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Part 4. クチナシの君
2.
しおりを挟むすぐさま自宅に連れ帰り、身体を温め、水分と栄養を与え、昼夜を問わず治癒を施す。それを三日間し続けた。
傷口のほとんどが塞がって、見た目にも分かるほど状態は回復した。にも関わらず、目覚める気配は全くない。
それでも、最初の頃のように悲しげに魘される事が無くなっただけマシだろうか。
その者は我々が生きていく上で最も重視する大切な器官が削ぎ落とされたように欠落し、見るからに衰弱した痛々しい姿で発見された。
耳が無いから聞こえない。
おそらく話すことも不自由なのではないか?
翼も尾も無いから歩けない。
姿を変え、本能のままに逃げ出すことも不可能だったのだろう。
いったい今まで何処で、どのような生活を送っていたのだろうか……考えただけで胸が抉られるようだ。
先天的なのか後天的なのかは不明だが、動物の本質たる部分を失ってどうやって生きてこれたのか。
少なくとも幼い頃には保護者が居たのだと思われる。
だが、彼女の腕や足首に残っていた生々しい傷と輪のような痣が、つい最近まで囚われの身であったことを語っていた。
悔やんでも悔やみきれない。今までの人生でこんなに後悔したことは無かった。
なぜ私は、いつか来る運命の瞬間を待つばかりで、大切な相手を探そうとしなかったのだろうか。
せめて国内だけでも見て回る旅をしていれば。どこかで香りに気付いていれば。
もしかしたら、己の半身である彼女がこのような姿になる前に出会えたかもしれない。そうでなくとも、劣悪な環境からもっと早くに連れ出せたかもしれないというのに。
私は幼少の頃から結い支度には余念がなかった。
もともとそういった手作業が得意だったということもあるし、幼い頃は特に、男にしては夢見がちな部類だったと思う。成人してからも、住居から何から迎え入れる準備を整え続けていた。まだ見ぬ未来の相手のために、ほんの何日か前にも小物を買い求めたばかりだった。
そうやって私が安穏と暮らしている間にも、彼女は苦しみ続けていたのだろうか。そう思うと、自分の能無し具合が浮き彫りにされるようで居た堪れない。その報いが現状なのだとしたら、彼女に合わせる顔がない。
囚われ、酷使されていたがついに見切られ、捨てられてしまった。そうでなければあんなに痩せ細って、歩けない彼女があんな森の中に居るはずがなかった。
どのように酷使されていたのかなんて考えるまでもなく……関わった全ての者を八つ裂きにしてやりたい。
誘拐、殺人(未遂だが)、暴行あるいは虐待、不法行為の強要と人権の侵害、それらの隠蔽工作……
とても許せるものではなかった。
怒りで頭が沸騰しそうになるのをギリギリで抑えつけ、いつか必ず報いを受けさることを固く誓い、私はひたすら彼女の看病に専念した。
彼女は……誰もが求める唯一の人。生涯の伴侶。
私の〝番〟だった。
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