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序章
記憶喪失一行、完全装備する。
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タスクを仲間に加えた翌日。俺たちはウランの武器屋へとタスクを案内することにした。
それ以前にギルドの武器費用無償化っていうサービスも試してみたいし。
ちなみにアドが迷宮で拾った指輪を鑑定に出してみたところ、火魔法を無効化する効果があるらしい。
誰がこの指輪を使うかという小さな喧嘩が俺とアドの間で起きたが、ここは大人の対応でアドに指輪を譲ってやった。というか、アドにはそもそも全耐性完備と桁外れの耐久力で指輪は特に必要ないのだが、どうやらおしゃれに目覚めたらしい。
まあ、おしゃれに目覚めたと言う割には随分ボロボロな服を皆身につけている。
フォルフェウスとの激戦以降、服装を全く変えてないし、もちろん服の修繕も行っていない。
そのため俺とアド、そして一応タスクもみすぼらしい服装で街を闊歩していた。
(通行人に汚物を見るような目で見られることもしょっちゅうだし、そろそろ服装と装備を変えないとな。)
今回ウランの店で頼むのは、タスク用の盾と鎧、と同時に俺たちの新装備である。
片方の装備品が無料になるはずなので、予算は少なめの銀貨8枚である。
新しい武具に胸を躍らせつつ、ウランの店へ訪れる。
前回よりも更に混んでいて、大人気の様子だ。
店の前の看板になんて、『最高の店』と言う趣旨の言葉が延々と並べられている。
武器屋のドアを開けると、「チーン」と明るい鐘の音がなった。
ウランはどうやら接客中でとても忙しそうだし、まだ俺たちのことには気づいていないみたいだ。
「おーい、ウラン!」
大声で声を掛けると、ものすごい顰め顔でこっちを睨んできた。
そして終いには無視。
邪魔するなというウランの心の声が聞こえる気がする。
でもそんなことはお構いなしなのだ。
無理矢理ウランの首根っこというより骨を掴み、強引に店の応接室へと連れ込む。
タスクはどこか遠慮しつつ俺とアドの後ろにピタリと付いてきた。
では、商談をしようとしようと息込んだものの、
「美女との楽しい時間を邪魔するなこの野郎!いいところだったんだぜ!」
「知らねえよ!とにかくさっさと武具を渡せ。そうしたらすぐギルドに戻るから。」
「はいはい、分かったって。」
そう話すと、どこから持ってきたのか、二人分の鎧がマネキンに着せてあった。アドの鎧は髪のような透き通る黒色にいくつかの緑色の筋が通っていて、異様な雰囲気を醸し出している、まさに重装である一方、俺の鎧はちなみに純白の鎧に金色の筋が書かれた、勇者と呼ぶにふさわしい外見をしている。しかもあまり重装備という訳ではなく、どちらかというと機動力に重きを置いたような形状をしている。
「すごいだろ!この鎧!色とかもちゃんと考えたんだぜ!しかも品質は超一級品。上位武器はもちろんのこと、アドの鎧には継続回復、アーサーのには耐久力上昇のバフが付与してある。すごいだろ!」
「ああ、すごいな。流石としか言いようがないな。」
「腕前だけは認めてあげるわ!」
心からの言葉である。
「お褒め頂き光栄だぜーちなみにその影の薄い奴は誰だ?」
タスクはこの会話中、ずっと隅っこで小さくなっていた。
最近気づいたのだが、タスクって相当な人間不信だ。
初対面の人にはほとんど何も喋らないし、根本的に人を信用していないようにしか思えない。
「ああ、こいつは俺たちのパーティの新しい仲間のタスクだ。」
「タ、タスクです。よろしくお願いします。」
いきなり噛んでしまっている。既に緊張しているようだ。
「タスクね。俺はウラン、アンデッドの鍛治師さ!」
「アンデッド?」
タスクは問いかけた。
「ああ、そっか今は人間の顔だもんな。」
と言うと、変装魔法を解除し、本来の白骨化した顔を露わにすると、
「アンデッドォー!」
とタスクはびっくり仰天している。
その勢いで盾を取り出し、臨戦態勢に入る。
「タスク、落ち着け。こいつは悪いアンデッドではないさ。」
「でも、アンデッドじゃないですか!」
「そうなんだけどな。」
そう言われてしまうと苦笑するしかない。ウランはアンデッドだが、決して悪いアンデッドではない。
その証拠に隙を見せても全く襲ってくる気配もない。しかも元人間らしいし、強固な自我もある。
理不尽な男だが、事実彼は敵ではないだろう。
「とにかく、こいつは仲間だ。だから、とりあえずその盾を仕舞ってくれよ。」
優しく諭すと、タスクは渋々納得してくれたようだ。
「で、今日こいつの大盾と鎧を買いたいんだが。」
「依頼じゃなくて購入と?」
ウランが興味深い様子で訊いた。
依頼とは、オーダーメードの武器を職人に作ってもらうことの一方で、購入はオーダーメード品ではない、鍛治師の力作の武器たちを購入すると言うことである。
「ああ、こいつに今すぐ新しい盾と防具が必要になりそうだからな。」
「そうか、分かった。いくつか良さそうなのを持ってくるからちょっと待っててくれや。」
そう言うと、変装魔法を再び発動させ、一度店頭へと戻っていった。数分が経過すると、
「すまんすまん!見つけるのに手間取っちゃったぜ。」
ウランの腕中には大きな青い盾と全身を覆う重そうな鎧があった。
「す、すごいですね!」
タスクは興奮気味に言った。
「お、わかるか!」
「はい!」
そんなウランとタスクの会話に俺たち二人はついていけていなかった。
(すごいってどういうことなんだ?)
