《短編集》美醜逆転の世界で

文月・F・アキオ

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①一目惚れした私と貴方 / 10,660文字

2. 再会と恋の自覚

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商業ギルド近くの食堂で働くようになって二週間が経った頃、私は初めてのお給金を手に入れた。

さっそく騎士団に借りたお金を返しに行きがてら、何か差し入れをしようと考えた私は、朝から買い物にでることにした。
食堂の女将さんがくれた、娘さんのお古のワンピースを着て、頭巾のような帽子をかぶっていけば、あまり目立たないはずだ。
私の黒髪は珍しくて目立つらしいので、ローブを買った方がいいかもしれない。一人歩きはなるべくしない方がいいと女将さん達に忠告された私だった。

焼き菓子を売っているお店に入り、ラスクのようなお菓子の詰め合わせと、マドレーヌのようなお菓子の詰め合わせを、二箱ずつ購入する。
そうして騎士団に行って挨拶を済ませた帰り、大通りを歩いていると、知らない男性に声をかけられた。

「カ、カティさん! ですよね? あの、ジェンティス食堂で働いてる……俺、フレッドって言います。今日はお休みなんですか?」
「あ、はい。今日はお休みをいただいてます……」
「あの、よかったら一緒にお茶でもどうですか? 美味しいケーキのお店を知ってるんです」
「え? いえ、あの。私このあと用事があるので……ごめんなさい。遠慮します」
「そうなんですね。どちらまで行かれるんですか? 女性の一人歩きは危険ですし、なんなら俺、付き添いますよ」
「いえ、そんな。近くなので大丈夫です」
「そう言わず。俺、カティさんと話してみたかったんです。少しで良いのでご一緒させてください」
「はぁ。では、あの、冒険者ギルドに着くまででしたら……」


そうしてフレッドさんに付き添われながら冒険者ギルドに向かうことになったのだが、いかんせん自慢話の多い人で、自分がどこで働いてて、どんな重要ポジションで、いかに難しい仕事をこなしているかなど、楽しそうに話して聞かせてくる。
私は「そうなんですか」「すごいですね」と適当に相槌を打ちながら、どうしてそんなに自分をひけらかすのだろうと疑問に思う。悪い人ではないのかもしれないが、私には合わない人だなぁと感じながら、早くギルドに着くよう祈っていた。

「あ、見えてきましたね。それじゃあ、私はここで……」

お世辞にも「お話楽しかったです」とは言えなくて、付き纏われた印象が強いので送ってもらったお礼をする気にもなれず。
私は言葉を濁しながら、早くフレッドさんから離れたいと願っていた。

「ああ、もう到着ですか。楽しい時間は過ぎるのが早いですね。どうですか、今度は別の日に改めて食事でも」
「あ、えーと、私この街に来たばかりで忙しくて、そういうのはちょっと……」
「今日のように休日はあるのでしょう? 来たばかりというのなら俺が街を案内しますよ」
「いえ、休みの日はなるべく休養に当てたいので……すみませんが遠慮します」
「そう言わず。少しくらいなら良いでしょ? 息抜きにさ、ね?」

するりと手を取られ、手の甲に唇を当てられる。
それが何の意味を示すのかは分からないが、ゾワリと寒気が走り、気持ち悪いと思ってしまう。
勝手に体に触れられるのは、同性であろうと嫌だった。異性なら尚更だ。

「やめてください!」

私はつい強く言って振り払ってしまったが、フレッドさんはきょとんとしている。反省している様子はなかった。異文化交流は難しい。

その時、私はフレッドさんの向こうにローブ姿のユリウスさんと思しき仮面の男性を見つける。
私は急いでその場を離れると、ユリウスさんの元へと駆け寄った。

「ユリウスさん!」

私に気付いたユリウスさんが、驚いたように立ち止まる。私は背後にフレッドさんが追ってきているのを感じ、咄嗟にユリウスさんの腕をとった。

「!?」
「お願い、合わせて!」

ビクリと反応したユリウスさんに、小声でお願い事をする。
そうして追いついてきたフレッドさんに向き合うと、私は組んだ腕を見せつけるようにして話した。

「ごめんなさいさい、フレッドさん。私、街の案内は彼にしてもらうことになってるんです」
「え、あ、そう、でしたか。失礼ですが、彼はカティさんの?」
「恋人です。なので男性と二人きりで出かけるというのは無理なんです。すみませんが諦めてください」
「わ、かりました……」

じろじろとユリウスさんを見ながら、疑うような視線を向けるフレッドさん。そんな彼を振り払うように、私はユリウスさんの腕を引いて「行きましょう?」と微笑んだ。


     ※  ※  ※


ギルドから離れるように歩きながら、私はユリウスさんに謝る。

「すみません、ユリウスさん。ご迷惑をお掛けして……でも、何も言わずに合わせてくださってありがとうございます。あの人しつこかったので助かりました」
「いや、俺は構わないが……あんなことを言って良かったのか?」
「あんなこと、ですか?」
「その、お、俺が恋人だって……」
「あ。それについても、ごめんなさい。勝手に恋人役にされてご迷惑でしたよね。あの、ユリウスさんの恋人さんに誤解されないでしょうか。私から直接、謝った方が良いでしょうか」
「俺に恋人なんかいるわけないだろう。あんたのことを言ってんだ。変な恋人がいるって噂になっても平気なのか?」
「私は大丈夫です。むしろユリウスさんのようなカッコいい恋人がいると思われるなんて役得です」
「か、かっこいい?! 本気で言ってるのか?」
「え? もちろんです。ユリウスさんみたいに綺麗でカッコいい人、私は初めて見ました」
「……嘘や冗談じゃないのか?」

気付いたら路地に連れ込まれ、私はユリウスさんと向き合って立ち尽くす。背の高いユリウスさんに見下ろされていると、逃げ場を封じられたような気持ちになって動けない。あのご尊顔が仮面の向こうから私をジッと見つめているのかと思うと緊張した。

「冗談なんかじゃありませんよ? 本気で言っています。どうしてそんなことを訊くんですか?」

こんなに素敵な人を、好きにならない女性なんていないのではないかと思う。だって芸能人やアイドルなどの美形に全く興味がなかった私ですら、見惚れてしまうほどの美貌の持ち主なのだ。
こんなひとに親切にされたり、見つめられたりしたら、それだけで期待してしまう。

そう、私はいつのまにかユリウスさんに恋をしていたのだった。


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