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第二章
【九】青羽―一番街のスターダスト
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グーパンチをお腹と左頬に食らい、星が瞬いた。備品倉庫のタイルに転がり、蹴りを警戒して身体を丸める。お腹が痛くて力が入らない。高木君は、いつからチャラ泉さんとグルだったんだ?
「気絶した振りをして。今は逃げようとしちゃダメだ。殺されるよ」
ゾッとする低音で囁かれた。気絶した振り?
ジャッ。
「おい、どうする気だ」
カーテンが開き、頭上からチャラ泉さんの声が降ってきた。咄嗟に目を閉じて息を殺す。
「目撃されたから、運ぶしかないでしょ」
「約束の時間まで五時間早い」
「どこかに隠さないと。見られたから、ここはもう危ない」
「ちきしょう。このガキ、余計なことしやがって」
ガツッ!
背中を蹴られ、うめき声をこらえた。
「シッ。とりあえず運ばないと」
ビリッ。ビリッ。布を裂く音がして、両手足を縛られる。続いて目隠しをされ、口も布切れで塞がれた。
むぐぐ……。もしかしてこれはシーツ?
「手慣れてるな」
「今泉さん。そこのナイロン袋を取ってください。俺は早退すると話してフロント社員の目を逸らしますから、台車に載せて外まで運んでください」
「チッ。俺の服も取ってきてくれ。靴もだ」
「わかりました」
どうやら高木君は立場的に下のようだ。汚れたシーツを入れる頑丈な紺色のナイロン袋に二人がかりで身体を押し込まれて、台車に転がされた。
『万が一見つかったら、逃げながら腕時計のスクランブルボタンを押してください』
昨夜、探偵屋の説明はこう括られた。逃げ切れると踏んでいたのだろうか。
縛られた指がボタンに届かない。ガラガラと台車が音をたてる。息苦しさより、コックコートを脱いだトレーナーとジーパン姿に身震いした。クリスマス時期の東北は氷点下まで冷え込む。しばらく台車が停止し、イライラと足踏みするチャラ泉さんが毒つき始めた。
「クソガキッ。嗅ぎ回っていやがったのか!」
ドカッ。ドカッ。ドカッ。ドカッ。
ナイロン袋越しに蹴りを入れられ続けた。痛い! 歯を食いしばり耐える。だがサンダルでよかった。尖った革靴なら、失明や脳挫傷で既に人生が終わっていたかもしれない。
「やめろ、大人げない」
「なんだテメエ、偉そうに!」
「シッ。客が来る。早く積みましょう」
スライドドアから押し込まれ、すぐに車が走り出した。一体どこへ向かっているんだ?
無言の時間が経過し、高木君がチャラ泉さんに問いかけた。
「日野君を売るなんて、彼は山田さんにヤバいことしたんですか?」
「ははははは。こいつさ~、『ババアに迫られて勃たなかった』って言う相手が山田の母ちゃんだったんだよ。アイツすげ~怒ってさ。変態ジジイに売るってさ。その前にボコられて死ぬかもしれないな。まあ、俺はどうでもいいけど」
山田は俺を殴り殺すなんて平気でする男だ。さらに長い間、車は走行し続けた。チャラ泉さんはバイトでヘラヘラと喋っていた口調とは打って変わり、横柄な態度で告げた。
「おい、コンビニに寄れ。ったく。酒でも飲まなきゃ、やってらんねえぜ。あのホテルはよく売れたのによ」
「通報されなくて良かったじゃないですか」
ガチャリ。
「窒息してないか確認しますよ」
「勝手にしろ」
バタン。
「袋を引っ張るよ。意識があるなら協力して」
高木君の声音には励ましが感じられた。彼がナイロン袋を押し下げて、どうにか袋が取り去られたが拘束はそのままだ。
ガチャリ。バタン。
「生きてるじゃねえか。その袋をかけとけ」
人目につくのを警戒している。まだ街中なのか?
