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第9話:九里くんをさがして
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もちろん女子トイレに男の子が入って、ゆるされるはずがなかった。
担任の先生はみくの悲鳴で女子トイレの入口にやってきて、鬼みたいにこわい顔で九里くんのことを怒った。
わたしがみくたちに悪口を言われたり、髪をつかまれたことは、先生の中ではなかったことになっていた。
九里くんが女子トイレに入ったのは、わたしを助けるためじゃなくて、ただ入りたかっただけだからって。
先生は九里くんを早退させて、家族の人と話ができるまで学校に来ちゃいけないと言っていた。
そうして、九里くんが学校に来なくなって二週間がたった。
みんなは夏休みを直前にして、楽しそうしている。
わたしはみんなとちがって、楽しくない。
だって、九里くんがいないから。
九里くんはどうして先生に本当のことを言わなかったんだろう?
本当のことを言えば、九里くんだけが怒られるようなことにはならなかったはずなのに。
九里くんの話なら、先生も信じたはずなのに。
わたしは九里くんが学校に来なくなって悲しいのと同時に、先生に怒ってもいた。
先生は、わたしみたいなおとなしい子の話を信じてくれない。
もしあの場面で、わたしが九里くんはわたしを助けに来てくれただけなんだと言っても、先生はきっと信じなかったと思う。
先生はみくの「きゅーりくんがきゅうにトイレに入ってきて個室をのぞこうとした!」という説明を信じていたんだから。
うそばっかり。
先生も、みくも、みんなうそつきだ。
クラスのみんなも同じ。
さいしょは九里くんが来なくなってさみしそうにしていたのに……。
今は夏休みのことばっかりで、みんな九里くんのことなんか忘れてる。
わたしだけが、九里くんのことを考えてる。
わたしは一人で通学路をとぼとぼ歩きながら、きゅうに天狗の森へ行ってみようと思った。
実は、わたしは九里くんがどこに住んでいるのか知らない。
九里くんはわたしを家の近くまで送ってくれるけど、その逆で、わたしが九里くんの家まで行ったことはないから。
たぶん、天狗の森に九里くんの家があるんだよね?
九里くんはお父さんとお母さんはいないけど、お兄さんがいるって言っていた。
きっと天狗の森のどこかに家があって、お兄さんと二人で住んでいるはず。
わたしは家に向かって歩いていた足を止めて、方向を変えた。
目指すは、天狗の森。
大きな赤い鳥居を前にすると、やっぱりこわくて足がふるえる。
わたしは今、おばあちゃんとの約束をやぶろうとしている。
入っちゃいけないと言われている天狗の森に、自分から入ろうとしているんだから。
わたしはきょろきょろとまわりを見回した。
だいじょうぶ、だれも見てない。
ここまで来る間にだれにも会わなかったから、わたしが天狗の森へ来ていることも、だれも知らないはず。
わたしはTシャツの上から、首にかけているおまもりをぎゅっとにぎった。
本当は学校にはつけていっちゃいけないんだけど、おばあちゃんが毎日つけていなさいって言うから、Tシャツの下にかくしている。
おまもりをにぎったまま、わたしは鳥居をくぐって一歩ふみ出した。
あんなにうるさかったセミの鳴き声が、きゅうに止まる。
しん、と静かな森。セミも鳥も、鳴いていない。
自分のくつが草をふむ、さくさくした音だけがひびいている。
森の中は太陽の光がうすくて、ひんやりしていた。
外はすごく暑かったのに、ここはちがう世界みたい。
わたしの身長の何倍もある大きな木が立ってるだけの森。
湿った地面に、わたしの足あとが残る。
ハッとふり返ると、赤い鳥居は遠くに見えていた。
たしかこの前は、もどろうとしてもぜんぜん出口に行けなかったんだっけ。
たしかめるために、くるっと向きを変えて、鳥居に向かって走り出す。
鳥居はいつまでも、遠くにある。
やっぱり……! どれだけ走っても出口に行けない!
わたしはふーっと息をはいて、足を止めた。
いきおいで来ちゃったけど、こんな大きな森の中で、どうやって九里くんの家をさがそう?
まわりを見ても木ばっかりで、家があるようなかんじはしない。
どこまでも、ずっと木が生えているだけだ。
「もしかして……」
わたし、また天狗の森で迷子になっちゃった?
