上 下
13 / 17
Part 3. 白綿帽子の相棒

思いついた勢いにて

しおりを挟む

「そういや、さっきは何のことで揉めてたんだ?」

 無言で食事をかき込んで、ひと息ついて飲み物に手を付ける頃、エトノアはようやく落ち着いて話すことができた。

「ん? ああ、こいつの買い取りだよ」

 そう言って少年が膨らんだ紙袋をテーブルに乗せる。ガサガサと口を開いて覗かせたのは白く輝く綿毛のような塊だった。

「わた……いや、羊毛か?」
「そ。うちで刈り取ったやつ。無登録だから正規品じゃないけどさ、どう見ても良い艶だろ? なのにあの店主ときたら! こっちが店を選べないって知っててあんな下劣な嫌がらせ! 本当にムカつく!」
「なんで登録しないんだ? そしたらもっと高く売れるんだろ?」
「こっちは本業じゃないんだよ。登録できる住所も無いし……こまめに納品できるわけでもないから、飛び込みで売るしかできない」
「移動型の牧畜業か? それだって登録はできるだろ?」
「いや、そういうのとは違うんだ。この街に間借りで定住してる」
「街中で育ててるのか……なら頭数はかなり少ないな。そういうことか」

 少ない家畜がもたらす僅かな毛すら金に換えようとするくらいだ、やはり苦労しているのだろう。エトノアは分かったように頷いて考え込む。

「しかし、そうか。損してまで稼ぎたいのか……」
「まぁね。多少目減りしても無いよりはあった方がマシだ」
「そうかねぇ。本業は何してんの? それ以外で売り物になりそうな特技とかはないのか?」
「うーん、急に特技って言われてもなぁ……」
「歌とか踊りができるとか、バランス感覚が良いとか、手先が器用だとか、何かあるだろう」
「えー……なら、料理とか? 掃除や裁縫は嫌いだからなぁ。あとはそうだな、記憶力は良い方だと思う。計算は苦手だけど逃げ足は速いぞ」
「料理か。調理ができるなら小刀ナイフは使い慣れてるよな。不器用では無さそうだな……記憶力は大事な素質だぞ」
「あっ、あと肺活量が人並み以上ある!」
「そいつはまた……笛でも使うか? 風船もありだな。なんにせよ、あれだけ喚いて抵抗するだけの度胸があるし、その容姿はかなり向いてるぞ」
「なになに? 職業診断テスト? そういうの好きなのか?」
「今のは軽い面接みたいなもんだ。おまえ、オレのところで働いてみる気はないか? 日給はその毛玉の二割増し。ショーに出られるようになったら倍額くらいは出せると思うぞ。通いで働いてもいいし、なんなら住み込みでも良いぞ。今なら三食おやつに風呂付きの宿だ」
「えっ、それって臨時のバイト? あんたの助手になるってことか?!」
「そうそう。オレちょっと後継者教育に手を出すことにしたんだわ。おまえは見た目からして向いてるし、声も通りそうだ。オレも助手がいると出来るショーが増えるし……よく考えたら良いこと尽くめなんだよな。こりゃ次の演目は期待できるぞ」
「いいのか?! やるやる! 特訓でも雑用でも、なんでもやるよ!」

 こうして、エトノアは予期せず後継者候補を手に入れたのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る

恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。 父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。 5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。 基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

君は僕の番じゃないから

椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。 「君は僕の番じゃないから」 エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。 すると 「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる イケメンが登場してーーー!? ___________________________ 動機。 暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります なので明るい話になります← 深く考えて読む話ではありません ※マーク編:3話+エピローグ ※超絶短編です ※さくっと読めるはず ※番の設定はゆるゆるです ※世界観としては割と近代チック ※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい ※マーク編は明るいです

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん
恋愛
獣人と人が住む国で、ララベルが一番嫌う言葉、それは番。というのも、大好きな親戚のミナリア姉様が結婚相手の王子に、「番が現れた」という理由で結婚をとりやめられたから。それからというのも、番という言葉が一番嫌いになったララベル。そんなララベルを大切に囲い込むのが幼馴染のルーファス。ルーファスは竜の獣人だけれど、番は現れるのか……?  色々鈍いヒロインと、溺愛する幼馴染のお話です。 猛暑でへろへろのため、とにかく、気分転換したくて書きました。とはいえ、涼しさが得られるお話ではありません💦 暑さがおさまるころに終わる予定のお話です。(すみません、予定がのびてます) いつもながらご都合主義で、ゆるい設定です。お気軽に読んでくださったら幸いです。

処理中です...