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Part 3. 白綿帽子の相棒
思いついた勢いにて
しおりを挟む「そういや、さっきは何のことで揉めてたんだ?」
無言で食事をかき込んで、ひと息ついて飲み物に手を付ける頃、エトノアはようやく落ち着いて話すことができた。
「ん? ああ、こいつの買い取りだよ」
そう言って少年が膨らんだ紙袋をテーブルに乗せる。ガサガサと口を開いて覗かせたのは白く輝く綿毛のような塊だった。
「わた……いや、羊毛か?」
「そ。うちで刈り取ったやつ。無登録だから正規品じゃないけどさ、どう見ても良い艶だろ? なのにあの店主ときたら! こっちが店を選べないって知っててあんな下劣な嫌がらせ! 本当にムカつく!」
「なんで登録しないんだ? そしたらもっと高く売れるんだろ?」
「こっちは本業じゃないんだよ。登録できる住所も無いし……こまめに納品できるわけでもないから、飛び込みで売るしかできない」
「移動型の牧畜業か? それだって登録はできるだろ?」
「いや、そういうのとは違うんだ。この街に間借りで定住してる」
「街中で育ててるのか……なら頭数はかなり少ないな。そういうことか」
少ない家畜がもたらす僅かな毛すら金に換えようとするくらいだ、やはり苦労しているのだろう。エトノアは分かったように頷いて考え込む。
「しかし、そうか。損してまで稼ぎたいのか……」
「まぁね。多少目減りしても無いよりはあった方がマシだ」
「そうかねぇ。本業は何してんの? それ以外で売り物になりそうな特技とかはないのか?」
「うーん、急に特技って言われてもなぁ……」
「歌とか踊りができるとか、バランス感覚が良いとか、手先が器用だとか、何かあるだろう」
「えー……なら、料理とか? 掃除や裁縫は嫌いだからなぁ。あとはそうだな、記憶力は良い方だと思う。計算は苦手だけど逃げ足は速いぞ」
「料理か。調理ができるなら小刀は使い慣れてるよな。不器用では無さそうだな……記憶力は大事な素質だぞ」
「あっ、あと肺活量が人並み以上ある!」
「そいつはまた……笛でも使うか? 風船もありだな。なんにせよ、あれだけ喚いて抵抗するだけの度胸があるし、その容姿はかなり向いてるぞ」
「なになに? 職業診断テスト? そういうの好きなのか?」
「今のは軽い面接みたいなもんだ。おまえ、オレのところで働いてみる気はないか? 日給はその毛玉の二割増し。ショーに出られるようになったら倍額くらいは出せると思うぞ。通いで働いてもいいし、なんなら住み込みでも良いぞ。今なら三食おやつに風呂付きの宿だ」
「えっ、それって臨時のバイト? あんたの助手になるってことか?!」
「そうそう。オレちょっと後継者教育に手を出すことにしたんだわ。おまえは見た目からして向いてるし、声も通りそうだ。オレも助手がいると出来るショーが増えるし……よく考えたら良いこと尽くめなんだよな。こりゃ次の演目は期待できるぞ」
「いいのか?! やるやる! 特訓でも雑用でも、なんでもやるよ!」
こうして、エトノアは予期せず後継者候補を手に入れたのだった。
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