担任の先生はみくの悲鳴で女子トイレの入口にやってきて、鬼みたいにこわい顔で九里くんのことを怒った。
わたしがみくたちに悪口を言われたり、髪をつかまれたことは、先生の中ではなかったことになっていた。
九里くんが女子トイレに入ったのは、わたしを助けるためじゃなくて、ただ入りたかっただけだからって。
先生は九里くんを早退させて、家族の人と話ができるまで学校に来ちゃいけないと言っていた。
そうして、九里くんが学校に来なくなって二週間がたった。
みんなは夏休みを直前にして、楽しそうしている。
わたしはみんなとちがって、楽しくない。
だって、九里くんがいないから。
九里くんはどうして先生に本当のことを言わなかったんだろう?
本当のことを言えば、九里くんだけが怒られるようなことにはならなかったはずなのに。
九里くんの話なら、先生も信じたはずなのに。
わたしは九里くんが学校に来なくなって悲しいのと同時に、先生に怒ってもいた。
先生は、わたしみたいなおとなしい子の話を信じてくれない。
もしあの場面で、わたしが九里くんはわたしを助けに来てくれただけなんだと言っても、先生はきっと信じなかったと思う。
先生はみくの「きゅーりくんがきゅうにトイレに入ってきて個室をのぞこうとした!」という説明を信じていたんだから。
うそばっかり。
先生も、みくも、みんなうそつきだ。
クラスのみんなも同じ。
さいしょは九里くんが来なくなってさみしそうにしていたのに……。
今は夏休みのことばっかりで、みんな九里くんのことなんか忘れてる。
わたしだけが、九里くんのことを考えてる。
わたしは一人で通学路をとぼとぼ歩きながら、きゅうに天狗の森へ行ってみようと思った。
実は、わたしは九里くんがどこに住んでいるのか知らない。
九里くんはわたしを家の近くまで送ってくれるけど、その逆で、わたしが九里くんの家まで行ったことはないから。
たぶん、天狗の森に九里くんの家があるんだよね?
九里くんはお父さんとお母さんはいないけど、お兄さんがいるって言っていた。
きっと天狗の森のどこかに家があって、お兄さんと二人で住んでいるはず。
わたしは家に向かって歩いていた足を止めて、方向を変えた。
目指すは、天狗の森。
大きな赤い鳥居を前にすると、やっぱりこわくて足がふるえる。
わたしは今、おばあちゃんとの約束をやぶろうとしている。
入っちゃいけないと言われている天狗の森に、自分から入ろうとしているんだから。
わたしはきょろきょろとまわりを見回した。
だいじょうぶ、だれも見てない。
ここまで来る間にだれにも会わなかったから、わたしが天狗の森へ来ていることも、だれも知らないはず。
わたしはTシャツの上から、首にかけているおまもりをぎゅっとにぎった。
本当は学校にはつけていっちゃいけないんだけど、おばあちゃんが毎日つけていなさいって言うから、Tシャツの下にかくしている。
おまもりをにぎったまま、わたしは鳥居をくぐって一歩ふみ出した。
あんなにうるさかったセミの鳴き声が、きゅうに止まる。
しん、と静かな森。セミも鳥も、鳴いていない。
自分のくつが草をふむ、さくさくした音だけがひびいている。
森の中は太陽の光がうすくて、ひんやりしていた。
外はすごく暑かったのに、ここはちがう世界みたい。
わたしの身長の何倍もある大きな木が立ってるだけの森。
湿った地面に、わたしの足あとが残る。
ハッとふり返ると、赤い鳥居は遠くに見えていた。
たしかこの前は、もどろうとしてもぜんぜん出口に行けなかったんだっけ。
たしかめるために、くるっと向きを変えて、鳥居に向かって走り出す。
鳥居はいつまでも、遠くにある。
やっぱり……! どれだけ走っても出口に行けない!
わたしはふーっと息をはいて、足を止めた。
いきおいで来ちゃったけど、こんな大きな森の中で、どうやって九里くんの家をさがそう?
まわりを見ても木ばっかりで、家があるようなかんじはしない。
どこまでも、ずっと木が生えているだけだ。
「もしかして……」
わたし、また天狗の森で迷子になっちゃった?
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