19 / 28
序章
記憶喪失、迷宮攻略へ。 その3
しおりを挟む
転移トラップに引っかかった俺とタスクは、王座の間のような階層に転移されてしまった。
「王座の間?一体ここは何層なんだ?」
「第10層だ、冒険者よ。」
低く、威圧的な声が俺の問いに答えてくれた。
甲高いタスクの声ではない。ならば一体誰の声なんだ?
王座の方を向くと、さっきまではいなかったゴブリンが王座に居座っていた。
そのゴブリンのたくましい体は白い鎧を身につけていて、その頭には豪華な宝石類が散りばめられた王冠が乗っている。どう見てもこの迷宮の主だろう。
「我が名はラタトスク。この迷宮の王である。勇気ある冒険者よ、ここがお前たちの墓だ。我らのために死ねッ!」
そう言い放つと、大量のゴブリンが地面から次々と出現していく。その数は最低でも数千匹だろう。
「いきなり戦闘かよ!タスク、俺から離れるな!」
タスクに身を寄せて、ゴブリンの波にお互い流されないようにする。この大量のゴブリン相手に分断されてしまったら、その時は死亡必至だ。
大量のゴブリン達が次々と死亡覚悟の攻撃を仕掛けてくる。
俺はその攻撃を次々と黒剣で捌いていき、タスクは防戦一方である。ただタスクは未だ無傷なのでまだ大丈夫だろう。
ゴブリンを次々と切っても攻撃の手が緩む気配がない。
ゴブリンの単体の攻撃力は非常に弱いのだが、群で襲ってくる場合は全く逆である。じわじわとダメージを与えられ、徐々に生命力を奪われていく。まさに雨垂れ石を穿つ。実際俺は攻撃を捌ききれなくなってきている。単体攻撃を主な戦闘手段としている以上、量にはめっぽう弱いのだ。シャルルの『隕石衝突』のような範囲攻撃魔法を「光聖」で再現することもできるが、正直言ってこんな近距離では発動できないし、意味を持たない。
不幸中の幸いというべきか、剣に付与された斬撃魔法が範囲攻撃だったので、どうにか捌けていたが、もう魔力が持たない。もう剣に魔力を込めて魔法を発動することは不可能だろう。
さっきまで膠着状態だった戦線は既にゴブリン達に傾きかけていた。
タスクはまだまだ耐久が可能だろうが、アーサーの限界は近かった。
持続的な交戦と魔力の消費によって、アーサーは疲弊しており、剣筋も単調になりかけていた。
先ほどまでなら命中度100%の斬撃もあまり当たらなくなってしまった。
それに加えて、アーサーはタスクから離れてしまっていた。
そして姑息なゴブリンがその変化に気づかない訳がなく、ゴブリン達はアーサーに集中攻撃を浴びせる。
タスクを襲っていたゴブリン達までアーサーへと向かい、とどめを刺そうとしていたのだ。
すなわちタスクは、ゴブリンに「こいつは雑魚だ」と思われてしまったのだ。
そして、急なゴブリンの加勢にアーサーはついていけなくなっていた。
ただただ剣を適当に振り回すだけ。弱小なゴブリンでもこれくらいなら避けれる。
ゴブリンは剣の隙を見計らい、アーサーの懐に潜り込んだ。そして手に握っていた短剣を振りかぶった。
この時タスクは自分の無力さに呆然としていた。
(あぁ。僕はまた大切な人を失うというのか。)
自身への嫌悪感を引き金に、タスクの古い記憶が呼び起こされるー
________________________________
タスクはキラの大森林手前の小さな村出身の孤児である。
タスクの父は行方不明、母はタスクの産後、死亡している。
生まれて数時間の内に孤独という非情な環境に生まれたタスクは、近隣の寺に養子として迎えられて過ごした。近くの寺の牧師が赤子の泣き声に気づき、見に行ってみると、雨の中、死んでいる母親に抱かれていたタスクが発見された。
牧師は最初は養子に入れるか迷ったらしい。
なぜならタスクには人間らしからぬ犬耳がついていたからである。
獣人は人間にとって忌み嫌われる魔物である。それによって養子に受け入れられた後も、タスクはいじめられていた。周りから獣人だからと避けられ、身体的と同時に精神的に虐げられる日々を学校で過ごした。
そんなタスクにとっての支えとなっていたのが、クラスメイトのジャンという赤髪の少女とリーベという茶髪の少年であった。この二人は唯一タスクに隔たりなく接してくれた人たちで、タスクにとってはとっても大切な友達だった。
