《短編集》美醜逆転の世界で

文月・F・アキオ

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①一目惚れした私と貴方 / 10,660文字

1. 女神との出会い(sideユリウス)

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その日、俺はいつものように森で気晴らしを兼ねた自主鍛錬をしていた。
滅多に人の来ない場所なので、そこではいつも仮面やローブを外して過ごしている。新鮮な空気を吸いながら昼寝をすることもあった。

街から離れたこの場所は、煩わしい視線や暴言に晒されることもなく、ありのままの姿でいられる唯一の憩いの場所だった。


そうして俺は、そこで女神のように美しい人に出会ったのだった。


     ※  ※  ※


鍛錬を終え、近くの泉で水浴びをする。
しばらくすると茂みをかき分ける音が聞こえてきて、俺は素早く武器を手に取って身構えた。

そんな俺の前に姿を現したのは、目を見張るほど美しい女だった。

「…………」
「…………」

陶器のように白い肌、漆黒のつぶらな瞳、凹凸の少ない目鼻立ち。見慣れない服を身に纏った、ふくよかで小柄で儚げな女。そのあまりの美しさに絶句していると、なぜか女神は頬を染めていく。
この俺と目を合わせているのに泣き出さないどころか、嫌悪感を少しも滲ませない。そのことに気付いて俺はゴクリと息を飲む。

「ごっ、ごめんなさい! 決して覗くつもりはなくって! あの、私、迷子で! よかったら道を、この森の出口を教えていただけませんか」

女神は焦ったように両手で顔を覆い隠してそう言った。声すらも可憐で麗しく、俺はしばし呆然としていた。


     ※  ※  ※


「なら、目が覚めたらこの森に放置されていたのか?」
「はい。そうなんです。なぜ誘拐されたのかも、なぜ森に捨てられたのかもわかりません……」
「確かにな。あんたほどの美人なら人攫いに合うのは納得だが、売らずに捨てるのはおかしい。暗殺の依頼でもなければ」
「暗殺ですか……それにしては森に捨て置くだけなんて不確実ですよね。犯人はどうして私をちゃんと殺さなかったんでしょうか」

服を着て仮面とローブを身につけて、俺は女神の話を聞いた。

「あんたが美しすぎるから、女神を殺すようで出来なかったんじゃないか?」
「えぇ? まさか!」

そう言って笑った彼女の名前はカティと言うらしい。
カティは俺の素顔を見たはずなのに、全く不快な顔をすることなく、まるで普通の人のように接してくれる。心までも美しい人のようだった。

俺は喜んで街までの案内役を買った。なんなら騎士団に保護してもらうところまで付き添っても構わないと思っていた。彼女が共にいることを許してくれるのなら。


     ※  ※  ※


森を出てしばらく歩き、街の入口にたどり着く。彼女は門を見上げたあとに門番を見て、なぜか酷く驚いていた。

「大きな門、ですね……」
「ガラドューラに来るのは初めてか?」
「あ、はい。こんな……大きな街は、初めてです」

カティは俺のローブをつかみ、はぐれまいとしているのか強く握りしめている。その顔は緊張しているように見えた。

人混みの中を歩いていると、老若男女たくさんの者達が振り返ったり足を止めたりしてカティを見つめているのがわかる。これだけ美しいのだから注目されるのは当然だが、並んで歩いているのが俺なせいもあって、余計に目立っているようだった。

「……やっぱり黒髪って珍しいのですね。周囲からの視線が痛いです」

確かに黒髪は珍しいが、それ以上に珍しいのは彼女の類稀な美しさだ。
このままでは再び人攫いに合うのは時間の問題だろうと思われた。騎士団に預けたとして、彼女が安全に暮らせるとは限らない。

(俺なら守ってやれるのに……)

カティを守りたい。カティに好かれたい。もっともっと頼られたい。
そんなことを考えてしまうくらい、俺は彼女の虜になっていた。

(だけど俺みたいな不細工じゃカティには釣り合わない……)

わかっているのに願うことを止められない。カティと話せば話すほど、恋する気持ちが膨らんで、どうしようもなくなっていた。


     ※  ※  ※


「ユリウスさん! ここまで連れてきてくださって、本当にありがとうございました!」

騎士団に保護を求め、彼女を安全な場所に引き渡したあと。別れ際に彼女は「この御恩は一生忘れません」などと言って笑う。

その笑顔があまりにも美しくて眩しくて、俺はしばらく見惚れていた。
そして、もう二度と会うことはないかもしれないと思ったら、胸が軋むように痛んだ。


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