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③竜人族は一妻多夫制でした / 8,160文字
4. 結婚の承諾
しおりを挟むパリンとガラスの割れる音がして振り返る。
見るとマティーニさんが片手で目元を押さえて苦しそうにしていた。具合が悪くなって手元が狂ったらしい。
「だ、大丈夫ですか?!」
慌てて作業を中断して駆け寄るも、ずるずると蹲ってしまった彼を前にどうしたらいいか分からない。
「ど、どうしましょう。誰か呼んできた方がいいですか?!」
「いや、少し目眩がしただけだから大丈夫だ。休んでいれば治る」
「えっと、なら何か欲しいものとかありますか? あ、水分を摂りますか? それともベッドまで行きますか?」
「…………しい」
「え?」
「……あなたが欲しい」
「え、えぇ?! えっと、それはどういう……」
意味がわからず、私が立て膝になりながらオロオロしていると、マティーニさんが私の腕を取る。見上げてきた表情は熱っぽくて苦しそうだった。発熱しているのかもしれない。そうとう具合が悪いのだろう。
「息苦しいですか? 服を緩めますか? お薬とかはありますか?」
心配で矢継ぎ早に問いかけてしまう。するとマティーニさんが自分で衣服を緩めだし、胸元をはだけさせた。
キラリと光ったものが見えて、何かと思って凝視していると、そこに私の手の平が押し当てられる。触った感じは硬質で、つるつるしたガラスか何かが埋まっているような感触だった。
「私の番。ここに口付けをくれますか……?」
「そ、そうすると楽になるのですか?」
「……はい」
「わかりました」
詳しい理由は分からないけれど、呼吸困難っぽいマティーニさんを放ってはおけない。私は力無く握られた腕を振りほどき、そっとマティーニさんの胸に手を添えた。
中心に輝くのは緑色した宝石のように見えたけど、よく見たら鱗のようだった。私はまるで何かの儀式に挑むような気持ちで、そこにゆっくり口付ける。
触れた唇からマティーニさんの肌の感触と心音が伝わってくる。どことなく甘い匂いもしていて、思わずペロリと舐めてしまった。
「あぁッ……!」
悩ましい声に驚いて唇を離す。ついでに身体も離そうとしたが、知らぬ間に抱きしめられていて動けなかった。
「ユーリ、もっと……」
ぐっと身体を抱き寄せられて、マティーニさんの膝の上に乗る形になってしまう。
ここまでくると私にも状況がわかってきた。マティーニさんは欲情しているのだ。竜人族は鱗が性感帯なのかもしれない。
「マティーニさん、あの……」
「ユーリは私のことが嫌いですか?」
「そ、そんなことはありません」
「では好き?」
「えっと、好きですよ?」
「私もあなたが好きです。愛しています。だからユーリ、私と本物の番になってください」
本物の番とはなんだろうか。本物の夫婦ということだろうか。
私は突然の愛の告白に驚いて、言葉に詰まってしまう。すると今にも泣き出しそうな顔でマティーニさんが見つめてくる。
「私を愛してはくれませんか? 醜い私ではあなたの伴侶にはなれませんか?」
「マティーニさんが醜いなんて誰が言ったんですか? マティーニさんは優しくて格好良くて素敵な紳士だと思いますよ。愛とかはまだよく分かりませんが、私もマティーニさんが好きです。夫婦になれたら嬉しいです」
口に出して初めて知った自分の感情。私はいつのまにかマティーニさんのことを好きになっていたらしい。
こんなにイケメンで優しくて世話焼きで、私のことを好きみたいな態度を取られ続けたら、絆されるのも当然だと思う。
結婚の契約をして、夫婦になってもいいかと思うくらいには、私は彼のことが好きなのだ。心から彼を愛するようになるのも時間の問題だろう。
私の返答にマティーニさんが幸せそうに微笑む。
「ありがとう、ユーリ……!」
額に、頬に、鼻に、次々とキスをされた。最後に見つめ合って唇同士のキスをする。
不快感が全くなかったことで、本当に彼のことが好きなのだと実感した私だった。
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美醜逆転大好物なので嬉しいです!