彼らはお互いに大きな信頼を寄せており、仲間であった。どんなことをするときも一緒。昼飯を食べるときはもちろん、トイレへ行くときだってそうだった。そんな運命共同体の3人には夢があった。冒険者になることだった。3人で世界を回って、一緒に戦い、日常を過ごしたかった。
そんな彼らは18歳の時に王都への移住を決意し、村を離れた。
3人で夢の王都へ期待を膨らませながら向かい、3人揃って全貯金を叩いて冒険者となった。
この時3人は嬉しかった。もうずっと一緒だと。
しかしそんな甘い喜びは一瞬しか続かなかった。
王都到着翌日に迷宮攻略の依頼を受けたタスク一行はみんな装備万端で迷宮に突入した。
ジャンがヒーラー兼魔術師、リーベが前衛の騎士、タスクがタンクという役割をそれぞれ果たしていた。
みんなで第1層に入ると、突然数匹の魔物に襲われた。初戦闘だからどうなるかと思いきや、3人は見事な連携を取り、無事に魔物を一斉に倒した。しかしこの第一層は余裕で攻略できたものの、次の階層から急激に難易度が増していく。
第4層でのこと。
スケルトンアーチャが放った矢がタスクの腱の直撃して、動けなくなってしまったのだ。
「ごめんみんな。俺しくじったわ。」
「いいよいいよ、今日はとりあえず解散にしようか。」
ジャンが応え、すかさず治癒魔法をかける。
「いやいや、俺はここで待ってるから二人は進んでいいよ。」
「本当か?魔物に襲われたらどうするんだ?」
リーベが不安そうにこちらを見つめている。
「本当だって!俺は待っているから先行っててくれ。お前らならこんな迷宮なんて余裕だろう。」
「そんなに言うなら仕方ないわね。」
「そうだな。タスクも元気っぽいし、大丈夫だろうし。」
「じゃあそういうことで!俺はここで戦利品を待っているよ!」
「いつもどおりいやらしい奴だぜ!」
「そうね!」
みんなで一度大笑いをかますと、その二人は次の階層へと進んでいった。
二人共頑張れ。
そう応援をしつつ小さくなっていく二つの背中を見守った。
一時間後。
二人が次の階層へと進んでからタスクの時計で一時間が経過していた。
(もうそろそろリーベ達帰ってくるかな。)
そうやって胸を躍らしていた。
その数時間後。
この迷宮は難易度がかなり低く、新人冒険者が最初に挑む迷宮である。二人パーティのなってしまっているからちょっとは手こずっても、そろそろ帰ってきてもいい頃合いだ。
そろそろ帰還していい時間なのに、人の気配が全くしない。
おかしい。
念の為に再び数時間待っても、誰も来ない。
何かあったに違いない!
そう思ったタスクは足の痛みを我慢しつつ層を上がって行った。
第5、6、7階層には戦闘の跡、そしてそれに勝利した跡があったが。
第八層では信じられない光景が広がっていた。
リーベと見られる体は胴体しかない状態、ジャンは四肢がない状態で床に横たわっていた。
鮮血や内臓などが床にぶちまけられており、どう見ても食い荒らされたようにしか見えない。
「えっー」
嘘だろと思い二つの体へと近寄る。
ものすごく生臭い匂いに吐き気がする。服装を確認したところ、確かに今日二人が着ていたものだ。
いや信じない。銀冒険者がこんなに簡単に死ぬはずがない。
リーベにはへその少し右にほくろがある。ジャンの頭には長い切り傷がある。
もしこの二つが無かったら似ている人なだけだ。
手が震えながら二人の体を確認していくと、確かにほくろと切り傷が見つかった。
(ということは二人は死ッー)
「オォエェエエッ」
その事実に気づくと無意識に吐いていた。
吐いた物の中には昨日一緒に食べた魚の焼き身の断片が所々見られる。
(ジャン…リーベ…)
その時初めて事実を受け止めた。
あの二人は魔物に殺されたのだ。
もう二人はいない。
自分の唯一の支えはいない。
なんでこんなことになったんだ?
(あ、思い出した。)
自分が弱いせいだ。
________________________________
俺が負傷していなければ守れたのに。
我慢して進んでいれば生きていたかもしれないのに。
もう弱いのは嫌だ。
強さが欲しい。もう何も失いたくない。
大切なものを守れる力が欲しい。
その苦い記憶と現在のアーサーが重なり合い、強い力の欲求がタスクの中で生まれていた。
アーサーを救いたい。俺にチャンスをくれたアーサーに報いたい。使えない俺でもパーティに入れてくれた恩返しをしたい。
そんな強い思いに共鳴するように、タスクの中で何かが蠢く。
その蠢きはどんどん強くなっていき、タスクに力を与える。
(これが俺の新たな力?)
