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Part 3. 白綿帽子の相棒
新しい風を起こすには
しおりを挟む議題:番の探し方。議長:エトノア。書記:エトノア。
質問
――どのようにして番を見つけましたか。
酒場の亭主「番の探し方だぁ? そんなもん決まってんじゃねぇか。愛だよ愛。俺の愛がアイツを呼び寄せたのよ。なにしろ俺の番といったら街一番の――(以下略)」
薬屋の主人「うちは子供の頃から当たり前のように一緒にいましたからねぇ。ずっと家族のような存在だと思っていたのですが……番だとはっきり自覚したのは結婚の相談をされた時でしょうか。離れる未来が想像できなくて、気付いたら無理やり引き止めていましたね。ははは」
宿屋の女将「そうさねぇ。心身共に健康でいることじゃないのかい? よく食べてよく働いて、真面目に生きてりゃある朝、頭に天啓が降ってくるのさ。それに従ってたらいつの間にかなるようになっちまう。つまりは日頃の行いだよ。お兄さん、あんたも番が欲しけりゃしっかり稼ぎな」
食堂の店員「番ですか? うーん、漠然と欲しいと思ってた時には出会えなくて、自分の残りの人生と真剣に向き合った時に見つかった気がします。〝いつか欲しいなぁ~〟って軽く考えてるうちは必要ないってことなんじゃないですかね?」
花屋の娘「うちの両親は〝匂い〟を辿っていったら会えたって言ってましたよー。花とは違った特別な匂いがしたんですって。今までに嗅いだこともない香りだからスグに判ったし、気になって仕方がなかったって……良いですよねー。私も配達に出た時には意識して探すようにはしてるんですけど……。やっぱり隣近所の街だけじゃなくて、国内全土を探してまわるべきなんですかね? エトさんの職業が羨ましいですよー」
職場の同僚「気合いだろ。本気で探せばいつかは見つかるものだ。お前にはそれが全く感じられん……だから見逃しているんだろう」
エトノアは聞き込みで得た情報をまとめてみる。
要約すると、『見も知らぬ相手に対しても愛を携え、家族と思わず真剣に未来を考えながら、よく食べてよく働いて真面目に生きていると、ある日天啓が降りて匂いが分かるようになり、それを辿ると出会える――気合いを込めて探せば』ということになる。
正直いって、疑わしい。しかし、実際彼らはそれで番を得たというのだから、大なり小なりの効果はあるのかもしれない……自分にできるかどうかは、わからないが。
(しっかし、同じ既婚者でも全く言い分が違うっつーか……ちっとも参考にならねぇな。即効性のある具体的なコツとか場所とか作法はホントに存在しないのか? そもそも〝やる気〟で見つかるなら誰も苦労しないだろ……クロノスは冷静そうに見えて実は熱血バカなんだな)
などと失礼なことを考えるエトノア。
ひとまず、このまま今までと同じように当てのない旅を続けても結果は同じだろうとの判断から、打開策はないかと経験者に尋ねてみたが――見つけた本人も、案外ハッキリと原因や方法を理解していないようだった。
そもそも獣性の本能的なものだと言われてしまえば、あやふやなのも当然なのかもしれないが、全く共通点がないというのも不思議なもので……統計的なものは分からないが、調べたら少しくらいは傾向や種族的な差があるのではないかと、聞き込み調査した結果の意見や体験談をまとめてみるエトノア。
書き込んだ表を眺めて印を付けながら、今後の戦略を考えて練る。それからしばらく、彼は毎晩のように頭をしぼって唸っていた。
こう見えて、計画性のある彼。本業の仕事では、飛び込みの営業だけで定期公演の契約が取れてしまうくらいには商売上手な実力派なのである。
しかし、事業を軌道に乗せるのと同じやり方で番探しまでもが上手くいったという話はとんと聞いたことがない。それでも自分に出来る方法で真面目に向き合ってみる。
(こうして見ると、事前に何かしらの変化があるよな……環境を変えると流れも変わるのか? それとも気持ちが変わると環境も変わるのか……どちらにしても〝変化を起こす〟のは良い刺激になるのかもしれない。だとしたら……)
「……変えてみるか?」
この道に入って百年以上、周囲の流れに合わせて仕事をしてきたエトノアが、初めて〝番探し〟に本気になって、稼ぐことより優先して取り組み始めた瞬間であった。
* * *
自分に出来る範囲でなんらかの〝変化〟を起こすとなると、これまでにやったことない事象に取り組むということだ。そもそも〝番探し〟自体が初めての挑戦とも言えるが――
考えた末にエトノアが生み出した答えは、弟子を取って後継者を育てることである。それなら、これまで全く視野に入れてなかった展開で、かつ己の未来を見据えたものであり、他人の生活を預かって育てるのだから真剣に向き合わざるを得ない。様々な条件を満たしていると思われた。
となると、素質のありそうな者――物覚えが良さそうな、成人したばかりくらいの若い男で、長い時間を共に過ごすのだから、ストレスなく付き合える程度には性格の悪くないヤツがいい。慣れたら仕事の助手になってくれそうな者だとさらに有り難い。
そんな弟子を探すべく、エトノアは求人をまとめて扱う役場を目指し、中央広場へと向かうのだった。
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