イクメンパパの異世界冒険譚〜異世界で育児は無理がある

或真

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第一章

親子

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 力尽きたドラゴニュートの女をアグラは縄で縛ると、気絶した兵士やダニェさんたちを起こしていく。もちろんれいちゃんは起こしていない。

「それにしても、なんでこの女を縛ったんだ?死んでるんだろ?」

 鎮火はしたものの、身体中黒焦げだし、生きているとは思えない。なのに縛るって、まさか死後も動くのか?

「いや、瀕死。一応生かしておいてる。ドラゴンの爪を狙ってる黒幕がいるかもしれないしな。」

「黒幕?そんなのいるのか?」

「まあ、確証はないけど、いるって考えておいた方が良い。情報を聞き出すのはどちらみち必須だろ?」

 そんな会話をしているうちにやっと体の痺れが消えて、体の自由が効くようになった。俺はポーションを飲みながらアグラに問う。

「で、この女どうするんだ?」

「まあ、とりあえず拷問でもしてみるか。おい、まずポーションをくれ。」

 俺はアグラの要望通り、ポーションを渡す。彼女はポーションをがぶ飲みすると、ドラゴニュートの女を強く揺さぶる。

「おーい、起きろよ!」

「んっ、何?」

「『何?』じゃねぇよ!てめぇ何者だ!」

「私?私はコユキよ。」

「聞きたいのは名前じゃねぇよ!」

「それよりポーション頂戴。体痛い。」

「敵にポーションを渡す馬鹿がいるか!」

「敵?まあ、とりあえずポーションちょうだいよ。」

 コユキはアグラの話を聞かずにポーションを寄越せと駄々をこね続ける。そして極めつけには泣き出してしまった。

「ヤダァ……グスン……誰かぁ……グスン……」

 さて、こりゃあどうしたものかな。このコユキ?っていう名前のこのドラゴニュートはアグラ以上のマイペースっぽいし。

「ユウマ殿」

 俺がどうするか悩んでいると、ダニェさんに話しかけられる。

「ああ、ダニェさん。どうしたんですか?」

「実は、この子と少し話してみたいんですけど、いいですかね?」

「え、でも危ないですよ!」

「承知の上ですよ。それに、彼女に敵意はないですから。」

「え、ってダニェさん!」

 ダニェさんはそう告げると、縄で縛られているコユキの前へと立ち、膝を落とす。

「ねぇ、君。名前は?」

「コ、コユキ。」

「コユキちゃんか。いい名前だね。」

「おじちゃんは?」

「おじちゃんはダニェって言うんだ。」

「ダニェおじちゃん?」

「ああ。さて、コユキちゃんはなんで僕らを襲ったのかな?」

「ドラゴンの爪」

「ドラゴンの爪が欲しかったのか?」

「いや。お父さん。」

 そう言ってコユキはドラゴンの爪を拘束された腕で指差す。その様子を見てダニェさんは不思議そうな顔をする。

「お父さんかい?」

「うん。」

「この爪がかい?」

「うん。お父さんの形見。返して欲しいから襲った。」

「そうか。なら返さないとな。」

「って!ダニェさん!それ国宝ですよね!いいんですか!?」

 俺が思わず叫ぶとダニェさんは優しく笑ってこう言う。

「国宝は本来の持ち主に返すべきですからね。私たちよりもコユキちゃんにとっての方がこの爪に意味があると思いますし。」

 待てよ。ドラゴンの爪を渡しちゃったら、依頼失敗扱いになるんじゃないか?確か依頼内容はダニェさんとドラゴンの爪の護衛。つまりドラゴンの爪を渡しちゃったら、爪の護衛失敗=報酬金も水の泡になりかねない。

 それだけはなんとしても阻止しなければ。

「でもダニェさん、国にはどう説明するんですか?『大切な国宝をあげちゃった』って説明する訳にはいかないですよね……」

「まあ、ちょっと面倒臭いですけどどうにかしますよ!」

 ダニェさんはそう言って笑う。いやいや、本当にどうにかなるのか?

「ユウマ殿、ちゃんと依頼金は払いますので、安心してください。」

「そ、そうですか……」

 うっ、見透かされてた……恥ずかしいな。ただ、これで博物館まで爪を輸送する必要もなくなった訳なんだよね。

 じゃあ俺、帰っていいかな。報酬の支払いはギルドで行われるから、俺たちがここにいる必要ないからさ。

 そのためにも、まずはこの結界を解いてもらいたいな。

「ダニェさん、まずはこの結界を解いてもらいましょう。」

「そうですね。この結界があってはどうしようもないですしね。コユキちゃん、この結界を解いてもらえないかな?」

「ダニェおじちゃんがそう言うならいいよ!」

 完全にダニェさんに手懐けられたコユキちゃんは淡々と結界を解除する。これが人生経験の違いってやつか。

 まさに別格だぜ。

 結界が解かれ、外界が顕になるとほとんど時間経過はなく、未だに日が照っていた。どうやらこの結界には時間停止の効果があるようだった。

「さて、結界も解かれましたし帰りますか。」

 清々しい笑顔を見せてダニェさんはそう呟いた。どうやら本当にこれで解散のようだ。ただ、馬車は襲撃によって所々破損しており王都までは徒歩で戻ることになった。

 結局アグラとダニェさんの大活躍で終わりか。俺、何もしてないじゃん……これじゃあ名だけ勇者じゃないかよ。

『まぁそう落胆するな。お前に出来たことはほとんど無かったさ。』

 神威の声が頭の中に突然響く。なんか、ムカつくな。この上から目線が何とも言えない苛立ちを生む……

『わ、我はただ慰めようとしただけじゃないか……』

 そうなんだけど、神威はいつも煽ってくるから何でも煽りに聞こえちゃうんだよね。

『さっきまで帰りたいって言ってたくせに何悲劇のヒロインぶってんだよ……』

 神威がブツブツ愚痴り出したのは無視するとして、俺はれいちゃんをそろそろ起こさないといけない。戦闘開始時からぐっすりと寝ていたれいちゃんは起きる気配を見せず、未だにスヤスヤ眠っている。

 寝顔が可愛いな。思わずほっぺをツンツンしちゃったよ。しかしれいちゃんはツンツンがあまり気に入らなかったようで、『あぅ!』と嫌がっていた。

 れいちゃん、反抗期はまだダメだよ。

「おーい、ユウマ早く行くぞ!」

 おっと、どうやらそろそろ出発のようだ。アグラが早くしろとジェスチャーしている。

 はぁ。れいちゃんともうちょっと戯れていたかったけどダニェさんを待たせる訳にはいかないし、渋々れいちゃんを起こすことにした。

「おーい、れいちゃんー」

 スヤスヤ。

「おーい!れいちゃんー!」

 スヤスヤ。

 小さな体を揺らしても全く起きる気配がしない。逆にいびきをかき始め、更に深い睡眠へと突入した。

 起こすのを諦めた俺は急いでれいちゃんを抱きかかえ、抱っこしてアグラの元へと向かった。まだ完全に癒えてない体にれいちゃんの体重は中々辛く、身体中がズキズキ痛んだ。

 はぁ、父親も中々大変だな。

 れいちゃんの護衛だけではなく、育児の一端もアグラに任せようと俺は決意したのだった。
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