イクメンパパの異世界冒険譚〜異世界で育児は無理がある

或真

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第一章

ギルド飯

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 不幸中の幸いというべきか、襲撃された地点は王都からあまり離れていなかったので、徒歩でも数時間で着いた。ただそれでも王都に着いた頃には空は真っ暗だった。

 10キロくらい歩いたから、もう足がクタクタだ。どれだけレベルアップしても、疲労からは逃れられないようだ。

 だがまあ、野宿にならずに済んだから万事オッケーだ。

「いやぁもう真っ暗ですね。」

 日が沈みきった空を見つめながらダニェさんが呟く。

「そうですね。あれだけ歩いたら流石にお腹が空きますね。」

 そう言うと同時にれいちゃんのお腹がグルグルと鳴る。どうやられいちゃんも同じ旨のようだな。

「確かにお腹が空きましたね。なら、一緒にギルドの酒場で飲みませんか?」

 ギルドの酒場か。行ったことはないけど、確か安くて美味いってよく耳にしたな。何なら、ギルドの飯目当てで冒険者になるひとも居るとか。

 ギルド飯、気になる。

 それに、ついでに報酬金も受け取れるしな。せっかくだし、お誘いに応じさせてもらう事にしよう。

「いいですね。一度行ってみたかったんですよ。」

「本当ですか!なら早速行きましょう!」

 ダニェさんはそう言うと、足早にギルドへと向かう。よほど夕飯が楽しみなのだろうか、ダニェさんはまるで子供のような無邪気な笑顔を見せていた。

***

 朝や昼では閑散としていたギルドの酒場は、大勢の冒険者で賑わっていた。各々はしゃぎまくり、まるで宴会のような雰囲気を醸し出していた。後に聞いた話によると、酒は夜にならないと出ないため、朝昼は空いているらしい。

 俺たちが端の方のテーブル席に着席すると、女性の店員さんがメニューとお冷やを持ってきた。驚くことにその店員さんは胸元が大きく開いた衣装、ドイツのディアンドルによく似た服装を纏っていた。

 そもそもの話、異世界の女性は美女、それに巨乳の方がほとんどだ。そんな巨乳美女がディアンドルなどという胸元を際立たせる衣装を着ていたら……

 男なら耐えられないよ。その証拠に、ダニェさんの視線はちょこちょこ店員さんの胸元へとシフトしていた。

 あのダニェさんでも、胸の誘惑には耐えられないようだ……

 俺も見たくない訳ではない。だが、俺には恵という美しい妻が居る。妻のことを裏切る行為は出来ない。その一心で視線を渡されたメニューへと必死にずらしていた。

 落ち着け、俺。胸のことはまず忘れよう。そのためにはまずメニューに集中しよう。

 メニューの中でまず驚いたのは、その値段だ。銅貨二枚以内でほとんどの料理が食べられる。そして次に驚いたのは、その品数だ。ざっと数えただけで200品。こりゃ悩んじゃうな。しかもメニューには、離乳食までもがあった。