再び発進し、感覚的にカーブが増えてきた。これはそう、透と向かった泉岳への道みたいだ。もしかして山に向かっているのか。
プシュ。二本目のプルタブを開ける音がした。随分とハイペースで飲んでいる。試しに目隠しを引っ張ったら、少しだけずれた。よし、今度は口だ。いや、その前に足首だ。
「おい、もっと飛ばせよ」
「道路が凍ってるんですよ。スリップしたら山を滑り落ちます」
「真ん中を走ればいいだろ。どうせ向かい側からは来ないんだ」
「無茶言わないでください。ほら、ライトが近づいてきますよ」
キキーッ。ドカッ。ドカッ。
「うわー」
ブレーキ音と、ぶつかった衝撃。シートベルトもせずに横たわっていた俺は、転がって床に落ちた。助手席の下に足が突っ込んでいく。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ。
車が滑り落ちて、ようやく止まった。
「今泉さん」
返事がない。気を失っているのか?
「日野君、返事して」
「っはい……」
シーツの猿ぐつわを外した。目隠しも邪魔だ。
「日野君、頭上の室内灯はつくかい?」
カチリ。辛うじて明かりが車内を照らした。
「うわ……」
車体は、山の斜面を大木に追突し、フロントガラスが大破していた。チャラ泉さんが逆さになって流血している。首が変な方向に曲がっていた。
「シートベルトをしないからこうなるんだ。」
「死んでるのか?」
「分からない。さあ手を出して。シーツを切るよ」
彼の手には鋭利なサバイバルナイフが光っていた。ためらっていると、爆弾発言が落ちた。
「俺は星刑事の部下だ。○署の潜入捜査官だよ」
「星刑事の……」
両手を差し出すと、戒めの布がハラリと落ちた。
「足は自分で切って脱出するんだ。早く!」
切羽詰まった口調に、反射的に従った。拘束が解かれてスライドドアを開けると、車体が揺れた。
「高木君、ドアは開くのか?」
「いいから、先に逃げろ」
「どうしたんだ?」
「いいから早く!」
「気絶した振りをして。今は逃げようとしちゃダメだ。殺されるよ」
ゾッとする低音で囁かれた。気絶した振り?
ジャッ。
「おい、どうする気だ」
カーテンが開き、頭上からチャラ泉さんの声が降ってきた。咄嗟に目を閉じて息を殺す。
「目撃されたから、運ぶしかないでしょ」
「約束の時間まで五時間早い」
「どこかに隠さないと。見られたから、ここはもう危ない」
「ちきしょう。このガキ、余計なことしやがって」
ガツッ!
背中を蹴られ、うめき声をこらえた。
「シッ。とりあえず運ばないと」
ビリッ。ビリッ。布を裂く音がして、両手足を縛られる。続いて目隠しをされ、口も布切れで塞がれた。
むぐぐ……。もしかしてこれはシーツ?
「手慣れてるな」
「今泉さん。そこのナイロン袋を取ってください。俺は早退すると話してフロント社員の目を逸らしますから、台車に載せて外まで運んでください」
「チッ。俺の服も取ってきてくれ。靴もだ」
「わかりました」
どうやら高木君は立場的に下のようだ。汚れたシーツを入れる頑丈な紺色のナイロン袋に二人がかりで身体を押し込まれて、台車に転がされた。
『万が一見つかったら、逃げながら腕時計のスクランブルボタンを押してください』
昨夜、探偵屋の説明はこう括られた。逃げ切れると踏んでいたのだろうか。
縛られた指がボタンに届かない。ガラガラと台車が音をたてる。息苦しさより、コックコートを脱いだトレーナーとジーパン姿に身震いした。クリスマス時期の東北は氷点下まで冷え込む。しばらく台車が停止し、イライラと足踏みするチャラ泉さんが毒つき始めた。
「クソガキッ。嗅ぎ回っていやがったのか!」
ドカッ。ドカッ。ドカッ。ドカッ。
ナイロン袋越しに蹴りを入れられ続けた。痛い! 歯を食いしばり耐える。だがサンダルでよかった。尖った革靴なら、失明や脳挫傷で既に人生が終わっていたかもしれない。
「やめろ、大人げない」
「なんだテメエ、偉そうに!」
「シッ。客が来る。早く積みましょう」
スライドドアから押し込まれ、すぐに車が走り出した。一体どこへ向かっているんだ?