どうやらウランは俺たちが首を傾げていることに気づいていたらしくて、親切に装備の説明をしてくれた。
「アーサー、アド、この装備一式は超級武具だ。」
超級武具。一国を代表するような冒険者しか購入できない程高価かつ協力な武器。
そんなものがここにあるとは…
「この装備は、俺が作ってきた装備の中で3番目の出来だ。元々はダイヤ冒険者の依頼で作ったものなんだが、そいつが武器の受け取りに来ないからよ、お蔵入りしてしまったやつなのよ。いつ売ろうか考えてたんだけどよ、それが今だろって思ったんだよ。」
「だからって超級武器を売るなんて!」
いつも落ち着いてるアドが驚いている。
「まあまあ、いいじゃないか。お得意様なんだしよ!お前の連れもこれを欲しがってるぜ?」
確かに買えるなら買いたいが、超級武器は値が張る。最低でも金貨5枚はするだろう。
金冒険者の武器一品無償化サービスを使っても金貨は最低でも5枚かかる。つまり、全財産の80%以上取られる。武具を片方無償化して、もう片方はまた今度ということになりそうだ。
「金額は?」
しかし一応値段は聞いておこう。
「無料だ。」
「ーッ?」
「ああその通り、二品で無料だ。」
「あんた正気なの?」
「ああ。」
「なんでだ。ウラン?」
「こいつらを打ったのは15年前だ。15年間一度も使われてねぇ。使ってあげたいんだよ、俺は。お前らがこいつを使ってくれるだけでお代は十分過ぎるんだぜ。」
ウランはタスクへと近づき、鎧と盾を渡した。
「タスクだっけ?お前にこの武具をやる。だからお前はこの二人を絶対に守れ。それが俺の求める唯一の条件だ。いいか?」
ウランが訊くと、タスクが力強く頷く。
「ウランさん、この武具の名前はなんですか?」
武具の名前ーそれは、
「蒼天だ。」
「蒼天…ウランさん!僕は必ずこの装備に見合う男になります!」
「よし、分かった。蒼天はお前のだ。思いっきり使ってやれ。」
「はい!」
男と男の熱い抱擁を見守っていると、頭の中にリナの声が響いた。
「アーサー様御一行。ギルドマスター様がお呼びです。至急ギルドまで来てください。」
ギルドの指輪を使った思念送信。緊急度の高い事項にしか使われないとリナが話していた。
使用されるのは緊急の依頼内容、国家転覆の危機などの時、もしくは戦争などの時らしい。
体が緊張感に包まれる。今すぐ行かなければ。
「ウラン、すまない。急用が出来た!アド、タスク、行くぞッ!」
「え、アーサーッ、ちょっー」
「アーサー、僕まだ会話中ー」
二人を強引に引っ張る。
「おい、アーサーまだ商談の途ー」
ウランが返事を終える前に俺は店を飛び出した。
ギルドへと全力で走る。
最初は文句を言っていた二人だが、緊張感を察したのか、アド達も黙って俺と並走している。
(一体ギルドで何が起こっているんだ?)
