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第一章
【六】星夜―腐女子の遭遇
しおりを挟む【六】星夜―腐女子の遭遇
下校の坂道は想像以上にきつかった。
高台の家までは約二キロ。そのうち五百メートルは勾配が急すぎて、ほぼ立ちこぎ状態だった。都会の電車通学で鍛えた足腰は自転車で使う筋肉とは違うらしい。
中学校での俺は、ずっとこんな風に苦しかった。もちろん筋肉じゃなくて精神状態だ。父さんがアラブ王と出会わなければ、ずっとここで海人達と平穏な学園生活を送れたのかもしれない。
でも両親は俺の将来を考えて、雇用主が推薦してくれたボンボン専用学校へ俺を入学させた。
そしてアラブ王の息子からは執拗な監視を受け、家来になるように命令された――。
はっ。笑っちゃうよな。今は令和だぜ?
封建時代なんて日本じゃ廃止されてんだから、断固拒否って逃げ出しました!
俺は祖母ちゃんや叔母さんが暮らすあの家で自由に暮らしたいんだ。そしてこの坂を越えたらバーベキューが待っている。祖父ちゃんがレンガで作ったバーベキューコンロは俺のお気に入りだ。ごめんな、海人。祖母ちゃんが牛肉100%のパテを作ってるはずなんだ。
ジューシーに焼いたそいつをバンズに挟んでガブリとやれば、至福が口内から生まれてくるんだよ……。
登校初日はちょっとだけ収穫があった。海人の妹が漫画を描いてるって叔母さんへ報告しよう。もしかしたら腐女子の友人がいるかもしれない。月子ちゃんに紹介してもらおう。
萩野兄妹やクラスメイトの一部は車の送迎で学園へ通っていた。他の生徒も学園のスクールバスを使用している。
俺はセレブでも何でもない一般市民だから、健康のためにチャリ通を貫き通すぜ!
高台の袋小路に黒塗りの高級車が停まっていた。まさか、父さんを迎えに来たアラブ王の来訪か?
「ただいま」
恐る恐るリビングを覗くと、そこには……。
「よう、星夜。お帰り!」
「おじゃましてます」
「海人! 月子ちゃんも!」
さっき学校で別れたばかりの友人がソファーでくつろいでいたー!
しかも彼らの手には、祖母ちゃんのBL漫画が……。
「海人、お前は腐男子だったのか?」
「いいえ。お兄ちゃんは違うの。私が腐女子なのよ!」
立ち上がって叫ぶ月子ちゃん。手には『魔性のシークに囚われて~出張したら男性だけのハーレムに監禁されました!』が。商業コミックなのにエグいタイトルだな、ベルばら先生……。
「えへへ、リビングで読書タイムしてたら見つかっちゃった」
ラン祖母ちゃんがてへペロしてキッチンへ逃げていった。叔母さんのあれは親譲りか……。
「突然お邪魔してごめんなさい。私の番号を受け取って欲しくて……」
「月子が、みんながいるところで渡したら、女生徒が真似するだろうからってさ……」
「恋のライバルと勘違いされたら、星夜君が困ると思って。私にはもう決まったお見合い相手がいるの」
「そうか。じゃあ今スマホを持ってくるよ。待ってて」
彼らも一般の高校生とは違った人生が待ってるのか。お金持ちの家庭はそれはそれで大変だな。
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