《短編集》美醜逆転の世界で

文月・F・アキオ

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③竜人族は一妻多夫制でした / 8,160文字

2. 買われた理由

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契約を済ませ、首輪の登録をして、私の持ち主は魔法使いみたいなローブを被った人達になった。
名前も知らない私のご主人様達は、他にもいろいろなものを買い物しているようで、私はしばらく待たされた。

それから馬車に乗せられて、とりあえず家に帰るらしいことを彼らの会話から知った。
同じ車内にいるのに私だけ会話に混ぜてもらえない。奴隷つらい。
やはり奴隷に人権はないのだろうか。これまでの態度から、乱暴な人達には見えないけれど、豹変することもあるかもしれない。着いたらどんな扱いをされるのか、じわじわと緊張していった。



     ※  ※  ※



「わぁ……」

到着したお家は、私から見たら立派すぎる洋館で、大金持ちが住むイメージな豪邸だった。

「屋敷の中だったら自由にしていいけれど、外に出てはいけないよ」
「かしこまりました」
「……君の部屋に案内しよう」
「ありがとうございます」

ビクビク反応しながらも、私と会話をしてくれたのは緑髪の人だった。他の二人は目線をウロウロさせながら、私を見つめている。

案内された部屋は、シンプルだけど白とピンクを基調にした可愛らしい部屋だった。

「適当に座ってくれ」

言われて私はカーペットの敷かれた床に座る。すると、銀髪の男性が慌てたように近づいてきた。

「そんなとこじゃなくて! ちゃんと椅子に座って!」
「申し訳ありません」
「あ、いや。怒ってるわけじゃないんだ……その、とにかくそこのソファーに座ってくれ。話をしよう」

言われて私は一人掛けのソファーに座る。
すると三人は私を取り囲むようにして床に座った。

(いやいや、ご主人様を床に座らせるってマズくない……?)

私が困惑していると、赤髪の男性が話し出す。

「お前、名前はあるのか?」
「ユウリ・マツムラという名前でした」
「ユーリか。歳は本当に十八なのか?」
「はい」

ジッと見つめながら質問に答えていると、照れたように頬を染める赤髪の男性。三人共に言えることだが、あまり女性慣れしてないのかもしれない。

「まずは我々の自己紹介をすべきでしょう。私はマティーニ・オドラントです。魔術師をしています」

(魔術師……ってことは魔法がある世界なのかぁ)

私は少しだけワクワクした。私にも魔力はあるのだろうか。

「俺はガルーダ・オルトだ。剣士をやってる」

(いかにも強そうな見た目だもんね。前線で戦ってそうなイメージ)

「ぼ、僕はリオネル・モンテスティン。精霊使いだよ」

(精霊までいるのかぁ。本当にここは異世界なんだね……)

「ユウリです。改めてよろしくお願いいたします。私は皆さんをなんとお呼びすればよいですか?」
「え、どうする? 僕は名前なんて無理だよ、恥ずかしい……」
「だが、ご主人様じゃ誰が誰だか分からんだろ」
「夫婦になるのなら名前や愛称呼びが普通なのでは?」
「夫婦、ですか?」

私からの問いかけに、三人がビクリと反応する。そうして気まずげに話し始めたのは緑髪のマティーニさんだった。

「その、あなたを買った理由ですが……我々と夫婦になってもらうためなのです。私もリオネルもガルーダも良い歳なので、そろそろ伴侶が欲しいなという話になりまして。普通に探しては相手が見つからないので、相性の良さそうな奴隷を買うことにしたのです」
「奴隷が伴侶になれるのですか?」
「もちろん婚姻の契約を結んでくれるなら、あなたを奴隷から解放します。何不自由しない生活を約束しますし、子供を産まなくても構いません。夫婦として我々と共に暮らすことを前向きに考えて欲しいのです」
「三人のうちの誰かと結婚するということですか?」
「いや違う。俺たち三人の妻になって欲しいってことだ。竜人族は一妻多夫制だからな」
「竜人族?」
「ユーリは人族だよね。竜人族に会うのは初めて?」
「はい。初めてです」
「見た目はほとんど人族と変わりませんが、人族と比べて長命です。結婚して、その、特別な儀式をしたら、あなたも寿命が伸びることになります」

なんだか、どんどんファンタジーな設定が出てきて戸惑う。私の中で竜人族といえば運命の番とかって設定のある一夫一妻なイメージなんだけど、ここでは違うらしい。

「突然こんなことを言われても困るとは思います。でもこれから共に生活していく中で、徐々に我々のことを知っていってもらえればと……あなたのように我々の不快な魔力に当てられても平気な人は珍しいのです。だから……」

潤んだお目目で見つめられて、私の胸がギュッとなる。
どこか自分達のことを蔑んだような人達だけど、悪い人達には思えなかった。
どちらにしろ私は誰かに庇護してもらわなければ、この世界では生きられない。そもそも奴隷に拒否権はない。

私はゆっくり頷いて、よろしくお願いしますと言って微笑んだのだった。

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