無言の時間が経過し、高木君がチャラ泉さんに問いかけた。
「日野君を売るなんて、彼は山田さんにヤバいことしたんですか?」
「ははははは。こいつさ~、『ババアに迫られて勃たなかった』って言う相手が山田の母ちゃんだったんだよ。アイツすげ~怒ってさ。変態ジジイに売るってさ。その前にボコられて死ぬかもしれないな。まあ、俺はどうでもいいけど」
山田は俺を殴り殺すなんて平気でする男だ。さらに長い間、車は走行し続けた。チャラ泉さんはバイトでヘラヘラと喋っていた口調とは打って変わり、横柄な態度で告げた。
「おい、コンビニに寄れ。ったく。酒でも飲まなきゃ、やってらんねえぜ。あのホテルはよく売れたのによ」
「通報されなくて良かったじゃないですか」
ガチャリ。
「窒息してないか確認しますよ」
「勝手にしろ」
バタン。
「袋を引っ張るよ。意識があるなら協力して」
高木君の声音には励ましが感じられた。彼がナイロン袋を押し下げて、どうにか袋が取り去られたが拘束はそのままだ。
ガチャリ。バタン。
「生きてるじゃねえか。その袋をかけとけ」
人目につくのを警戒している。まだ街中なのか?
再び発進し、感覚的にカーブが増えてきた。これはそう、透と向かった泉岳への道みたいだ。もしかして山に向かっているのか。
プシュ。二本目のプルタブを開ける音がした。随分とハイペースで飲んでいる。試しに目隠しを引っ張ったら、少しだけずれた。よし、今度は口だ。いや、その前に足首だ。
「おい、もっと飛ばせよ」
「道路が凍ってるんですよ。スリップしたら山を滑り落ちます」
「真ん中を走ればいいだろ。どうせ向かい側からは来ないんだ」
「無茶言わないでください。ほら、ライトが近づいてきますよ」
キキーッ。ドカッ。ドカッ。
「うわー」
ブレーキ音と、ぶつかった衝撃。シートベルトもせずに横たわっていた俺は、転がって床に落ちた。助手席の下に足が突っ込んでいく。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ。
車が滑り落ちて、ようやく止まった。
「今泉さん」
返事がない。気を失っているのか?
「日野君、返事して」
「っはい……」
シーツの猿ぐつわを外した。目隠しも邪魔だ。
「日野君、頭上の室内灯はつくかい?」
カチリ。辛うじて明かりが車内を照らした。
「うわ……」
車体は、山の斜面を大木に追突し、フロントガラスが大破していた。チャラ泉さんが逆さになって流血している。首が変な方向に曲がっていた。
「シートベルトをしないからこうなるんだ。」
「死んでるのか?」
「分からない。さあ手を出して。シーツを切るよ」
彼の手には鋭利なサバイバルナイフが光っていた。ためらっていると、爆弾発言が落ちた。
「俺は星刑事の部下だ。○署の潜入捜査官だよ」
「星刑事の……」
両手を差し出すと、戒めの布がハラリと落ちた。
「足は自分で切って脱出するんだ。早く!」
切羽詰まった口調に、反射的に従った。拘束が解かれてスライドドアを開けると、車体が揺れた。
「高木君、ドアは開くのか?」
「いいから、先に逃げろ」
「どうしたんだ?」
「いいから早く!」
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