 ギルド飯、偉大なり……

 れいちゃんにはほろほろ野菜のシチューを、自分にはビッグピッグのステーキとエール一杯を。アグラは、「肉と酒なら何でもいい」と言ってたので俺と同じにしといた。

 ダニェさんはレッドバードの照り焼きとワインを頼んでいた。

 注文内容を店員さんに伝えると、「かしこまりました!」と元気良く返事して、足早に去って行った。この賑わいようだと、やっぱり忙しいのだろうな。

 俺は店員さんを後ろ目にお冷やを一口飲み、息を整える。さて、まずずっと気になっていたことから聞こうか。

「ダニェさん、なんでコユキちゃんがここに居るんですか?」

 ダニェさんを襲撃した張本人がのこのこと食事を一緒に取ろうとしている状況に、俺は混乱していた。

「ああ、お腹が減ったって言ってたのでつい。」

 「つい」じゃないんだよおい。流石に襲撃した張本人を同じ空間に置くのは警戒心なさすぎるだろ。

「コユキはこのステーキがいい。」

「ならこれも頼もうか。すみませんー」

 ダニェさんは当たり前のようにコユキちゃんの分のステーキを頼む。店員さんに注文を告げると、満足した様子で隣のコユキちゃんへと微笑みかけた。

 器が広いのか、単なる馬鹿なのか……バンさんといい、ガーレンさんといい、異世界のおじさんは個性が強すぎるだろ。

「あぅあぅ……」

 どんまいと言わんばかりに、れいちゃんは俺の背中をさする。この大変さが分かるか、れいちゃんよぉ。

 そうやって悩んでいる内に、さっきの店員さんが料理を運んできた。

「お待たせしました!ビッグピッグのステーキです!」

 熱々の鉄板の上でジュージューと音を立て、肉汁をあふれさせるステーキはまさに絶品だった。ステーキを一切れ口に運ぶと、肉の旨味が口の中で広がる。やはり焼きたての肉は最高だ。

 アグラも美味しさのあまり、プルプルと震えて悶絶していた。

「あぅあぅ!」

 おっと、れいちゃんも食べたいよな。ただ、このステーキはちょっとダメだから、野菜シチューで我慢してくれ。

 俺は野菜シチューを一口分スプーンで掬い、れいちゃんに食べさせる。するとれいちゃんは「あぃ!」と嬉しそうに声をあげ、おかわりをくれと言わんばかりに大口を開ける。

「はい、もう一口。あーんしてねー」

 もう一口分のシチューをれいちゃんに食べさせると、れいちゃんはまたもや「あぃ!」と返事をして大口を開けた。

 なんだろう、この小動物みたいな可愛さは……

 その後は淡々と食事をし、あっという間に各々完食していた。ダニェさんも、大きな笑顔でワインを啜りながら腹を撫でている。相当美味かったみたいだな。

 さて、後は会計。元々は各々の分を払うつもりでいたんだけど、ダニェさんが「命を救って下さったのですから、これくらいは私が」と言って奢ってくれた。ダニェさん本当に様様だ。

「ダニェさん、ありがとうございました。」

「いえいえ!これくらいお安い御用ですよ!いつかまた依頼があったら、その時もまたよろしくお願いします。」

「はい!何か困ったことがあれば何なりと依頼してください!すぐ駆けつけますので。」

「ハハッ、それは頼もしい。是非ともその時お願いしますね。では、またいつか。」

 ダニェさんはそう言い残すと、手を振りながらギルドを去っていった。ダニェさんの背中が見えなくなるまで見送った後、俺たちは依頼の報酬金を受け取りに、ギルドの受付に戻った。

 依頼達成確認は既に取れているらしく、依頼の報酬金はすぐに支払われた。その金額金貨百枚。一気に大富豪になった気分だ。

 ざっと金貨を数えると……うん、支払われた金額に間違いはない。金貨が入った麻袋を持ってギルドを去ろうとしたその瞬間ー

「ユウマ様、ガーレンさんからの手紙を預かっております。」

 と受付嬢が一枚の手紙を俺に渡してくる。封紙には、確かに「ユウマ殿へ」と几帳面な字で書かれている。

 俺はその場で封紙を破き、中の手紙本文を読み上げる。

『ユウマ殿へ。三日後の明け方にギルドへ立ち寄ってください。機密事項なので、当日説明させて頂きます。P.S.武器やポーションなどの装備は携帯してください。』

 三日後の明け方?機密事項?一体どういうことなんだ?不気味だな。機密事項という言葉が引っかかっていたが、一旦そのもどかしさを捨て、まずは宿を探すことにした。俺は手紙を四つ折りにしてポケットに仕舞うと、早足でギルドを出た。

 今日はもう遅いし、また明日考えればいいっか。
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