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第2章 二人の誤算
迫り来る期日 xi(Selina and William)※※
しおりを挟む夜明け前――結果として同じぐらいの疲労を滲ませて、二人は街へと向かって飛び立った。
出立前にアベルがの匂いの濃さを理由に乗せるのを渋るという、微妙に恥ずかしい内輪揉めが生じたものの、今後は極力マーキングを落としてから乗るという確約のもとに許可を得て、無事に出発したのだった。
そうして空中で夜明けを迎えた時――どちらともなくそちらを向いてじっと眺め、橙色の線が黒く繋がっていた地と空とを隔てていく様を見つめていた。
「リーナ、あのさ……」
「なぁに? ウィル」
「また、しばらく会えなくなるかもしれないけど……もう僕に黙って夜中に抜け出したりするなよ?」
「……そうね、そうするわ。今回の件は、ちゃんと反省してるのよ」
「前もって呼んでくれれば、ちゃんと迎えに行くからさ……」
「私、ウィルの普段のお仕事とか、研修の邪魔をしたいわけじゃないの……」
「分かってる。でも僕だってリーナに会いたいんだから、リーナが我慢してもあんまり意味は無いんだ。リーナから呼んでもらえたら、僕も行動を起こす良いきっかけになる……さすがに毎日抜け出すのは無理だろうけど、今回のことで自分の弱点も解ったし……あんまり不満を溜めすぎるのも考え物だ」
「弱点って? 不満って、私と会えなかったこと?」
「うん、そう。近くにいるのに会えないと、いつも以上にに欲求不満になるって気が付いた。そして〝弱点〟は、その状態でリーナに会うと自我が保てなくなるってことかな。飢餓状態で本能的になるというか、無我夢中でリーナを貪ることになる……」
「そ、れは……少し、厄介ね……」
「少しだけなんだ?」
「…………半分くらいは、嬉しいもの」
クスッと小さく愉快そうにウィリアムが笑い、セリーナを後ろから支えるように添えていた腕をギュッと巻き付けて抱きしめる。
それじゃあまた一緒にするか?と耳元にこっそり囁くと「あれはダメ。だってウィルだけずるいもの……」とセリーナが呟いた。
「たまにでも駄目なのか?」
「ダメよ。恥ずかしいもの」
「かわいいのに……」
ウィリアムが残念そうに呟く。
「……け、結婚してから。そしたら時々なら、大丈夫……かも?」
「そうだな。結婚して、一緒に暮らすようになったら――そしたら時間を気にする必要もなくなるし。思う存分……時々しような」
それは文脈がおかしい、と突っ込みかけて言葉を飲み込んだセリーナだった。
セリーナとて、本心から嫌だと思っているわけではない。行為自体は気持ちが良くて興奮するし、幸せを感じる。求められて嬉しくないわけがない――
ただ、乱れ過ぎる自分の姿が恥ずかしく、激しくされると快感が強すぎて苦しく、長くされると自分の意思とは無関係に(それはもう恥ずかしい声で)鳴き喘いでしまうことが分かったので……毎回は遠慮したいと思っただけなのだ。
まだ完全には夜が明けきらないような薄闇の残る中でセリーナとウィリアムは別れを惜しみ、二日後の迎春休明けの新年初日にまた会う約束を交わして別れた。
ウィリアムが「死んでも休みを勝ち取るから」と豪語して、見せた表情は深刻そのもので――
それまでに彼がどうか無茶をして倒れたりしませんように……と、セリーナは密かに祈ることになる。
無事に帰宅し、家人のいない早朝の屋敷で堂々と階段を登って自室に戻り、脱走からの朝帰り事件を終結させたセリーナ。
消えかけた暖炉の前に置かれた布だまりの中では、ついさっきまでの自分たちのように、二羽の共鳴鳥が仲良く寄り添って眠っていた。
*
寮への道を歩きながらウィリアムは考え込んでいた。これが俗に言う〝やばい〟というやつではないかと。
