イクメンパパの異世界冒険譚〜異世界で育児は無理がある

或真

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第一章

死亡

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 冬の山は恐ろしい。温度は氷点下五十度にも達し、強力な魔獣も獲物を求めて徘徊する。冬の山を踏破するには、白銀ランクパーティでも少なくとも1週間はかかる。エリエ山脈も決して例外ではない。

 そんな山を一日で降るなど無謀そのもの。それは当たり前であり、彼自身も自覚していた。

 降り始めてから数時間。休憩なしで吹雪が荒れ狂うエリエ山脈を降っていた。彼の体は冷え切り、所々氷柱が生えていた。自身の子を必死に温めながら、足を止めずに進み続けていた。

 彼は自身の四肢の感覚を失い、もはや自我さえも危うい状況であった。彼の唯一の助けは脳内に堂々と響く、低音の声のみ。

『ユウマ!意識を確かに持て!あと少しだ!きっとあと少しだ!』

 あと少しってどんくらいだよ……

 魔力も枯渇し、頼れるのは自身の足のみ。赤子の体調は悪化する一方。自身の体力もそろそろ限界を迎えそう。

 いや、限界はゆうに越していた。限界を突破してなお走り続けた。さっきまで一歩一歩に宿っていた力はもう消え、フラフラとした一歩を歩むだけだった。

 雪は更に降り積もり、足に絡まる。体力を更に奪いにかかる。

 ああ、俺ってここで死ぬのかな?

 アグラは?コユキちゃんは?皆死んじゃったかな?

 恵?目の前に恵らしき人物が姿を現す。いや違う。ただの幻想だ。走馬灯ってやつか。

 そろそろ終わりは近い。一歩一歩が更に弱々しく、子鹿のようにガクガクと震え出す。

『おい!ユウマよ!しっかりしろ!』

 ああ、だめだ。

『ユウマ!だめだ!ここで倒れたら!』

 すまない恵。俺、またやらかしちゃったよ。

『ユウマ!立てよ!ユウマー』

 消えゆく意識の中、神威の声が最後まで騒がしく脳内に響く。

 れいちゃんー

 そう思考を巡らせた瞬間、彼はついに歩みを止め、倒れた。

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