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29.砦の竜人騎士は墓守少女を食べない
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長い冬が明け、うららかな春の日差しに包まれた昼下がり。
アルマは深く掘った穴の底に小さな木箱を置いた。穴の淵に手をかけて、上半身を起こす。
土をかけるためにたたずんでいたセリモッドが、わずかに顔を歪める。
「やっぱり、村の墓地へ持って行った方が……」
アルマが心配して声をかけるが、セリモッドは首を振る。
「あいつが死ぬまで、俺はここに残る。人間の俺の方が先に死ぬだろうが、その時はカルナの旦那や嬢ちゃんに、ここへ埋めてもらうさ」
セリモッドが張りのあるバリトンで告げる。
レスターが蛹と化したことで、セリモッドにかけられていた魔女の呪いは解けた。呪いが解けて話せるようになったセリモッドは淡々と、これまで夫婦に起こったことの一部始終をカルナに聞かせた。
レスターは驚異的な生命力で、鱗に閉ざされたまま生きている。セリモッドは復讐の意味も込めて、レスターが死にゆくさまを監視するために砦に残ることを決めた。
居住館の裏手に穴を掘り、これまでレスターの犠牲になった女性たちの墓地を作ることが決まった。あの地下室には複数のミイラ化した遺体や、薬品に漬けられた遺体が残っていた。
カルナが半壊した屋敷へ遺体を探しに行き、分かる範囲で個人を特定して、埋葬できる形にしてくれたことについて、アルマは少し驚いていた。
そもそも砦に墓地を作ることを提案したのが、カルナだったのだ。冷ややかに見えるが、実は錠が厚いのかもしれない。
「嬢ちゃんの母親も、いつか見つかるといいな」
結局、アルマの母親の遺体は見つけられなかった。地下室に残されていたのは、薬品に漬けられた緑の瞳だけで、母親らしき遺体はなかった。それでもカルナが、瓶に沈んだ緑の瞳を持ち帰ってきた時、それまで我慢していたものが一気にあふれ出し、カルナの腕の中で、わんわん泣いたのである。
アルマとセリモッドは穴を埋め終えて、長い祈りを捧げた。
屋敷にはまだ、遺体が残っているという。墓守として人生の大半を生きてきた自分が、こうしてまた人を埋葬することになろうとは、思ってもみなかった。
「次も埋め終えたら、鹿でも食おう。昨日、旦那と一緒に仕留めたやつがある」
セリモッドがぽつりと言った。アルマの返事を期待するような声色ではなかったため、少しだけ頷いて、新たな穴を掘る作業に戻る。
突如、吹きつけた突風が、土埃を舞い上げた。けぶる視界の中、太陽が遮られて陰が落ちる。大きな翼が立てる、獣のような羽音に、アルマは伏せていた顔を上げた。
土埃の中でも、発光する紅い瞳は見つけやすい。アルマは汚れた手をエプロンで拭い、大きな鱗に包まれた竜に駆け寄った。
「おかえりなさい、カルナさん」
―完―
アルマは深く掘った穴の底に小さな木箱を置いた。穴の淵に手をかけて、上半身を起こす。
土をかけるためにたたずんでいたセリモッドが、わずかに顔を歪める。
「やっぱり、村の墓地へ持って行った方が……」
アルマが心配して声をかけるが、セリモッドは首を振る。
「あいつが死ぬまで、俺はここに残る。人間の俺の方が先に死ぬだろうが、その時はカルナの旦那や嬢ちゃんに、ここへ埋めてもらうさ」
セリモッドが張りのあるバリトンで告げる。
レスターが蛹と化したことで、セリモッドにかけられていた魔女の呪いは解けた。呪いが解けて話せるようになったセリモッドは淡々と、これまで夫婦に起こったことの一部始終をカルナに聞かせた。
レスターは驚異的な生命力で、鱗に閉ざされたまま生きている。セリモッドは復讐の意味も込めて、レスターが死にゆくさまを監視するために砦に残ることを決めた。
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カルナが半壊した屋敷へ遺体を探しに行き、分かる範囲で個人を特定して、埋葬できる形にしてくれたことについて、アルマは少し驚いていた。
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アルマとセリモッドは穴を埋め終えて、長い祈りを捧げた。
屋敷にはまだ、遺体が残っているという。墓守として人生の大半を生きてきた自分が、こうしてまた人を埋葬することになろうとは、思ってもみなかった。
「次も埋め終えたら、鹿でも食おう。昨日、旦那と一緒に仕留めたやつがある」
セリモッドがぽつりと言った。アルマの返事を期待するような声色ではなかったため、少しだけ頷いて、新たな穴を掘る作業に戻る。
突如、吹きつけた突風が、土埃を舞い上げた。けぶる視界の中、太陽が遮られて陰が落ちる。大きな翼が立てる、獣のような羽音に、アルマは伏せていた顔を上げた。
土埃の中でも、発光する紅い瞳は見つけやすい。アルマは汚れた手をエプロンで拭い、大きな鱗に包まれた竜に駆け寄った。
「おかえりなさい、カルナさん」
―完―
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