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②天使のような王子様 / 5,940文字
4. 薔薇園でのアプローチ
しおりを挟む白薔薇のアーチをくぐった先にある薔薇園は、何十種類もの薔薇があるようで、芳しい香りに満ちている。蜜蜂や蝶が飛び交い、光の差し込む加減が美しく、まるで童話の世界に迷い込んだようだと思う。
奥の方にあるらしいシェリーローズのところにたどり着くまで、フェリクス殿下は言葉を発することはなかった。
しかし顔色は赤くなったり青くなったりと忙しく、わたしはそんな麗しいご尊顔を不躾にならない程度に眺めていた。
(眼福だわ。本当に天使みたいな王子様ね。こんなに綺麗で整った顔を見るのは初めて……)
護衛や侍女は離れた場所から見守っているし、他の令嬢達はまだアーノルド殿下への挨拶で忙しいのだろう。人の少ない薔薇園は、天使な殿下がいることで、天上の楽園のように見えた。
サラサラの金髪に、ラピスラズリのように煌めいた瞳、スッと通った鼻梁、薔薇の蕾のような唇、伏し目がちな目の下には長い睫毛の影が映っている。
同じ金髪でも殿下の髪色はわたしよりもずっと淡い金色で、光の加減で銀髪にも見える。それがまた神秘的で、思わず溜め息が出そうだった。
やがて開けた場所の大きな噴水が見えてくると、あれがシェリーローズですと殿下が教えてくれる。
薄ピンク色と白のグラデーションの花弁が可愛らしい、甘い香りの大輪の薔薇だった。噴水を取り囲むように植えられている。
「素敵……とても美しい光景ですね」
「…………」
「殿下はよくこの薔薇園にらいらっしゃるのですか?」
「…………」
「……フェリクス殿下?」
俯きがちな眼を覗き込むようにして見つめると、またしても殿下の頬が赤くなる。歩きながらチラチラとこちらを見ている時もそうだったけれど、本当に可愛らしい人だと思う。わたしはフェリクス殿下が一目で好きになっていた。もっと仲良くなりたいと思う。
「レティーシア嬢」
「はい」
「ミニョネット侯爵家は、中立派だったと思うのですが……」
「はい、そうですわ」
「では何故? ミニョネット侯爵にはお会いしたことがありますが、彼は王宮の権力争いに積極的に関わるタイプではないと思っていました」
「あの、殿下は何か勘違いなさっておりますわ。わたくしは父に言われたから殿下をお誘いしたのではありません。父はわたくしの意志を尊重してくれますから」
「だったら何故? 僕はその、酷く醜いでしょう?」
「そんなことありませんわ」
「貴女は優しいですね。ですが世辞はいいのです。自分が陰でなんと呼ばれているかは知っています。化け物王子、異形の王子だと……母でさえ私を生んだことを後悔していますし、使用人達は私に触れるのを嫌がっています」
フェリクス殿下がエスコートのために殿下の腕に触れているわたしの手を見下ろす。
「僕に触れて微笑んでくれる女性がいるとは、夢にも思いませんでした……貴女の望みは次期王の正妃ですか?」
「いいえ、違います。わたくしは本当に、フェリクス殿下とお話してみたかっただけですわ。殿下は先ほどの席で、一人で耐えていらしたでしょう? 本当なら叫んだ者達は不敬で罰せられても良いはずなのに、殿下はそれをしなかった。お優しいのは殿下ですわ。わたくしはそんな殿下だからこそ、お近付きになれたらと思ったのですわ」
熱くなる頬を押さえながら、告白めいたことを言ってしまう。天使な王子様は驚いたようにわたしを見つめていた。
「……本当に、貴女は僕が恐ろしくないのですか?」
「恐ろしいだなんて、とんでもない。わたくしは殿下のお姿をとても好ましく感じていますわ」
「レティーシア嬢……レティと呼んでも?」
「はい」
「僕のことはフェリと呼んでください」
「はい、フェリ様」
お互いに頬を染めて見つめ合う。
わたしはこの日、フェリクス殿下と沢山のお話をしたのだった。
※ ※ ※
後日、王宮からわたしことレティーシア・ミニョネットが第一王子フェリクス殿下の婚約者に選ばれたとの通達があった。婚約者候補の一人ではなく、婚約者とあったのは、他に候補が見つからなかったからかもしれない。
こうなったからには余程のことがない限り、わたしは王太子妃になり、ゆくゆくは王妃になるということだ。
思いがけない未来予想図になってしまったけれど、フェリクス殿下を支えたいと思う気持ちは本物だ。彼のためにも、わたしはこれから始まる妃教育を精一杯頑張ろうと思うのだった。
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