そんな疑問を胸にアーサーたちは走る。彼らの冒険が次の段階へと突入するとは知らずに。
それ以前にギルドの武器費用無償化っていうサービスも試してみたいし。
ちなみにアドが迷宮で拾った指輪を鑑定に出してみたところ、火魔法を無効化する効果があるらしい。
誰がこの指輪を使うかという小さな喧嘩が俺とアドの間で起きたが、ここは大人の対応でアドに指輪を譲ってやった。というか、アドにはそもそも全耐性完備と桁外れの耐久力で指輪は特に必要ないのだが、どうやらおしゃれに目覚めたらしい。
まあ、おしゃれに目覚めたと言う割には随分ボロボロな服を皆身につけている。
フォルフェウスとの激戦以降、服装を全く変えてないし、もちろん服の修繕も行っていない。
そのため俺とアド、そして一応タスクもみすぼらしい服装で街を闊歩していた。
(通行人に汚物を見るような目で見られることもしょっちゅうだし、そろそろ服装と装備を変えないとな。)
今回ウランの店で頼むのは、タスク用の盾と鎧、と同時に俺たちの新装備である。
片方の装備品が無料になるはずなので、予算は少なめの銀貨8枚である。
新しい武具に胸を躍らせつつ、ウランの店へ訪れる。
前回よりも更に混んでいて、大人気の様子だ。
店の前の看板になんて、『最高の店』と言う趣旨の言葉が延々と並べられている。
武器屋のドアを開けると、「チーン」と明るい鐘の音がなった。
ウランはどうやら接客中でとても忙しそうだし、まだ俺たちのことには気づいていないみたいだ。
「おーい、ウラン!」
大声で声を掛けると、ものすごい顰め顔でこっちを睨んできた。
そして終いには無視。
邪魔するなというウランの心の声が聞こえる気がする。
でもそんなことはお構いなしなのだ。
無理矢理ウランの首根っこというより骨を掴み、強引に店の応接室へと連れ込む。
タスクはどこか遠慮しつつ俺とアドの後ろにピタリと付いてきた。
では、商談をしようとしようと息込んだものの、
「美女との楽しい時間を邪魔するなこの野郎!いいところだったんだぜ!」
「知らねえよ!とにかくさっさと武具を渡せ。そうしたらすぐギルドに戻るから。」
「はいはい、分かったって。」
そう話すと、どこから持ってきたのか、二人分の鎧がマネキンに着せてあった。アドの鎧は髪のような透き通る黒色にいくつかの緑色の筋が通っていて、異様な雰囲気を醸し出している、まさに重装である一方、俺の鎧はちなみに純白の鎧に金色の筋が書かれた、勇者と呼ぶにふさわしい外見をしている。しかもあまり重装備という訳ではなく、どちらかというと機動力に重きを置いたような形状をしている。
「すごいだろ!この鎧!色とかもちゃんと考えたんだぜ!しかも品質は超一級品。上位武器はもちろんのこと、アドの鎧には継続回復、アーサーのには耐久力上昇のバフが付与してある。すごいだろ!」
「ああ、すごいな。流石としか言いようがないな。」
「腕前だけは認めてあげるわ!」
心からの言葉である。
「お褒め頂き光栄だぜーちなみにその影の薄い奴は誰だ?」
タスクはこの会話中、ずっと隅っこで小さくなっていた。
最近気づいたのだが、タスクって相当な人間不信だ。
初対面の人にはほとんど何も喋らないし、根本的に人を信用していないようにしか思えない。
「ああ、こいつは俺たちのパーティの新しい仲間のタスクだ。」
「タ、タスクです。よろしくお願いします。」
いきなり噛んでしまっている。既に緊張しているようだ。
「タスクね。俺はウラン、アンデッドの鍛治師さ!」
「アンデッド?」
タスクは問いかけた。
「ああ、そっか今は人間の顔だもんな。」
と言うと、変装魔法を解除し、本来の白骨化した顔を露わにすると、
「アンデッドォー!」
とタスクはびっくり仰天している。
その勢いで盾を取り出し、臨戦態勢に入る。
「タスク、落ち着け。こいつは悪いアンデッドではないさ。」
「でも、アンデッドじゃないですか!」
「そうなんだけどな。」
そう言われてしまうと苦笑するしかない。ウランはアンデッドだが、決して悪いアンデッドではない。
その証拠に隙を見せても全く襲ってくる気配もない。しかも元人間らしいし、強固な自我もある。
理不尽な男だが、事実彼は敵ではないだろう。
「とにかく、こいつは仲間だ。だから、とりあえずその盾を仕舞ってくれよ。」
優しく諭すと、タスクは渋々納得してくれたようだ。
「で、今日こいつの大盾と鎧を買いたいんだが。」
「依頼じゃなくて購入と?」
ウランが興味深い様子で訊いた。
依頼とは、オーダーメードの武器を職人に作ってもらうことの一方で、購入はオーダーメード品ではない、鍛治師の力作の武器たちを購入すると言うことである。
「ああ、こいつに今すぐ新しい盾と防具が必要になりそうだからな。」
「そうか、分かった。いくつか良さそうなのを持ってくるからちょっと待っててくれや。」
そう言うと、変装魔法を再び発動させ、一度店頭へと戻っていった。数分が経過すると、
「すまんすまん!見つけるのに手間取っちゃったぜ。」
ウランの腕中には大きな青い盾と全身を覆う重そうな鎧があった。
「す、すごいですね!」
タスクは興奮気味に言った。
「お、わかるか!」
「はい!」
そんなウランとタスクの会話に俺たち二人はついていけていなかった。
(すごいってどういうことなんだ?)
