《短編集》美醜逆転の世界で

文月・F・アキオ

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③竜人族は一妻多夫制でした / 8,160文字

3. 運命の番(sideマティーニ)

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竜人族の私達には逆らえない本能というものがある。
それは番を求めるさがで、食欲や睡眠欲といったものと同じくらいに強い。年月を重ねるほどにその渇望は酷くなる。
日々の生活が苦しくなってきて、仕事にも支障がでるようになってきたのはパーティーを組んでる他のメンバーも同じだった。

私達は揃いも揃ってとびきりの不細工だ。だからこそ魔力も桁違いに強く、女性からの拒否反応が酷い。顔を見ただけで吐かれるなんてしょっちゅうだ。

だけども逆鱗が疼くのだ。番が欲しい。ただ一人の女性に受け入れられて尽くしたいと。


そんなわけで奴隷商館を回って私達に耐えられるほど魔力のある奴隷を探すことにした。
奴隷ならば破格の待遇を約束すれば、醜い私達の妻になることも了承してくれるかもしれない。そんな希望を抱いての訪問だった。

けれども現実は厳しく、そもそも入店や購入を断られたりすることが多かった。
購入前の下見にたどり着けても、肝心の奴隷には吐かれたり、倒れられたり、会話もできないほど怯えられたり。とても夫婦生活が送れるとは思わなかった。

そうして王都でも屈指の高級奴隷商館にたどり着いた時には、ほとんど諦めていた私達だった。
案の定、十数人の奴隷達は激しい拒否反応を示した。調教された奴隷ですらそうなのだから、なんの教育もされてない奴隷などもっと反応が酷いと思っていた。

しかし、ユーリは私達の予想を裏切ってくれた。
何でもないことのように私達と目を合わせただけでなく、優しく微笑んでくれたのだ。
私達は迷わず彼女の購入を決めた。いくら払ってでも買うつもりだった。

ユーリこそ運命の番に違いない。それが私達の出した結論だった。



     ※  ※  ※



あれから一カ月が経ち、ユーリはだいぶここでの生活に慣れてくれたように思う。
求愛給餌にも応じてくれるし、服や宝石などの贈り物も受け取ってくれる。最初は遠慮したり恥ずかしがったりして拒否されていたが、竜人族の習性なのだと根気強く教えてからは、照れながらも受容してくれる。とても愛らしい番だった。

最近ではユーリが手ずから作ったものを私達に与えてくれることもあり、良い関係を築けていると思う。本物の夫婦になれる日も近いかもしれない。




「これって薬師みたいな仕事ですよね」

楽しそうに私の手伝いをしてくれているユーリに任せているのは植生素材の解体や分類などだ。自由に過ごして欲しいと伝えたら、暇なので何かお手伝いがしたいと言われ、調合の仕事がある時は任せるようになった。

魔法薬の作成は料理みたいで見ていて面白いなどと言いながら、私の作業を見つめる彼女が不快感を訴える兆しはない。
魔術を行使している時ですら、ユーリは私達に近づくことができるのだ。信じられないことに。
彼女はとても大きな魔力の器を持っている。これなら子供を産んでもらうことも可能かもしれない。
腹の中で子を育むためには夫の魔力を定期的に流す必要があるのだが、ユーリならそれも耐えられるかもしれないのだ。
そう思うとズクリと下腹部が重くなった。子を成すための行為を想像してしまう。閨でのユーリはどんなふうに鳴くのだろうか。


私は素直で愛らしいユーリに恋をしていた。おそらく他の二人も同じだろう。
こんなに醜い私達と暮らすことを受け入れてくれる存在というだけでも惹かれるのに、ユーリは美しくて可愛いらしい。おまけに気立ても良くて、私達を微塵も蔑まない。気のせいかもしれないが、見惚れているのでは?と思うことすらあった。


日に日に愛する気持ちが大きくなっていく。それと同時に愛されたいという気持ちも。
そこまでを求めるのは欲深いとわかっていても、愛し愛される関係を夢みてしまう。
ユーリの態度が私に希望を抱かせるのだ。優しすぎるのも残酷なのだということを知った。

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