タスクは体に溢れる力の鼓動を解放する。
『逆転ッ!』
そうタスクは叫ぶと、切られそうになっていたアーサーの位置とタスクの位置が逆転していた。
急な瞬間移動に流石のゴブリンも怯んだのが、隙だらけだ。そして、その隙を見逃すようなタスクではない。
『逆襲ッ!』
そう唱えると、タスクの大盾は光り輝き、全方向に光線を放った。
その光線は次々とゴブリンたちを塵にしていく。
「なっー!お前いつの間に攻撃できるようにーまあいいや。今はとりあえず戦うぞ!」
そうアーサーが驚きつつも態勢を立て直す。
「はい!」
この戦いの中で、タスクの力への欲求が頂点を迎えたことで、彼には新たな個人スキル『守護者』が覚醒していたのだ。その能力は主に二つ。『逆襲』と、『逆転』である。『逆襲』とは、盾に蓄積されたダメージを反転させて逆に相手に返しただけなのである。また『逆転』は有機物、無機物関わらず位置関係を逆転させるという物である。それ以外にも壁の錬成などの能力をタスクは得ていた。
これによって、タスクはある意味の攻撃手段を入手したのだ。
数十秒経たないうちにゴブリンは全滅し、残るは迷宮の主ラタトスクのみ出会った。
こいつには理性がある以上、相当な実力者だと確定している。
覚醒したタスク&対人戦最強のアーサーvs理性を持つゴブリン王ラタトスク、
迷宮攻略は最終局面を迎えようとしていた。
「王座の間?一体ここは何層なんだ?」
「第10層だ、冒険者よ。」
低く、威圧的な声が俺の問いに答えてくれた。
甲高いタスクの声ではない。ならば一体誰の声なんだ?
王座の方を向くと、さっきまではいなかったゴブリンが王座に居座っていた。
そのゴブリンのたくましい体は白い鎧を身につけていて、その頭には豪華な宝石類が散りばめられた王冠が乗っている。どう見てもこの迷宮の主だろう。
「我が名はラタトスク。この迷宮の王である。勇気ある冒険者よ、ここがお前たちの墓だ。我らのために死ねッ!」
そう言い放つと、大量のゴブリンが地面から次々と出現していく。その数は最低でも数千匹だろう。
「いきなり戦闘かよ!タスク、俺から離れるな!」
タスクに身を寄せて、ゴブリンの波にお互い流されないようにする。この大量のゴブリン相手に分断されてしまったら、その時は死亡必至だ。
大量のゴブリン達が次々と死亡覚悟の攻撃を仕掛けてくる。
俺はその攻撃を次々と黒剣で捌いていき、タスクは防戦一方である。ただタスクは未だ無傷なのでまだ大丈夫だろう。
ゴブリンを次々と切っても攻撃の手が緩む気配がない。
ゴブリンの単体の攻撃力は非常に弱いのだが、群で襲ってくる場合は全く逆である。じわじわとダメージを与えられ、徐々に生命力を奪われていく。まさに雨垂れ石を穿つ。実際俺は攻撃を捌ききれなくなってきている。単体攻撃を主な戦闘手段としている以上、量にはめっぽう弱いのだ。シャルルの『隕石衝突』のような範囲攻撃魔法を「光聖」で再現することもできるが、正直言ってこんな近距離では発動できないし、意味を持たない。
不幸中の幸いというべきか、剣に付与された斬撃魔法が範囲攻撃だったので、どうにか捌けていたが、もう魔力が持たない。もう剣に魔力を込めて魔法を発動することは不可能だろう。
さっきまで膠着状態だった戦線は既にゴブリン達に傾きかけていた。
タスクはまだまだ耐久が可能だろうが、アーサーの限界は近かった。
持続的な交戦と魔力の消費によって、アーサーは疲弊しており、剣筋も単調になりかけていた。
先ほどまでなら命中度100%の斬撃もあまり当たらなくなってしまった。
それに加えて、アーサーはタスクから離れてしまっていた。
そして姑息なゴブリンがその変化に気づかない訳がなく、ゴブリン達はアーサーに集中攻撃を浴びせる。
タスクを襲っていたゴブリン達までアーサーへと向かい、とどめを刺そうとしていたのだ。
すなわちタスクは、ゴブリンに「こいつは雑魚だ」と思われてしまったのだ。
そして、急なゴブリンの加勢にアーサーはついていけなくなっていた。
