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オーストラリア奪還計画

第二十三話「決め手不足」

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 津田穂月とアリシア班の面々は神崎定進の元へと辿り着いた。

 「先輩!先輩!起きてください先輩!」

 泣きながら津田穂月は必死に意識の無い神崎定進を呼びかけ続けた。

 「さて、神崎君のことは穂月ちんに任せるとしてあの竜追撃してるよねー。穂月ちんの強化もあるし、頑張るしかないねー。てやぁ」

 アルバートの光線レイの能力。それを使いハニカム構造の半球を作り出して周囲を囲う。それに合わせてネクが風翼ウィングの能力で竜を押し返す。付与の能力で強化されている為にしばらくは竜の猛攻を防ぎ切る事が可能。しかし、細かな調整はしにくくなっており、虫型の巨大生物に関しては通り抜けられてしまう。

 「隙間を抜けてきた虫達は、私とネメが対処します。私はアリシアに。神崎定進と津田穂月を守り抜きます。アルとネクの事は貴方に任せました」

 そういうネアの能力騎士ナイトは忠誠を違った相手を護るという特定の行動中において、自身の身体能力を強化する能力。その強化の幅は護る対象にどれだけ具体性があるかと、守護範囲の狭さに比例して大きくなる。

 「了解。アル、ネクお前らの命くらいは護るから、頑張ってあの竜は凌いでくれ」

 2人の前へと駆け出して行ったネメにも能力が強化されているのが感じられる。通常は接触した物体を消し指す事しか出来ない消失だが。今できる事として、消失のエネルギーを放つ。まるで腕の延長の様に延びるそれは真っ暗と言える黒。大きな腕の塊に延長した消失が範囲内に入る光すらも消している。

 「強化された消失…。これはまた更に嫌われそうな見た目だ」

 兎も角今は消失の能力に怯えるような者は一人もいない。存分に強化された力を振るうことが出来る。能力の腕の分それぞれ1メートル程射程を延ばした消失で光線の網を続々と抜けてくる巨大生物達を一瞬にして消し去っていく。

 「先輩!起きてください!」

 津田穂月の付与の能力の神崎定進に対する接続はまだ途絶えていない。しかし神崎定進の意識は失われている為、目の前が津田穂月が直接接触する事で無理やり接続を維持しようとしている状態になる。とはいえこのままではいずれ接続が切れて生命維持の為の身体強化も途絶えてしまう。

 今ここで何とかする事ができないか、津田穂月は自身の能力と向き合う。つい先日までは実戦に参加した事もない為、その能力を発揮する機会も少なく。わかりやすい表面上の能力しか知らない。分類と番号を振り分けられた汎用型の能力と違い。特別なコードを得た能力は研究も進んでいない為、自分で使い方を見出すしかない。

 意識の全てを集中して何か方法が無いかを探る。五感や出来事を記憶する領域すらも使って能力を行使する。津田穂月の意識は完全に能力で神崎定進を救う事だけに向いていた。

 真意の領域に深く関わる神崎定進の能力に接続している津田穂月にもまた意識の持ち様が能力に影響する。接続とは対象との繋がりであり、津田穂月がより強く繋がっていると感じる行為を行っていた。それにより神崎定進がいる意思の世界へと辿り着き、アリシア班への能力接続が消える。

 「穂月さん、いきなり何をなさるのですか?」

 能力使用の最適手である事も、殆ど意識なく行動している事も知らないアリシアには目の前の津田穂月が何故神崎定進に口付けをしていのかがわからなかった。もちろん津田穂月には何も聞こえておらずその呼び声にも気づかない。

 接続の解除に伴い、アリシア班のメンバーにかかっていた付与の強化も解ける。強化状態が解除されると訳ではなく、維持し続けられる限界よりも高い出力で能力を発動している感覚で、それぞれが感じる負荷が大きくなっていた。

 ネアとネメは直ぐに平常運転に切り替えば問題無かった。しかし、竜を抑えているアルバートとネクの方はそうはいかない。

 「あぁ、不味いな。このままじゃあ持っても数秒が限界だ。余裕もないし誰か次の策を考えてくれ」

 いつも飄々とした余裕を浮かべるアルバートも流石に今はそんな状態ではなかった。黙々と風翼で竜を押し返すネクも額に汗を流して苦しそうに戦っている。

 強化状態が切れてから2回目の竜による攻撃で周囲を囲っていた光線の半球は破れて四散する。そうなると風翼だけでは押し返すことも出来ず、竜のその首が前に立っていたネメとアルバートとネクの3人に迫る。

 その首は眩い閃光と共に目の前の所で地面へ落下する。その閃光は後から射出されたソフィアの救世主の能力の光であり、この状況を打開出来る戦力でもあった。光の柱によって大陸に押し付けられた竜の首は行き場を失って潰れて断絶される。

 「ふぅ、間に合ったかな?ボクが来たから後は任せてね」

 先刻から戦っていた神崎定進を含む誰にも断ち切ることが出来なかったその首を落として現れる。

 「救世主の能力!ソフィアちん助かったよぉ」

 アルバートが手を振って喜んでいたのも束の間、切断したはずの竜の断面が膨れ上がりあっという間に完全回復してしまう。

 「うぅん、切っても回復しちゃうのか。これは簡単には倒せそうにないなぁ」

 容易には倒せない事は判明したが、ソフィアは諦める事はない。

 「押し付けないと切れそうに無いなら、切る方は諦めるしかないかな」

 ソフィアは救世主の能力を切るためではない方法で利用する。生み出された光の柱は真っ直ぐに竜へと薙ぎ払われる。もちろんそのままでは竜を切る事は出来ないが、軽い力で押し退けられて吹き飛ばされる。

 「ボクなら何とか抑えて置くことは出来そうだね。エミリー、みんなの事は任せたよ!」

 城柵による滞留斬撃は巨大生物の足を気づかれないまま切り裂いていく。足を失ってジタバタする巨大生物達は後続の巨大生物に踏まれて動かなくなっていく。

 「さて、これで侵攻ペースは遅くなりましたが、神崎定進はこのままでは命を落としてしまうでしょう。運んで行くことも間に合わないでしょうし、どうしますか?」

 現状を打開する策がもう誰にも無かった。
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