著しく優れた状態にも、とてつもなく困った状態にも、危険が身に迫っているという意味にも。肯定・否定を問わず広い意味で使われるこの言葉――同室だったギルバートが無闇矢鱈に使用していたこともあって余計に――これまで全く使う気にならなかった単語であるのに……今回の件はそれらの状態全てが当てはまる。
セリーナが真夜中に屋敷の外へ飛び出したことから始まって、自分も初めて寮則を破って抜け出して、なんのかんのと理由をつけて、彼女と一夜を共に過ごした。
俗に言う朝帰り……公序良俗に反する夜遊び行為と言えなくない。
あの小屋でセリーナが、泣いて善がって抱きしめてと……僕を欲しがって怒って可愛くて、それからずっとあんな――
(すごかったな……)
僕も興奮ぐあいが酷かったけど、とにかくセリーナが凄まじくエロくて容赦なくエロくて。
淫らに揺れて体を震わせて、尾を引くように鳴き続けて……際限なく溢れる泉のようで、飲み込みきれなくて水溜りが出来るくらいで……
もしかしたらセリーナは朦朧としてたから覚えてないかもしれないけど、何度も僕の名前を呼びながら悶えて、ものすごく可愛くおねだりしてくれた……
僕も夢中で、微弱な動作でしつこく嬲って……そしたら軽い絶頂が連続で起こってるみたいにセリーナはずっとビクビクしてて……あそこがドロドロに解れて熱くて柔らかくて……入り口をあんなに広げて三本どころか四本でも足りないくらいに指を美味しそうに飲み込んで……
(まずい、勃つ……考えるな考えるな。今は忘れろ――)
ああでも、あそこは覚えておきたい。あの引っかけるように曲げた先にある、奥まった場所のあれ。
あそこを軽く押しただけでセリーナの中がが激しく痙攣して、引っかけないように気を付けて擦ったらセリーナの嬌声がさらに凄いことになった……
全然強くしてないのに中がうねってきゅうきゅう締め付けて、ダメダメ言いながら押し付けてきた。
今まであんなに大きく、あんなに長く、泣き叫ぶみたいに声を上げたことは無かった。
ものすごく悦んでくれて最後の方はなんか水っぽい感じだったし、おそらく潮と呼ばれるものも吹き出てたと思う……
あれは凄い。絶対に忘れない……
今回の絶景の全て、セリーナが魅せてくれた蕩けた姿は、僕の中で間違いなく殿堂入りする思い出となった。
もしかしたら初めて擬似セックスした時と同じか、それ以上に衝撃的で興奮した出来事だったかもしれない。
しばらく夢に出てきそうだ……
『しゅ、しゅごいのぉ……あぁーっ、ぁ、ぁ、ぁ、らめぇぇ……ゃんっ、んぁっ……しゅごっ……あっ、いくっ……ぃくのぉ!』
『ぁーーっあーーっ……いやっ、いやっ、ぬいちゃいやぁ……なんでぇっ、うぃるらめっ!……ぁ、んっ、あぁん………らって、うぃるがぁ……』
セリーナの欲に濡れた声が蘇る――
だんだん子供みたいな舌足らずになって……物足りないのか刺激がツボだったのか、泣いて善がって叫んでいた。
勘違いで無いのなら……達きまくっているようだった。
恥ずかしがり屋なセリーナが抗えない程の、強く激しい快感に……僕が陥れたのだ。
思い出すだけで興奮して、釣られるように亀頭が擡げてくる――
あんなにたくさん出したのに。
この反応はどうなんだ……
帰ったらまた抜かないと、大変なことになりそうだ……
油断するとすぐセリーナのあられもない姿と耳に心地快い声が思い出されて……いちいちこれでは仕事に響く。
「ヤバいな……」
〝やばい〟状態とはこの事か。
ひとりの時にも自分で自分を保てない、抗えない感情の高ぶり……こういう時に使うのか……
良くも悪くも、自分の心がひどく揺さぶられたのは事実で……
それをしてのけるのは、やはりセリーナなのだなと実感するウィリアムだった。
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