ただただ剣を適当に振り回すだけ。弱小なゴブリンでもこれくらいなら避けれる。
ゴブリンは剣の隙を見計らい、アーサーの懐に潜り込んだ。そして手に握っていた短剣を振りかぶった。
この時タスクは自分の無力さに呆然としていた。
(あぁ。僕はまた大切な人を失うというのか。)
自身への嫌悪感を引き金に、タスクの古い記憶が呼び起こされるー
________________________________
タスクはキラの大森林手前の小さな村出身の孤児である。
タスクの父は行方不明、母はタスクの産後、死亡している。
生まれて数時間の内に孤独という非情な環境に生まれたタスクは、近隣の寺に養子として迎えられて過ごした。近くの寺の牧師が赤子の泣き声に気づき、見に行ってみると、雨の中、死んでいる母親に抱かれていたタスクが発見された。
牧師は最初は養子に入れるか迷ったらしい。
なぜならタスクには人間らしからぬ犬耳がついていたからである。
獣人は人間にとって忌み嫌われる魔物である。それによって養子に受け入れられた後も、タスクはいじめられていた。周りから獣人だからと避けられ、身体的と同時に精神的に虐げられる日々を学校で過ごした。
そんなタスクにとっての支えとなっていたのが、クラスメイトのジャンという赤髪の少女とリーベという茶髪の少年であった。この二人は唯一タスクに隔たりなく接してくれた人たちで、タスクにとってはとっても大切な友達だった。
彼らはお互いに大きな信頼を寄せており、仲間であった。どんなことをするときも一緒。昼飯を食べるときはもちろん、トイレへ行くときだってそうだった。そんな運命共同体の3人には夢があった。冒険者になることだった。3人で世界を回って、一緒に戦い、日常を過ごしたかった。
そんな彼らは18歳の時に王都への移住を決意し、村を離れた。
3人で夢の王都へ期待を膨らませながら向かい、3人揃って全貯金を叩いて冒険者となった。
この時3人は嬉しかった。もうずっと一緒だと。
しかしそんな甘い喜びは一瞬しか続かなかった。
王都到着翌日に迷宮攻略の依頼を受けたタスク一行はみんな装備万端で迷宮に突入した。
ジャンがヒーラー兼魔術師、リーベが前衛の騎士、タスクがタンクという役割をそれぞれ果たしていた。
みんなで第1層に入ると、突然数匹の魔物に襲われた。初戦闘だからどうなるかと思いきや、3人は見事な連携を取り、無事に魔物を一斉に倒した。しかしこの第一層は余裕で攻略できたものの、次の階層から急激に難易度が増していく。
第4層でのこと。
スケルトンアーチャが放った矢がタスクの腱の直撃して、動けなくなってしまったのだ。
「ごめんみんな。俺しくじったわ。」
「いいよいいよ、今日はとりあえず解散にしようか。」
ジャンが応え、すかさず治癒魔法をかける。
「いやいや、俺はここで待ってるから二人は進んでいいよ。」
「本当か?魔物に襲われたらどうするんだ?」
リーベが不安そうにこちらを見つめている。
「本当だって!俺は待っているから先行っててくれ。お前らならこんな迷宮なんて余裕だろう。」
「そんなに言うなら仕方ないわね。」
「そうだな。タスクも元気っぽいし、大丈夫だろうし。」
「じゃあそういうことで!俺はここで戦利品を待っているよ!」
「いつもどおりいやらしい奴だぜ!」
「そうね!」
みんなで一度大笑いをかますと、その二人は次の階層へと進んでいった。
二人共頑張れ。
そう応援をしつつ小さくなっていく二つの背中を見守った。
一時間後。
二人が次の階層へと進んでからタスクの時計で一時間が経過していた。
(もうそろそろリーベ達帰ってくるかな。)
そうやって胸を躍らしていた。
その数時間後。
この迷宮は難易度がかなり低く、新人冒険者が最初に挑む迷宮である。二人パーティのなってしまっているからちょっとは手こずっても、そろそろ帰ってきてもいい頃合いだ。
そろそろ帰還していい時間なのに、人の気配が全くしない。
おかしい。
念の為に再び数時間待っても、誰も来ない。
何かあったに違いない!
