツも今、精神的に瀕死状態にあるということだ。
「そういう事情ですので、もうしばらく……いえ無期限で休暇をいただきたいと思います。なんなら辞職ととっていただいても構いません」
「……お、おう。分かった。大丈夫だ、こっちのことは気にすんな。どうせ未消化の有給が目一杯あんだろうし、間に合わなきゃ番休暇を申請すりゃあいい……だから、なんだ。その、ゆっくり養生してくれ」
俺の言葉にフッと苦笑を浮かべたあと、ツヴァイはいくつかの荷物を取りまとめ、礼を言って去っていく。
残された俺に出来ることは、諸々の申請手続きを終えたあと、日常に戻って、ひたすらヤツからの連絡を待つだけだった。
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