kindleサンプル『オメガバース・ラプソディ〜運命はハニークロワッサンな香り』

桐乃乱@龍神商業電子化予定

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【一】バース判定は突然変異

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登場人物

苦竹輝 高校三年生。ベータ
苦竹 父  製薬会社社員。ベータ
苦竹 母  オメガバース大好き主婦。
西城 秀樹 製薬会社副社長。アルファ

※本作品はフィクションです。実在する人物、団体、事件とは一切関係がありません。
※本作品は一人称複数視点の群像劇スタイルです。


◆◆◆◆

 ふわりと僕の鼻孔を満たしたのは、大好きな香り。
 ガチャリ。
 突然、ドアが勢いよく開いて、眉目秀麗な青年が僕を抱きしめた。

「お前は、俺のオメガだ……」

 えええええ~⁉
 ど、どういうことー?

 ※ ※ ※

 さかのぼること、二週間――。

 一月最後の登校日。昨年末に進路の決まった僕は受験生に刺激を与えないように、真面目な顔で先生の話を聞いていた。

「受験者は体調に気をつけて頑張れ。健闘を祈ってる。進路の決まった生徒は家で大人しくしているように。事故や事件を起こすなよ。卒業できないぞ」

「「は~い」」

 キーンコーン。カーンコーン。

 先生が教室から出ていくと、途端に会話が爆発した。僕の気遣い無駄じゃん!

 卒業式までは自由登校の日々が続くが、僕の日課はゲーム一択。
 ふふふふ。合格祝いに祖父ちゃんから貰った小遣いでゲットしたんじゃ~。

「なあ。もう入学前検査受けたのか?」
「うん。平民だった」
「俺も」

 高校三年生の話題は、受験の合否かバース判定が大半を占めている。

「王様は全国民の十%だろ? 大抵は東京に住んでるらしいぜ。ここじゃ、会えるのが奇跡みたいなもんだよ」

「そうだよな。アルファ様は官僚か社長になるもんな。アイドルだってアルファかオメガばかりじゃん。ベータな俺たちには別世界の話だよ」

「なあ、アルファに会ったことある?」
「親父が東京の本社で見たって」
「知事が確か、アルファだよな」
「まあ、バース性は公にしないのがマナーだけど、あれはエリートだもんな」

 知事は五十代のイケオジだって、地元のマスコミが騒いでたな。母ちゃんは面食いだから、絶対にルックスで一票入れたに違いない。
 
 オメガバースという性が発見されてから約百年。
 十三歳になった日本国民に【第一次バース判定検査】が義務づけられるようになって、半世紀が経った――。

 ◆◆
 
 この世には男女性の他に、α(アルファ)、Ω(オメガ)、β(ベータ)と呼ばれる三つの性が存在する。

 世界人口約十パーセントのアルファは男女関係なく卵巣を持つ相手を妊娠させることが可能で、逆にオメガは男性でも妊娠、出産が出来る。

 アルファの優秀な遺伝子は世界経済を回し、政界や経済はアルファが牛耳っている。聞こえは悪いが、この世界が平和なのはアルファのおかげだ。

 そして、そのアルファを生めるのはオメガだけ。オメガの人口は全世界でも五%しかいない、希少な存在だった。

 そのため、オメガの結婚年齢は十六歳、アルファとベータは十八歳以上と日本の法律で定められている……。

 ◆◆
 
 ――ってな事を小学五年生で学ばされるのが、日本国民の義務教育なんだよね。昼休みにドッジボールをやりすぎて五時間目の授業は寝てたから、よく覚えてないけど。

「あれ、輝は検査したのか?」
「しっかり血を採られてきました! もうすぐ届くはずなんだよな~」

 大学入学前に義務づけられている再検査結果は、入学金と一緒に提出しなくてはならない。
 
 東北一の政令指定都市に生まれた僕、苦竹輝は先月十八歳を迎えたばかり。

 僕が合格した大学は地元の私立青葉学院大学。バース性に配慮したキャンパス環境は出世した卒業生(主にアルファ)の莫大な寄付によって整備されているのが売りだ。そこを選んだ理由は、お気楽なキャンパスライフを送りたかったから。

僕の学力は学年五十位の微妙なラインだったが、専せん願がん受験で滑り込んだ。まあ真実は、試験管が英語の聞き取りテストで問題を取り違えて放送して、合格者が倍になったんですよね。ラッキー。

「結果は分かりきってるけど、アルファだったら、この街で会社を作りたいな~」

 僕の第一次判定はベータだった。

「あはははは。うん、輝の夢はでっかくていいな。それじゃ、俺を雇ってくれよ」
 僕同様に専願受験で他県の大学に合格した佐藤がからかう。

「うん。わかったよ!」
「おいおい。輝じゃ、社員に舐められるんじゃないか?」

 大学入学共通テストを先週末に終えた鈴木も、遠慮無くツッコミを入れた。

「それって、僕がチビだって言ってるでしょ」

 そう。僕は一六〇センチしかないチビガリだ。
 見てろよ~。もしアルファだったら、テレビアイドルみたいに細マッチョイケメンに変身してやるからな~。

 どんなに頑張って丼飯を食べても、クラスの平均値より十センチも小さい。コンプレックスの筆頭が他にあるのは内緒だ。

「なぜなんだ。栄養素は、どこに吸収されてるんだ?」
「うんこじゃね?」
「そんなのわかってらい!」
 きっと胃下垂体質なのだ。だけど諦めきれない。
「マッチョなイケメンになって、彼女が欲しいんじゃ~」
「お前の小さな野望が叶うといいな!」
「いや、大きいでしょ」

 友人達はいつもおちょくる。僕も本当はわかってる。きっと自宅に届いた結果はベータに違いない。当たり前だ。だって両親は平民なのだ。


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