どうやらウランは俺たちが首を傾げていることに気づいていたらしくて、親切に装備の説明をしてくれた。
「アーサー、アド、この装備一式は超級武具だ。」
超級武具。一国を代表するような冒険者しか購入できない程高価かつ協力な武器。
そんなものがここにあるとは…
「この装備は、俺が作ってきた装備の中で3番目の出来だ。元々はダイヤ冒険者の依頼で作ったものなんだが、そいつが武器の受け取りに来ないからよ、お蔵入りしてしまったやつなのよ。いつ売ろうか考えてたんだけどよ、それが今だろって思ったんだよ。」
「だからって超級武器を売るなんて!」
いつも落ち着いてるアドが驚いている。
「まあまあ、いいじゃないか。お得意様なんだしよ!お前の連れもこれを欲しがってるぜ?」
確かに買えるなら買いたいが、超級武器は値が張る。最低でも金貨5枚はするだろう。
金冒険者の武器一品無償化サービスを使っても金貨は最低でも5枚かかる。つまり、全財産の80%以上取られる。武具を片方無償化して、もう片方はまた今度ということになりそうだ。
「金額は?」
しかし一応値段は聞いておこう。
「無料だ。」
「ーッ?」
「ああその通り、二品で無料だ。」
「あんた正気なの?」
「ああ。」
「なんでだ。ウラン?」
「こいつらを打ったのは15年前だ。15年間一度も使われてねぇ。使ってあげたいんだよ、俺は。お前らがこいつを使ってくれるだけでお代は十分過ぎるんだぜ。」
ウランはタスクへと近づき、鎧と盾を渡した。
「タスクだっけ?お前にこの武具をやる。だからお前はこの二人を絶対に守れ。それが俺の求める唯一の条件だ。いいか?」
ウランが訊くと、タスクが力強く頷く。
「ウランさん、この武具の名前はなんですか?」
武具の名前ーそれは、
「蒼天だ。」
「蒼天…ウランさん!僕は必ずこの装備に見合う男になります!」
「よし、分かった。蒼天はお前のだ。思いっきり使ってやれ。」
「はい!」
男と男の熱い抱擁を見守っていると、頭の中にリナの声が響いた。
「アーサー様御一行。ギルドマスター様がお呼びです。至急ギルドまで来てください。」
ギルドの指輪を使った思念送信。緊急度の高い事項にしか使われないとリナが話していた。
使用されるのは緊急の依頼内容、国家転覆の危機などの時、もしくは戦争などの時らしい。
体が緊張感に包まれる。今すぐ行かなければ。
「ウラン、すまない。急用が出来た!アド、タスク、行くぞッ!」
「え、アーサーッ、ちょっー」
「アーサー、僕まだ会話中ー」
二人を強引に引っ張る。
「おい、アーサーまだ商談の途ー」
ウランが返事を終える前に俺は店を飛び出した。
ギルドへと全力で走る。
最初は文句を言っていた二人だが、緊張感を察したのか、アド達も黙って俺と並走している。
(一体ギルドで何が起こっているんだ?)
そんな疑問を胸にアーサーたちは走る。彼らの冒険が次の段階へと突入するとは知らずに。
応援ありがとうございます!
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