そう思ったタスクは足の痛みを我慢しつつ層を上がって行った。
第5、6、7階層には戦闘の跡、そしてそれに勝利した跡があったが。
第八層では信じられない光景が広がっていた。
リーベと見られる体は胴体しかない状態、ジャンは四肢がない状態で床に横たわっていた。
鮮血や内臓などが床にぶちまけられており、どう見ても食い荒らされたようにしか見えない。
「えっー」
嘘だろと思い二つの体へと近寄る。
ものすごく生臭い匂いに吐き気がする。服装を確認したところ、確かに今日二人が着ていたものだ。
いや信じない。銀冒険者がこんなに簡単に死ぬはずがない。
リーベにはへその少し右にほくろがある。ジャンの頭には長い切り傷がある。
もしこの二つが無かったら似ている人なだけだ。
手が震えながら二人の体を確認していくと、確かにほくろと切り傷が見つかった。
(ということは二人は死ッー)
「オォエェエエッ」
その事実に気づくと無意識に吐いていた。
吐いた物の中には昨日一緒に食べた魚の焼き身の断片が所々見られる。
(ジャン…リーベ…)
その時初めて事実を受け止めた。
あの二人は魔物に殺されたのだ。
もう二人はいない。
自分の唯一の支えはいない。
なんでこんなことになったんだ?
(あ、思い出した。)
自分が弱いせいだ。
________________________________
俺が負傷していなければ守れたのに。
我慢して進んでいれば生きていたかもしれないのに。
もう弱いのは嫌だ。
強さが欲しい。もう何も失いたくない。
大切なものを守れる力が欲しい。
その苦い記憶と現在のアーサーが重なり合い、強い力の欲求がタスクの中で生まれていた。
アーサーを救いたい。俺にチャンスをくれたアーサーに報いたい。使えない俺でもパーティに入れてくれた恩返しをしたい。
そんな強い思いに共鳴するように、タスクの中で何かが蠢く。
その蠢きはどんどん強くなっていき、タスクに力を与える。
(これが俺の新たな力?)
タスクは体に溢れる力の鼓動を解放する。
『逆転ッ!』
そうタスクは叫ぶと、切られそうになっていたアーサーの位置とタスクの位置が逆転していた。
急な瞬間移動に流石のゴブリンも怯んだのが、隙だらけだ。そして、その隙を見逃すようなタスクではない。
『逆襲ッ!』
そう唱えると、タスクの大盾は光り輝き、全方向に光線を放った。
その光線は次々とゴブリンたちを塵にしていく。
「なっー!お前いつの間に攻撃できるようにーまあいいや。今はとりあえず戦うぞ!」
そうアーサーが驚きつつも態勢を立て直す。
「はい!」
この戦いの中で、タスクの力への欲求が頂点を迎えたことで、彼には新たな個人スキル『守護者』が覚醒していたのだ。その能力は主に二つ。『逆襲』と、『逆転』である。『逆襲』とは、盾に蓄積されたダメージを反転させて逆に相手に返しただけなのである。また『逆転』は有機物、無機物関わらず位置関係を逆転させるという物である。それ以外にも壁の錬成などの能力をタスクは得ていた。
これによって、タスクはある意味の攻撃手段を入手したのだ。
数十秒経たないうちにゴブリンは全滅し、残るは迷宮の主ラタトスクのみ出会った。
こいつには理性がある以上、相当な実力者だと確定している。
覚醒したタスク&対人戦最強のアーサーvs理性を持つゴブリン王ラタトスク、
迷宮攻略は最終局面を迎えようとしていた。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活
ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。
「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。
現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。
ゆっくり更新です。はじめての投稿です。
誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。
虐げられ令嬢の最後のチャンス〜今度こそ幸せになりたい
みおな
恋愛
何度生まれ変わっても、私の未来には死しかない。
死んで異世界転生したら、旦那に虐げられる侯爵夫人だった。
死んだ後、再び転生を果たしたら、今度は親に虐げられる伯爵令嬢だった。
三度目は、婚約者に婚約破棄された挙句に国外追放され夜盗に殺される公爵令嬢。
四度目は、聖女だと偽ったと冤罪をかけられ処刑される平民。
さすがにもう許せないと神様に猛抗議しました。
こんな結末しかない転生なら、もう転生しなくていいとまで言いました。
こんな転生なら、いっそ亀の方が何倍もいいくらいです。
私の怒りに、神様は言いました。
次こそは誰にも虐げられない未来を、とー
異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)
ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。
流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定!
剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。
せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!?
オマケに最後の最後にまたもや神様がミス!
世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に
なっちゃって!?
規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。
……路上生活、そろそろやめたいと思います。
異世界転生わくわくしてたけど
ちょっとだけ神様恨みそう。
脱路上生活!がしたかっただけなのに
なんで無双してるんだ私???
記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される
マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。
そこで木の影で眠る幼女を見つけた。
自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。
実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。
・初のファンタジー物です
・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います
・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯
どうか温かく見守ってください♪
☆感謝☆
HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯
そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。
本当にありがとうございます!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる