イクメンパパの異世界冒険譚〜異世界で育児は無理がある

或真

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第一章

閉幕

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「あの姿、一体なんなんだよ!」

 観客は変貌したオーウェンの姿を見て叫び声を上げる。そんな混乱の中でも、俺は非常に集中、そして落ち着いていた。

『お主、アレとやる気か?』

 心配そうに神威が聞く。

 神威らしくないな、そんな弱音を吐いて。いつもの威勢はどこに行ったんだ?

『だが、我一人では勝てるか怪しいぞ!』

 もちろんそれは重々承知だ。でも今は神威だけではなく、魔剣ディアボロスもある。二つ共揃えば、負ける気がしない。

 俺は改めて武器を構える。二刀流なんてぶっつけ本番でやることではないが、今更弱音を吐いてられない。

「この姿になって尚向かってくるか。君は大した男だよ、ユウマ。」

「そろそろお喋りはやめて、戦いません?先輩の病み話にも正直うんざりでしたし。」

「ふっ、口だけは達者みたいだな」

「口だけはどちらの方かな!」

 そう俺が言い放つと同時に、オーウェンが間合いを詰めてくる。まるで悪魔のように変貌した体が生み出す瞬発力と速度は伊達ではなく、一瞬で距離を詰められた。

 そしてその巨体から放たれる打撃は武王の一撃よりも重い。

「俺の一撃を受け止めきれるかな?」

 オーウェンはそう挑発しながら、俺を殴りつける。その一撃は、スキル『反撃』の防御を悠々と破壊し、俺に直撃する。

 俺は咄嗟に剣で受け止めるが、勢い良く吹っ飛ばされる。

 そしてオーウェンは復帰する暇を与えるかと言わんばかりに、吹っ飛ばされた俺を追撃する。この用心深さは流石冒険者と言うべきなのだろうけど、まだこの一戦がルールの上に成り立っていると思ったら、大間違いだ。

「ー雷魔法!」

 そう唱えると、オーウェンの体を眩い一閃が貫いた。あまりダメージはなさそうだったけど、オーウェンを怯ませたことで、一度距離を取る隙ができた。

 一度距離をとって、状況を整理する。まず手始めに鑑定してみるか。

個体名:オーウェン
職業:冒険者
レベル:??

体力:5290
攻撃力:4677
魔力:1202
防御力:6584
俊敏性:1267

スキル:??

 って体力化け物じゃないかよ。防御力も6000越えだし、ダメージを入れるにも苦労しそうだ。攻撃力も俺より多分上だし、正直言って何回オーウェンの攻撃に耐えられるか分からない。

 耐えられて五発といったところかな。

 さて、雷魔法の感電も切れたみたいだし、戦闘再開か。

『あいつ、何か様子がおかしくないか?』

 ゆっくり立ち上がるオーウェンを見て神威が発言する。

 確かに、そう言われてみるとーさっきと違って息が荒いというか、まるで猛獣というか。終いにはヨダレを垂らしているし。

「コロスッ!ゼンイン!」

 そう言い放つと、オーウェンは人とは思えない程けたたましい咆哮をあげる。もはやオーウェンは人でない何かであるように思えた。

「おいオーウェン大丈夫か?」

「ダイジョウブ?オーウェン?コロス!」

 ダメだ、こりゃもう理性が吹っ飛んでる。何の歯止めも効かないやつーってそれ、不味くないか。理性がないってことは、観戦者にも容赦無く攻撃するのでは?

 そう危惧した俺は、オーウェンを仕留めるべく動いたが、時既に遅し。オーウェンは観客に向かって走り出していた。

「ちょっーやば!」

『これはまずいぞ!』

 だが俺より幾分か早いオーウェンに追いつく術はなく、万事休すと諦めかけたその瞬間。
天空に大きな魔法陣が描かれ、そこから巨大な氷河がオーウェンの頭上に落下した。

「この魔法はー」

「ユウマ様、観客席は私たちに任せてください。」
「あぅ!」

「バンさん!れいちゃん!」

「ここは私たちがどうにかします。ユウマ様はあいつを止めてください!」

「分かりました!」

 観客の避難と保護を二人に任せると、俺はオーウェンの元へと急ぐ。オーウェンに近づくにつれ、唸り声がより鮮明になっていく。

「おいオーウェン!俺が相手だ!来い!」

「ユウマァ!ミツケタァ!」

 俺を視界に捉えるや否や、オーウェンは俺に殴りかかってくる。凶暴化しているからか、攻撃のパターンが単調になっている。

 おかげで避けられてはいるが、依然俺は劣勢。

 こうなったら狙うべきは一撃必殺。もはや、オーウェンを殺さなければいけないかもしれない。だがどうやって……

『おいユウマ!』

 何だよこんな緊急事態に!オーウェンの打撃を流すだけでも大変なのに。

『我に提案がある。』

 提案?

『うむ。我神威流剣術の奥義を使えば、奴を仕留めきれるかもしれない。』

 って奥義?そんなのあれば早く言ってくれよ!

『言っても良かったのだが、この技はリスクが高い。奥義を使ったら最後、不可視の斬撃が一日使えなくなる。』

 つまり当てなきゃ負けってことなのか。

『その通りだ。この奥義は一日分の斬撃を「前借り」することで発動する。』

 なるほど。つまりこの奥義っていうのは単純に一日分の力を込めただけの一撃ってだけだよな?

『う、うむ。そうだぞ。』

 なんか、しょぼくね……単なるチャージショットやん。奥義っていうからなんか期待しちゃったよ。

『う、うるさい!そ、そもそも、この奥義を発動させるには少々時間がかかる。』

 要するに、力を溜めるために時間が要るってことだろ?

『その通りだ!その間の時間、我の刀は使えない。』

 つまり武王相手に使った溜め斬撃の最大強化版ってことか。尚更しょぼいな……

「ナニヨソミシテルノ!」

「グッ!」

 念話に気を取られて一瞬ガードが遅れた。右肩に少し掠っただけなのにそれなりにダメージが入る。

 そろそろ不味いな。こうなったら、いちかばちかやってみるしかなさそうだ。俺は妖刀神威を鞘に仕舞う。

「アレェ?カタホウシマッチャウノ?」

「勘違いすんなよ?一本で十分だっつってんだよ。」

「アッソウ!」

 煽られたオーウェンは、更に激昂した様子で襲いかかってくる。更に重く、速くなった打撃は魔剣ディアボロス一本では捌き切れない。

 だがそれは単純な剣術だけでは捌き切れないというだけだ。

「雷魔法!」

 眩い一閃がオーウェンを貫くが、さっきとは一転して全く減速する様子が見えない。むしろ打撃は更に重く、速くなる。高速打撃を俺も精一杯打ち返す。

 不味い、そろそろ限界がー

「あぅあぅ!」

 その叫び声と同時に魔法陣がオーウェンの足元に浮かび上がる。この魔法はー

「あぅ!」

 そう、このあまりにも見慣れた魔法陣はれいちゃんが俺を救うために発動させたものだった。

「シンジャエェエ!」

 オーウェンは足元の魔法陣に気づかず、俺にトドメを刺さんと拳を振るう。

 しかしそれは間一髪の所で俺に届かない。オーウェンの体はいつの間にか氷漬けにされていた。

「れいちゃん!ありがとう!」

「あぅ!!」

 神威!奥義の準備は?

『準備完了だ!いけるぞ!』

 完璧だ。れいちゃんの渾身の魔法のおかげでオーウェンは氷漬け。奥義も溜まった。これで仕留められなかったら万事休す。

 そんな緊張感の中、俺は妖刀を力一杯握る。そして、オーウェンの首を目掛けて、一閃。この技、名付けてー

「神斬」

 その斬撃は音速をも越える速度、そして何百倍にも跳ね上がった威力を見せる。氷漬けにされたオーウェンの首は確実に跳ね飛ばされたーかと思われた。

「ザンネェン!」

 オーウェンの頭は実に首の皮一枚で繋がっていた。ほとんど切り離されたも同然なのに動けるのかよ。

 もはや人間じゃねぇ。神斬の反動で隙だらけの俺に身を守る術はない。

「オシカッタネ!」

 オーウェンは拳を握り、俺の頭目掛けて、腕を大きく振り上げる。どうやら、これで終わりのようだ。

 死を覚悟したその瞬間、地面に響くような鈍い声が、宙を舞う。

「惜しかったのは貴様の方だよ。」

 その言葉の通り、オーウェンの拳は俺に達することはなかった。殺意を帯びた彼の俺の目先で静止した。

 なぜ?

 答えは単純。オーウェンはこの時、絶命していたから。それは一人の男の仕業ー

「バンさん?」

「ユウマ様!大丈夫ですか!」

 オーウェンの首はバンさんによって綺麗に切り飛ばされていた。しかもそれは、手刀によるもの。一瞬すぎて目で追うことすらできなかった。

 首を斬り飛ばされたオーウェンは拳を握りしめたまま力なく地面に倒れ込んだ。確実に絶命してる。

 鬼神。バンさんの姿は一瞬そう見えてしまった。

「さて、これで一件落着しましたかね。」

 先ほどまで随分ガヤガヤうるさかった会場は、不気味なほど静まりかえっていた。
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