【第六回ライト文芸大賞 奨励賞作品】俺のばあちゃんがBL小説家なんだが 

桐乃乱@龍神商業電子化予定

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第二章

【四】星夜―白馬の王子は誰だ?②

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 キキキー。

「アジャール王子、お願いだ。お見合いの邪魔しないでくれよ」
「オトナシク、スルヨ。ココデ、ミマモッテル」
「「キャー」」

 王子の蕩けるような笑顔に、蜂谷さん達から悲鳴があがった。

「月子ちゃん、ごめんね」
「いいのよ。よっぽど星夜君がお気に入りなのね」
「なんだと?」

 なぜそこで海人が怒るんだ?

 送迎用の校門前には荻野兄妹、俺、アジャール王子と側近&ボディーガード、腐女子の蜂谷さんとふたりの仲間がずらりと並んでいた。そこへ停車した真っ赤なスポーツカー。

「お見合い相手だわ!」

 多賀城(たがじょう)さんの顔が興奮で赤い。月子ちゃんのイベントだぞ?

 ガチャリ。

 ドアから降り立った青年はスタイリッシュなスーツとピカピカの革靴を履いていた。茶髪はワックスでお洒落に跳ねている。そして手には花束が……。月子ちゃんが優雅な足取りで彼の前に立った。

「はじめまして、鰐川(わにがわ)と申します」
「お忙しい中ありがとうございます。萩野月子(はぎのつきこ)です」
「写真よりもずっとお美しい」

 ピンクの薔薇を受け取った月子ちゃんは、嬉しそうに微笑んだ。もしかして、そいつを気に入ったのか? 

「ありがとうございます」

 海人がさりげなく近づいて挨拶を交わしていた。俺とクラスメイト達は少し離れた場所でその様子を見守る。


「なんだか相手がモブに見えるわ……王子と海人君と星夜君がイケメンのせいね……」
「しっ。気のせいよ。ね、気仙沼(けせんぬま)さん」
「多賀城さん、鋭い観察眼だわ」


 腐女子たちの反応が悪いぞ。やがてお見合い相手その一は、スポーツカーに乗り込んで去って行った。


「あれで終わり? それが萩野さんの求めているロマンスとプレゼントなの?」
「気仙沼さん、ハーレークイ○(ン)あるあるでしょ。高級車に高級スーツ、そして薔薇の花束。女性が求めるロマンス『シンデレラシチュエーション』がそろっていたわ!」

 多賀城さんの言葉に、戻ってきた月子ちゃんが苦笑いだ。


「お花は綺麗だけど、私が欲しいものじゃないの」

「萩野さんなら、何でも持ってるでしょ。ブランドの服やバッグ、靴も。何が欲しいの?」


 蜂谷さんは鋭い。小学校時代に訪れた萩野家は某団地のセレブエリアで一番大きな家だった。月子ちゃんが欲しいものは何だ?


「わっ。上見て。カフェテリアにクラスのみんながいるわよ!」


 蜂谷さんの指さす方向、武家風土塀の上には、清水寺スタイルのカフェテリアがある。転落防止に1.5メートルの防弾ガラスで囲われた生徒達の食堂から、ガヤガヤと声が振ってきた。


「萩野さ~ん。頑張って~」
「あんな野郎、俺は認めないぞ~」
「俺と付き合ってくれ~」
「いまさら~」

 蜂谷さんと多賀城さん、そして気仙沼さんが騒がしい一段を静めに向かったぞ。

「なんだか勝手なことばっかわめいてるな」

 俺がぼやいたら、海人が連中を仰ぎ見て小さく笑った。

「所詮人ごとだし、イベント気分だからな。月子もそれを狙ってるんだろう」
「月子ちゃんが?」
「その通りよ、お兄様」
「カイト、オミアイ、オワッタカ?」

 アジャール王子がカイトの肩に手をのせたら、向こうから聞き覚えのある台詞が。

「ブロマ~ンス!」
「「きゃー!」」

 蜂谷さん、狙ってたのか? テラスがうるさいぞ!

「みんな~。さっきのお見合い相手の登場はどうだった~?」

 多賀城さん、なんのアンケートだよ? ジャッジイベントじゃないぞ!

 蜂谷さんが両手を頭上にあげて丸い円を作り、気仙沼さんが胸の前で腕を交差して×のポーズをとった。するとカフェテリアの一同が、各々意思表示し始めたぞ。


「いち、に、さん。……バツが多いな。まあ、俺もあいつは気に食わん!」
「お兄様が結婚するわけじゃないでしょ!」
「まあまあ、兄心ってやつだよ」
「お兄様は、相手がアラブの石油王だって気に入らないのよ」
「ホウ。ワタシデモ月子サンノアイテニ、フサワシクナイノカ?」

 おい、そこの石油王(の息子)余計なことを!

 ブロロロロロ。
 キキーッ。
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