12 / 14
③竜人族は一妻多夫制でした / 8,160文字
2. 買われた理由
しおりを挟む契約を済ませ、首輪の登録をして、私の持ち主は魔法使いみたいなローブを被った人達になった。
名前も知らない私のご主人様達は、他にもいろいろなものを買い物しているようで、私はしばらく待たされた。
それから馬車に乗せられて、とりあえず家に帰るらしいことを彼らの会話から知った。
同じ車内にいるのに私だけ会話に混ぜてもらえない。奴隷つらい。
やはり奴隷に人権はないのだろうか。これまでの態度から、乱暴な人達には見えないけれど、豹変することもあるかもしれない。着いたらどんな扱いをされるのか、じわじわと緊張していった。
※ ※ ※
「わぁ……」
到着したお家は、私から見たら立派すぎる洋館で、大金持ちが住むイメージな豪邸だった。
「屋敷の中だったら自由にしていいけれど、外に出てはいけないよ」
「かしこまりました」
「……君の部屋に案内しよう」
「ありがとうございます」
ビクビク反応しながらも、私と会話をしてくれたのは緑髪の人だった。他の二人は目線をウロウロさせながら、私を見つめている。
案内された部屋は、シンプルだけど白とピンクを基調にした可愛らしい部屋だった。
「適当に座ってくれ」
言われて私はカーペットの敷かれた床に座る。すると、銀髪の男性が慌てたように近づいてきた。
「そんなとこじゃなくて! ちゃんと椅子に座って!」
「申し訳ありません」
「あ、いや。怒ってるわけじゃないんだ……その、とにかくそこのソファーに座ってくれ。話をしよう」
言われて私は一人掛けのソファーに座る。
すると三人は私を取り囲むようにして床に座った。
(いやいや、ご主人様を床に座らせるってマズくない……?)
私が困惑していると、赤髪の男性が話し出す。
「お前、名前はあるのか?」
「ユウリ・マツムラという名前でした」
「ユーリか。歳は本当に十八なのか?」
「はい」
ジッと見つめながら質問に答えていると、照れたように頬を染める赤髪の男性。三人共に言えることだが、あまり女性慣れしてないのかもしれない。
「まずは我々の自己紹介をすべきでしょう。私はマティーニ・オドラントです。魔術師をしています」
(魔術師……ってことは魔法がある世界なのかぁ)
私は少しだけワクワクした。私にも魔力はあるのだろうか。
「俺はガルーダ・オルトだ。剣士をやってる」
(いかにも強そうな見た目だもんね。前線で戦ってそうなイメージ)
「ぼ、僕はリオネル・モンテスティン。精霊使いだよ」
(精霊までいるのかぁ。本当にここは異世界なんだね……)
「ユウリです。改めてよろしくお願いいたします。私は皆さんをなんとお呼びすればよいですか?」
「え、どうする? 僕は名前なんて無理だよ、恥ずかしい……」
「だが、ご主人様じゃ誰が誰だか分からんだろ」
「夫婦になるのなら名前や愛称呼びが普通なのでは?」
「夫婦、ですか?」
私からの問いかけに、三人がビクリと反応する。そうして気まずげに話し始めたのは緑髪のマティーニさんだった。
「その、あなたを買った理由ですが……我々と夫婦になってもらうためなのです。私もリオネルもガルーダも良い歳なので、そろそろ伴侶が欲しいなという話になりまして。普通に探しては相手が見つからないので、相性の良さそうな奴隷を買うことにしたのです」
「奴隷が伴侶になれるのですか?」
「もちろん婚姻の契約を結んでくれるなら、あなたを奴隷から解放します。何不自由しない生活を約束しますし、子供を産まなくても構いません。夫婦として我々と共に暮らすことを前向きに考えて欲しいのです」
「三人のうちの誰かと結婚するということですか?」
「いや違う。俺たち三人の妻になって欲しいってことだ。竜人族は一妻多夫制だからな」
「竜人族?」
「ユーリは人族だよね。竜人族に会うのは初めて?」
「はい。初めてです」
「見た目はほとんど人族と変わりませんが、人族と比べて長命です。結婚して、その、特別な儀式をしたら、あなたも寿命が伸びることになります」
なんだか、どんどんファンタジーな設定が出てきて戸惑う。私の中で竜人族といえば運命の番とかって設定のある一夫一妻なイメージなんだけど、ここでは違うらしい。
「突然こんなことを言われても困るとは思います。でもこれから共に生活していく中で、徐々に我々のことを知っていってもらえればと……あなたのように我々の不快な魔力に当てられても平気な人は珍しいのです。だから……」
潤んだお目目で見つめられて、私の胸がギュッとなる。
どこか自分達のことを蔑んだような人達だけど、悪い人達には思えなかった。
どちらにしろ私は誰かに庇護してもらわなければ、この世界では生きられない。そもそも奴隷に拒否権はない。
私はゆっくり頷いて、よろしくお願いしますと言って微笑んだのだった。
92
お気に入りに追加
194
あなたにおすすめの小説

私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜
朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。
(この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??)
これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。
所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。
暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。
※休載中
(4月5日前後から投稿再開予定です)
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です
花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。
けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。
そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。
醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。
多分短い話になると思われます。
サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

異世界転生〜色いろあって世界最強!?〜
野の木
恋愛
気付いたら、見知らぬ場所に。
生まれ変わった?ここって異世界!?
しかも家族全員美男美女…なのになんで私だけ黒髪黒眼平凡顔の前世の姿のままなの!?
えっ、絶世の美女?黒は美人の証?
いやいや、この世界の人って目悪いの?
前世の記憶を持ったまま異世界転生した主人公。
しかもそこは、色により全てが決まる世界だった!?

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

天使は女神を恋願う
紅子
恋愛
美醜が逆転した世界に召喚された私は、この不憫な傾国級の美青年を幸せにしてみせる!この世界でどれだけ醜いと言われていても、私にとっては麗しき天使様。手放してなるものか!
女神様の導きにより、心に深い傷を持つ男女が出会い、イチャイチャしながらお互いに心を暖めていく、という、どう頑張っても砂糖が量産されるお話し。
R15は、念のため。設定ゆるゆる、ご都合主義の自己満足な世界のため、合わない方は、読むのをお止めくださいm(__)m
20話完結済み
毎日00:00に更新予定
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる